第7章【大陸戦争編】

第69話:久しぶりの連邦首都

 帝立魔法騎士学園の期末試験が行われてから一週間後の朝、俺は公爵軍の軍事基地へ向かっていた。現在季節は丁度冬と春の中間で、まだ雪が少し降っている。前にも説明したがバルクッドは帝国内で最も降雪量が多い地域なので、普通に歩けるだけまだマシである。


「この格好も久しぶりだな」


実は今普段の冒険者装備ではなく、冒険者ユートの装備を着ている。帝国の護りはエリザに任せ、俺はこれから一ヶ月以上アルメリア連邦で調査をするのだ。

帝立魔法騎士学園の三年目は友人達と熱い青春を繰り広げる予定なので、それまでには絶対にこの争いを終わらせるつもりだ。そしてなんといっても


「レイが入学するんだ。悪い虫が寄り付かないように見張らねばならん」


学園の様々なイベントでお兄ちゃんのカッコいい所を見せ、株を爆上げする計画なのだ。まずは野外演習に冒険者枠として参加。次に実技講習に上級生枠として参加。最後に、この争いが済めば開催されるであろう帝龍祭で大活躍。我ながら完璧なプランである。


そんな妄想をしていると、早速公爵軍の諜報基地に到着した。


「お待ちしておりました、アルテ様」


「久しぶりだなマルコ」


「ええ。とても」


一年と半年ぶりに再会したマルコに案内してもらい、地下にある魔法陣に乗った。すると一瞬で視界が変わった。ここはアルメリア連邦の首都「レクセンブルク」の外れにある、カナン大帝国の諜報部合同基地である。前回は数ヶ月かけてここまで来たのに、今では転移で楽に移動できる。


「アルテ様のおかげで、忙しいとき以外は毎日家族と会えるようになりました」


「そう言ってくれると、転移の魔法陣を連邦からパクった甲斐があったってもんだ」


連邦には≪転移≫の覚醒者がいるので、情報戦では毎度の如く後手に回っていた。しかしこちらも転移の魔法陣を利用できるようになったのだ。現在その分野では互角と言っても過言ではないだろう。あまり関係ないが、転移のおかげで最近では帝国の経済や魔法科学技術も急激に成長している。転移の魔法陣様様である。


「さすがに例の用心棒さんは連れて来なかったんですね」


「ああ、セレナはダークエルフだからな。隠密・索敵・戦闘能力が世界トップクラスなのを考慮すれば絶対に連れてきた方が良いと思うのだが、万が一捕まった場合どんな目に合わされるかわからないからな」


「世の中何が起こるかわかりませんからね。正解だと思いますよ」


マルコは軽く溜息をつきながら苦笑いをした。どうせ「相変わらず過保護だな」とか思ってるんだろう。いいんだよ、それで。俺は身内には死ぬほど甘い性分なんだ。


「で?あの優秀なマルコが一年半も暗躍したんだから、かなりの情報が集まったんだろ?」


「ええ、もちろんですとも」


「聞かせてくれ」


「はい」


すぐマルコに資料の束を渡され、それに目を通しながら重要な話を聞くことになった。

まず一つ目は、アルメリア連邦が特にこれといった動きを見せていないのにも関わらず、なぜか強気なこと。この前の会議でも同じような話を聞いたが、どうやら数ヶ月経過した今でも動いていないらしい。これは要警戒だな。

二つ目は、連邦政府が冒険者ギルドにSランクモンスターの討伐依頼を沢山出していること。これも大分臭いな。絶対なんか企んでるだろ。これも要検討。

三つ目は、アルメリア連邦がカリオス教皇国と手を組んでいる可能性があることだ。ぶっちゃけこれが一番重要だな。カリオス教皇国とは、大陸の三強に入る宗教国家である。軍事力はうちに遠く及ばないが、人口は同じくらいなので油断はできない。


「あいつらも亜人嫌いだもんなぁ」


「はい。私もレクセンブルクにあるカリオス教の教会を訪れたことがありますが、司教がおかしなこと言ってましたよ。『亜人は魔物の延長線上の生き物』とか『亜人は邪悪だから駆逐しなければいけない』とか」


「あれ?でもそんな過激だったっけ?」


「カリオス教徒の中でも特に亜人嫌いの連中が連邦の教会に派遣されて、この争いに拍車をかけているみたいです」


「昔から二国は仲が良かったとは言え、そこまでズブズブだったとは...」


「最近ではまた近くの小国に『亜人を匿うのなら関税を上げる』とか脅しをかけてますね」


「どんだけ亜人が嫌いなんだよ。まったく、俺の仕事を増やしやがって」


「一応ここはカリオス教皇国の諜報部基地とも転移で繋がっているので、今まで通り調査を続けますね」


「俺も今度行ってみるわ。どんなもんだか、この目で確かめてやる」


その後、俺はマルコに考えていたことを全て伝えた。

まずは連邦の穏健派貴族の領地をもっと調べて欲しいと言った。調べるなら普通過激派貴族の領地だが、腹黒い奴はあえて逆に隠すんだよな。話を聞いてみれば、やはり穏健派の調査は後回しにしていたらしい。

次は連邦に≪魔物隷属≫や≪死霊術≫みたいな固有魔法を持つ覚醒者がいないか調べて欲しいといった。Sランク魔物の装備を作るのならまだいいが、一番ヤバいのは隷属させたSランク魔物を帝都に転移させて暴れ回られることだ。また、前世で≪死霊術≫というのがあったが、これは不死身の軍団を作れるからな。マジで勘弁してほしい。

最後は、カリオス教皇国の教皇を暗殺して、その罪を連邦に擦り付ける作戦を提案した。これはさすがにセレナに手伝って貰わないと時間が掛かりそうだな。ちなみに、今更だが教皇国のトップは教皇である。王国のトップが王で、帝国のトップが皇帝のようなものだ。


「全然話が変わるんだが、【天狼】っていうBランク冒険者パーティが今どこにいるか知っているか?」


「ちょっとわからないので、高ランク冒険者として潜入している諜報員に聞いてみますね」


「少し気になっただけだから、忙しいなら無理をしなくていいぞ」


「了解です」


リミットは後二ヵ月だ。それ以上掛かりそうなら、少し強引な手段を取るかもしれない。

俺だって学園で青春を味わいたいんだ。そもそも意味わからん理由で戦争を吹っかけて来たのはあいつ等なんだから、遠慮する必要はない。








「俺のモットーは『自由』だからな」


自由を掴むためならなんだってするさ。それがたとえ人殺しであっても。

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