第2話:この世界の仕組みと固有魔法≪光≫

実家に帰宅してから家族と夕食を済ませた後、大浴場の風呂に入りながら自身の今後について考えた。

 覚醒者は、その固有魔法と生活魔法(無属性魔法)以外使えなくなる。しかし膨大に魔力量が増えるので使いこなせれば、面倒事を正面から叩き潰せるほどの力を手に入れられる。


 この国にも他国のスパイが山ほど隠れているので、俺が覚醒したことは世界中に知られていると思った方が良い。じゃあなぜあの公の場で神父が発表したのかというと、この世界の覚醒者とは、元の世界でいう「核兵器」なのである。


 大々的に覚醒者がいると発表することで、事前に戦争を防ぐ抑止力になるのだ。


もちろん、カナン大帝国もそんな抑止力をみすみす逃すわけがない。明日には帝都から使いがきて、軍への勧誘や今後の予定の確認をされるのである。


「はあ、面倒くさ。でもカナン大帝国も覚醒者の機嫌を損ないたくないだろうから適当に相手して、しばらくは魔法と剣術の鍛錬でもするかな」


 そう。後々説明するがアインズベルク侯爵家は別名「辺境伯」と呼ばれ、他国と唯一接している。そのため、国防の要とされており、でっかい要塞があったり、戦争が起こった時に総帥の親父の独断で対処できるのである。

 他国が攻めてきたときに、いちいち帝都にいるお偉いさんたちに確認を取ってるほどの時間はない。そこまで甘くないのだ、戦争は。


 また人数も馬鹿みたいに多い。カナン大帝国軍は主に海軍と陸軍が存在するのだが、この陸軍において、アインズベルク侯爵軍は二番目の規模を誇る。

 ちなみに一番大きい陸軍は、帝都を中心に活動している帝都軍である。その規模約二十万。魔法師団十万、騎士団十万で合わせて二十万。



 このカナン大帝国は、世界で一番大きい大陸の西に位置している。そして国の西側は海に囲まれている。また東側は大きく大陸を縦断する天龍山脈に囲まれている。

 要するに天然の要塞なのだ。これがカナンが世界で三本指の大帝国に上り詰めた理由である。


 そのため、帝国に侵攻する方法は二つ。一つ目は海から攻めること。二つ目は天龍山脈にある大渓谷を通ってくるしかない。

 この国で唯一大渓谷に面してしるのがアインズベルク侯爵領であり、過去の他国の侵攻をすべて返り討ちにしているので、アインズベルク侯爵家は他とは一線を画して有名であり、皇族からの信頼も厚い。

 政治における発言権も大きいので、アインズベルクに正面切って喧嘩を仕掛ける馬鹿はいない。もしそんなことをしたら、皇族や他の大貴族からも睨まれるし、この俺が許さない。


「でも俺はどこかの軍に所属する気はないし、戦争の心配がないほど落ち着いたら冒険者として世界中を旅したいな。一人じゃ寂しいから、人間の相棒か従魔でもゲットするか」


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翌朝、早起きしたのでケイルに朝食を持ってきてもらい、ボサボサの髪を揺らしながら食べた。


 食事中、どうせ一人で話し相手もいないので、ずっと固有魔法≪光≫について考えていた。固有魔法とは、世界ではその人しか使えないので、ほかの属性魔法や無属性魔法と違って魔法書が存在しない。自分で魔法を作って行使するしかないのである。


 また、俺は属性魔法や無属性魔法を使う気満々だったので、侯爵領にある大図書館や実家にある書斎に入り浸り、ある程度の知識(本人はある程度とか言っているが、結構完璧)を持っているのである。


 そして、元魔法師軍所属の母からすでに魔力操作の方法や無属性魔法を教わっている。無属性魔法もいくつか習得したが、特に難しいと言われる「身体強化」の魔法はまだ使えない。しかし、小さい頃から親父の指揮する侯爵軍騎士団の訓練を眺めたり、たまに参加させてもらったりしているので、そのうち使えるようになると思う。


 ちなみに母も時々侯爵軍の魔法師団に顔を出しているらしい。母は元大尉なので、一目置かれているのだろう。


 属性魔法は選定の儀を受けなければ使えないので、学んだことはあまり役に立たない。でも敵と戦う上で、敵はどんな攻撃をしてくるのかを予想することは重要なので、損にはならないと考えられる。

 

「昨日寝る前にちょっと固有魔法のことを考えたけど、前世の知識と組み合わせると中々ヤバいものになりそうなんだよな」


 朝食を終え書斎に向かっていると、兄貴であるロイドと出くわした。



「おはようアル。今日も一段と髪がボサボサだね。ふふっ」


「おはよう兄貴。やかましいわ」


「そういえば兄貴、『光』って聞いたら普通何を思い浮かべる?」


「おや、優秀な弟はもう固有魔法のことを考えているのか。そうだね、申し訳ないけど太陽と月の光が存在するのと、植物が光を吸収して育つことくらいしか思い浮かばないよ」


「だよなぁ。やっぱりあまり応用が利かないかもしれないな」


「でも僕は、アルが覚醒者として超一流になると確信しているよ。ついでに侯爵家の当主も継いでくれると助かるんだけどね」


「ありがと。絶対嫌だから断るけど」


「それは残念だなあ。でも頑張ってね、応援しているよ」


「おう」


その後、ケイルと騎士団の護衛を連れて大図書館へ行き、過去の覚醒者についての資料を読み漁り、その日は終わった。

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