【書籍化】閃光の冒険者

田舎の青年@書籍発売中

第1部〈始まりの物語〉

第1章【覚醒者成長編】

第1話:始まり

俺の名前は【アルテ・フォン・アインズベルク】。世界で三本指に入るカナン大帝国の侯爵家次男として生まれ、今年で十年。


事の発端は、昨日教会で受けた選定の儀だ。


選定の儀とは、十歳を迎えた全帝国民が受けなければいけない儀式で、自分に何の魔法の適性があるのかがわかる一大イベントである。


人族は基本的に、属性魔法といわれる〈火・水・土・風〉の四つのうちのどれかに適性がある。一つしか適性がない者もいれば、四つの属性全てに適性がある者もいる。


それとは別に生活魔法(無属性魔法)が存在し、これに関しては魔力操作を練習すれば誰でも使用できる。ちなみに、魔力は生きているもの全てが持っている。


 魔力とは生命の根源であり、この世界では空気や重力と等しく、この世の理とバランスを保つために星の中心から溢れ出している。詳しくは後々話すとしよう。


また人族では稀に固有魔法といわれる、この世界でその人にしか使えない魔法に覚醒する者がいる。固有魔法に覚醒する者は覚醒者と呼ばれ、その数はごく僅かであり、およそ五百万人に一人とも言われる。

カナン大帝国民は約五億人なので、覚醒者は単純計算して百人は存在すると考えられる。



そして昨日、アインズベルク侯爵領にある教会に親父(現当主)と共に選定に訪れた。


すぐに選定が行われると、神父が驚愕した表情で、

「アルテ様は固有魔法≪光≫に覚醒しました。おめでとうございます」

と告げた。


その場には貴族を含めた沢山の人が集まっていたので、ザワザワと騒がしくなった。

 

問題はここからだ。選定を受けた時、一瞬世界が止まったかのように錯覚するほど、強烈な頭痛に襲われた。この情報は元々知っていたのだが、正直想像以上だった。

もしここで倒れたりしたら親父に心配をかけさせてしまうと思い、歯を食いしばって必死に耐えた。



そして固有魔法≪光≫に覚醒したと同時に、どういうわけか前世の記憶を取り戻し、自分が転生者だと自覚した。



前世は佐久間悠人という名前で、そこそこの大学を卒業し、二十五歳の時、事故で亡くなった。知っていて当たり前の知識や、勉強した内容は覚えているものの、家庭環境や友人などの人間関係は思い出せなかった。


綺麗にその部分だけ記憶から消えていたので、偶然思い出せなかったのではなく、必然的なものだと考えられる。



前世の記憶を思い出した瞬間、全能感が己を満たした。簡単にいうと、かなり興奮した。

それは何故かというと、この世界で魔法を使用する場合、その属性を理解し概念を把握することでレパートリーが増えたり、その魔法に必要な魔力量が減る。

つまり、前世の知識を応用することでかなりアドバンテージが得られるのである。

 

魔法の威力は基本的に魔力量に比例するので、馬鹿でも魔力量が多ければ、威力の高い魔法が使える。もちろん燃費は最悪なので、すぐに魔力欠乏状態になる。


また魔法は主に〔初級・中級・上級・超級・絶級・禁忌級・終焉級〕にレベル分けされる。


ほとんどの人が初級しか使えず、中級まで使えれば一人前といえよう。

ちなみに人族は基本的に絶級までしか使えない。長い歴史の中で禁忌級の魔法を使った人が何人か存在したが、すぐに亡くなったか、発狂して廃人になってしまったらしい。


そのため、禁忌級は超高位の魔物が超膨大な魔力量に物を言わせて使うくらいだ。


これは余談だが、カナン大帝国の魔法師軍に入るには、いずれかの属性が上級まで使えることが条件である。さらに経験や実績を踏まえて階級が上がっていき、最終的に大将まで上り詰める。

 

噂では、魔法師軍には絶級が使える魔法師が何人かいるらしい。覚醒者も在軍しているそうなので、固有魔法に覚醒しても、絶級までが限界なのかもしれない。



そして選定の儀が終わり、現在帰り馬車の中で前世の思い出と固有魔法≪光≫を噛みしめている。


隣には現アインズベルク侯爵である親父の【カイン・フォン・アインズベルク】がおり、その対面では専属執事の【ケイル】が喜びを露わにしていた。


二人ともめっちゃニヤニヤしていた。もうルンルンである。


「いやぁ、昔からアルは他貴族の子女とは一線を画して優秀だとは思っていた。しかしまさか、固有魔法に覚醒するとはな」


「さようでございますな御当主様。固有魔法の覚醒者は魔力量が大幅に増えるのと引き換えに、他の属性魔法が使えなくなるというデメリットがありますが、それを考慮しても強力なものです」


「でもそれは使いこなせればの話であろう?」


「アル様なら必ず使いこなせると確信しております」


「そうだな。余計な心配だな」


「二人とも暢気だねぇ」


「そういうな、アル。話は変わるが選定の儀の時の頭痛は、倒れるものが多くいるほどひどい。よく耐えたものだ」


「だって倒れたら親父とケイルが心臓発作で死んじゃうじゃん」


「その通りだな!ハッハッハ!」


とグダグダ話しながら帰路につくのであった。


帰宅後には、実の母で侯爵家の夫人である【アリア・フォン・アインズベルク】と実の兄であり次期当主の長男【ロイド・フォン・アインズベルク】、実の妹であり長女の【レイ・フォン・アインズベルク】が覚醒者になったことを大喜びしてくれた。



親父と母さんは重度の親バカであり、それを継いだのか、俺たち兄妹も非常に仲がいい。兄はとても穏やかで器が大きく、魔法や剣術は苦手だが周りに信頼されている。


妹に関しては、小さい頃から家族で甘やかしまくったので、俺たちと両親にとても懐いている。


また、親父と母さんは共に三十五歳で、兄貴が十二歳、俺が十歳、妹が八歳である。


ちなみにそれぞれ全員に専属執事か専属メイドがついており、俺の専属執事である【ケイル】については御年六十二歳である。


父は昔、カナン大帝国の近衛騎士団に勤め、現在は総勢十万人が所属しているアインズベルク侯爵軍総帥をしている。母は帝都魔法師軍に所属していたが、大尉まで上り詰めた後、結婚を機に退役し、子育てに専念している。二人ともめっちゃすごいのである。


俺は次期当主になるつもりはなく、兄貴にすべて押し付けるつもりだ。



しかし、家族や使用人たちはとても大切に思っているし、領民にも感謝しているので、戦争が起きたら全力で戦うと決めている。

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