最強にして最弱の彼女……と、ふつうのボク

真っ逆さま

第1話 最強のプレイヤー

     1.最強のプレイヤー


 ボクはプロゲーマーを目指す、高校生だ。

 でも、ここまで紆余曲折があった。両親は当然、反対。しかしボクの決意と、熱意をこめた説得に、両親はある条件をだした。

 まず指定した高校に入学すること。そうすればパソコンを買って、ゲームすることを赦すし。その高校を卒業することができれば、後はボクの人生なので好きにすればいい……と。

 しかし、それが超難関として知られる、誠忠節工科学院――。

 実は、両親ともその学院の卒業生であり、それだけはマストの条件として示されたのだ。

 中学のころはゲーム禁止。遊びも異性への興味も断ち切って、とにかく必死に勉強をしたけれど、不合格となった……。


 しかし一年間、高校受験のために浪人し、晴れて一年遅れだけど入学することができた。

 ただし卒業までが条件なので、ぎりぎりで入学できた身であり、落第しないように頑張るしかない。

 一先ずパソコンを買ってもらえた。ただしそれは、ゲーミングパソコンというほどの高スペックではなく、ごく一般的なスペックである、家族が共用するためのノートパソコンだった。

 それでも家族がつかわないときは占有でき、ほとんど自分専用なので、一先ず満足する。パソコンなんて、学校でタブレットをつかって以来、ふれたことすらなかったからだ。

 それなのにプロゲーマーを目指そうと思ったのは、スマホのゲームではそこそこの成績を収めていたからだ。もっと勝負したい……と考え、遅いデビューだけれど、今はスタートラインに立てた気分だった。


 まず〝Dragon’s Ferocity〟(通称DF)を始めた。

 これは無料でもそこそこに整う装備と、ゆるい協力プレイという、初心者に優しい設定。そこに高度な操作性を必要とする、ネットゲームの入門編として、高い評価をうけるゲームである。

 製作会社が儲かりそうにないけれど、DFを導入として、ここから本格的なネットゲームに誘導する目的だ。

 このゲームは本格的なガンアクション、シューティングに軽い魔法要素も加えた、竜との戦闘を目的とする。

 バース大陸……という架空の島に竜がうろうろするので、それを狩って、退治していくのがゲームの主眼だ。ただ特にイベントもなく、退治しても経験値が上がることもないし、クリア報酬もない。ただ僅かなお金が入るので、それで次の狩りをするための準備をする、その繰り返しだ。

 基本は単独プレイで、チャット機能もない。同じ画面内にいると話しかけることができるけれど、ギルドといったまとまりは特にない。ただ他人が戦闘しているとき、手助けすることができ、そのときに軽く挨拶するぐらいの、緩やかなつながりが特徴だった。

 勿論ボクも、ここで操作性を覚え、本格的なゲームにすすむまでの、練習のつもりで始めた。


 DFは基本、軽くて低スペックパソコンでも遊べるけれど、ノートパソコンでは時おり問題が生じる。

 それはグラボといった、ネットゲームに必須のものが、CPUにオンボードされた簡易版でしかないので、当然のこと。

「くっそ~ッ‼ 大事なところでコマ落ちかよ!」

 ライフル銃を連射し、あと一歩で……というところで、熱によりノートパソコンが悲鳴を上げるのだ。

「もうちょっと……もう少し耐えて……」

 一部でカクツキ、操作性が悪化する中、最後の仕上げにとりかかる。でも、手榴弾も残り三つ、マガジンも一つ、これではギリギリ、足りるかどうか……。

 そのとき、竜が力を溜めはじめた。

 マズイ……、死に物狂いの、最後の攻撃がくる!


 瓦礫の影へと隠れた。全身に生えた鋭い棘が、弾丸のように襲ってくる。

 竜にはその種類によって、固有の攻撃パターンがある。数分おきに棘を放つこいつはスローン・リザード。スローン種は弱点が少なく、体力を削りきるパターンだ。ダメージは頭、足、腹の順となっており、正確に頭を狙っていけば……。

 ただ問題は、竜は自分が危なくなると逃げる点だ。攻撃をうけて、ただ隠れているだけだと、急に走って逃げる。攻撃する意思を示しつづけ、相手の注意をひかないといけないのだ。

 ノールックで手榴弾を投げる。勿論これは竜の注意をひくため、棘によって途中で破裂したことを確認し、つづけてもう一つ投げる。その爆炎にまぎれて、物陰から飛びだした。

 残り一つのマガジンで、効果的に相手の頭に珠弾を当てつづけて体力をけずりきれば勝ちだ、

 そう思ったが、コマ落ちしたノーパソで操作がずれた。

 まずい! 銃を構える暇もなく、棘が飛んでくるのが見えた。

 間に合わない……。死ぬと、三日間の罰退と、プロフィールに髑髏マークがつく。これは名誉の称号であって、ついているからといって何か問題があるわけではないけれど、プロをめざす人にとっては嬉しくない。ここで整えた装備で、次のゲームのスタートダッシュを……と考える人には、絶対についていてほしくないものだ。

 こういうとき、画面がスローモーションとなる。これは演出、棘が刺さったときに画面が赤く染まって、ジ・エンド――。


 終わった……。こういうとき、実体のボクは目を閉じられず、凝視することしかできない。

 操作も受け付けず、死を受け入れろ……と言わんばかりに、棘が迫ってくる。折角ここまで頑張ってきたけれど、これを捨てアカウント、キャラ放棄をするしかないのか……。

 そのとき、棘に向けて、横から銃弾が飛んできて、それを弾く。その瞬間、画面のスローモーションが解けて、元にもどった。

 これは助かったサイン。ボクも何が起きたか分からず、銃弾が飛んできた方に目をやる。するとそこには、超長距離で、対戦車ライフルを構え、腹ばいになって照準をしぼるプレイヤーがいた。

 次の銃弾が、竜の眉間を貫いた。それと同時にスローン・リザードの体力はゼロとなり、討伐に成功した。

 凄い……。威力のある銃を、正確に当てることは難しい。まして、飛んでいる棘に中てるなんて、神業だ。しかも彼女が竜にトドメをさすだけなら、ボクを助ける必要なんてなかった。竜を倒すと、協力プレイをした者すべてが同額の報酬をうけとれ、独り占め……と発想することはない。でも、倒されそうなプレイヤーをわざわざ助ける義理はなかった。


 近づいて〝ありがとう〟と話しかけるが、その名称に驚いていた。

 リアード――。あの〝リアード〟? まだこのゲームを始めたばかりのボクでさえ知っている。伝説級のプレイヤーだ。

 すでにこのキャラを引き継いで、別のゲームでプロとして活躍しており、優勝することも多い。飛んでいる棘を、銃弾で撃ち抜くなど、その伝説とされる一端をみせてもらった気分だ……。

 時おり、DFに再臨する……との噂も聞いていたけれど、会ったのはボクも初めてだった。

 少女のような形態だけれど、ここではキャラと中身は別、が多いそうだ。ボクは男性タイプだけど、筋力、体力にややパラメーターが上がり易い。女性タイプだと素早さ、正確さのパラメーターがあがり易い、といった違いがある。スナイパーを目指すなら、女性タイプの方が有利で、そういう自分が目指すタイプによって、性別を使い分けるのが常識だ。

 ボクは死にかけた……といった緊張が一気に弛緩して、また憧れだった相手を目の前にして、思わずこう尋ねていた。

「プロって、楽しいですか?」

 そんな不遜なボクの問いかけに、気分を悪くしたのか? リアードは無言のまま、無視して遠ざかっていった。

 恐らく何万回も聞かれた質問だろうし、リアードは偏屈として知られる。不躾な質問をしたボクも悪いし、黙ってその背中を見送ったけれど、プロの技をみることができて、ボクの興奮も止まらなかった。

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