答え合わせだけは得意だった

@MeiBen

答え合わせ


問題があるだろ?

数学でも地理でもなんでもいい。問題が出されていて、答えを考えるんだ。でも、全然分からない。考えて、考えて、考えるんだけど、やっぱり分からない。仕方なく答えを見るんだ。そしたら、たちまち分かる。答えだけを見たら分かる。解説は見なくても、どういう問題だったかが分かるんだ。どうやって考えればよかったかが分かる。

いつもそんな感じだった。答え合わせをしたら分かる。でも、答え合わせをしないと全然分からない。だから、たくさんの問題にあたるしかなかった。答え合わせをした問題でないと解けないんだ。でも、受験勉強はそれで乗り越えられた。問題集には必ず答えがついていた。考える時間を決めて、それ以上は時間をかけず、答えを見る。そんな感じのやり方で、たくさんの答えを理解していったら、ある程度の偏差値の大学に合格した。でも分かるだろ?受験勉強はそのやり方で上手くいくけど、他のことは無理だ。答え合わせしないと何も分からない奴がその先の人生でどうなると思う?



部下が仕事を辞めた。なぜか?すぐに分かった。

孤独だったんだ。オレのグループは2人だけだった。元々3人いたけど、1人辞めて2人になった。でも、それは何も気にしていなかった。気に食わない奴だったからだ。仕事は適当だったし、口ばかり偉そうで碌な仕事をしなかった。正直に言って邪魔だった。だから、オレはそいつが辞めても何も思わなかった。2人体制になっても、大きな困りごとはなかった。十分にやっていけると思ってた。だけど、やっていける気でいたのはオレだけだったんだ。

部長に呼び出されて、部下が辞めることを聞かされた。理由はすぐに分かった。部下は仕事に情熱を持っているタイプでは無かった。指示されたことを淡々とこなすタイプ。やりがいのある仕事を与えてやれなかったからではないと思う。給料だろうか?うちの会社の給料は高くはないが、低くもない。それに、昇給のために仕事を頑張るタイプでもなかった。

正解は孤独だ。思い返せば、もう一人の部下が辞めてから、明らかに独りの時間が増えていた。オレも自分の仕事を黙々とこなすタイプで、積極的にコミュニケーションを取りはしなかった。周りのグループは対照的だった。10人ぐらいで、みんな仲良くワイワイと仕事していた。そんな明るいグループの傍で、オレたちは黙々と仕事していた。オレはそれでよかった。立場上、オレには別の部署とのつながりもあった。完全に独りになることは稀だった。でも部下は違う。仕事でまともにコミュニケーションを取る相手はオレぐらいだっただろう。その上、オレは会話を最小に抑えようとする。部下から話しかけてくる機会がどんどん減っていっていた。仕方なく、ルールを決めて、お昼休み後に定例会議を設けたりもした。でも、それは意味がなかった。部下が必要としていたのは、それでは無かっただろう。

じゃあ、どうすれば良かったか?答え合わせをした今なら分かる。友達であればよかったんだろう。部下を孤独にしない方法の一つだ。そうすればよかった。でも、出来たか?それがオレに出来たか?たぶん無理だ。またオレは同じような問題で、同じような結果に至るんだろう。

答え合わせだけが得意なオレは独りぼっちになった。



彼女は自分の容姿を卑下していた。なぜか?オレが何度もそう言ったからだ。おっとりとした落ち着いた性格の人だったが、暗い性格の人では無かった。彼女が大声で怒っている姿を見たことはなかった。とても賢い人だけど、謙虚で努力家だった。オレの恋人にはもったいない人だった。

別れ際だ。オレから別れ話を切り出した。彼女は泣いて嫌がってくれた。オレは嬉しかった。もうこれっきりだと告げた後、彼女は言った。

自分のような容姿の醜い人間と付き合ってくれてありがとう。

彼女は自分の容姿を気にしていたんだ。オレは全然気づいていなかった。自分の持っているものに十分に満足している人だと思っていた。でも、彼女はそう言ったんだ。自分のことを醜いと言ったんだ。答え合わせは得意だから、すぐに理由に思い当たった。オレが何度も彼女の容姿を馬鹿にしたんだ。オレが何度も彼女の容姿を笑いものにしたんだ。彼女はいつも笑っていたから、気にしてないと思っていた。でも、ちゃんと気にしていたわけだ。オレは何気なく彼女を傷つけ続けていたんだ。それが分かった。答え合わせをした後で。つまり、散々彼女を傷つけた後だ。ようやく答えが分かった。今度はちゃんと気付けるか?彼女の気持ちに、相手の気持ちに気付けるか?

無理だ。またオレは同じような問題で、同じような結果に至るんだろう。

答え合わせだけが得意なオレは独りぼっちになった。


彼女はオレに振り向かなかった。なぜか?オレが孤独だったからだ。オレがどうしようもないほど孤独の沼にはまっているからだ。彼女は素敵な人だったけど、でも時折暗い影が見えた。オレは彼女のその影に惹かれた。オレと同じ匂いを感じたんだ。同類の匂い。孤独な者の匂い。分かり合えると思った。でも、知れば知るほど無理だと分かった。彼女は孤独に向き合って、孤独を克服していた。孤独に向き合って、孤独にならないように努力して友達との関係性を築いた。彼女の周りには人がたくさんいた。彼女はオレにも手を差し伸べてくれた。でも、無理だった。彼女はオレから離れていった。答え合わせは得意だから、すぐに理由に思い当たった。オレが彼女に求めていたのは、関係性なんかではなかった。この孤独の沼に一緒に浸ってくれる人だ。オレは彼女をこの沼に引き込もうとしていただけなんだ。彼女はそれに気付いただけだ。気付いたなら離れていくのが当然だ。

よかった。また答えが分かった。これで、次は関係性を築いていけるはずだ。今度こそ、オレに振り向いてくれるはずだ。

無理に決まってる。誰が相手でも同じだ。またオレは同じ結果に至るんだろう。

答え合わせだけが得意なオレは独りぼっちのままだ。



もうだいたい分かってる。死ぬ時。死ぬ時にオレはもっとたくさんのことを理解する。たぶん、その時は完全な独りぼっちなんだろうな。


考えるんだ。考えてるんだ。でも分からない。教えてほしい。答えを知りたい。全ての答えを知りたい。でも答えが分かる時はいつだって手遅れだ。


終わり

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