第49話 生きる理由
「嘘だ‼」
百合亜の悲鳴に、羽衣と綺心はなにも言えずにただ百合亜を見つめていた。目が見えず、百合亜の様子が見えない鮮巳ですら、その叫び声に呆気に取られている。
「嘘よ、嘘、嘘だ、そんな……‼ 嘘……‼ じゃあ、私たちはなんのために……‼」
頭を抱え、ガタガタと震えていた百合亜から唐突に力が抜け、落下しそうになって、慌てて飛んで来たヒューがそれを支える。
「私は……ミカエルのために生きていたのに……‼」
「え?」
綺心が思わず声を上げる。百合亜はボロボロと涙を流しながら、震える声で言った。
「ミカエルがいないなら意味がない……私は、私は……ミカエルが首のために存在するから、首のために存在したのに……ミカエルが死んだなら……もう、四大天使なんていらない……」
「……ガブリエル……あなたは……」
「……神の人ガブリエルは、首の言葉を聞く天使……私……あんな神、大嫌い……」
百合亜が「ミカエル……ミカエル……」泣き崩れる。羽衣は今にも泣きそうな表情を浮かべ、綺心は思わず百合亜から目を逸らした。
「水を差して悪いのですが、ちょっとマズイ状況です」
口を開いたのはサタナキアだ。
「マズイ状況?」
「悪魔が天に昇ってきています。このままでは、メタトロンが神を交代する前に、天が壊れるかと」
「悪魔⁈」
「しかも上級悪魔が集まっています。これを好機と思ったのでしょう。天が壊れては、すべては水の泡。メタトロンが首を殺すまで、悪魔の相手をせねばなりません」
「悪いが、私はガブリエル様を守らねばならない」
百合亜に寄り添いながら言ったのは友音だった。
「僕たちを殺さなくていいのかい?」
「……四大天使が四大天使であることを放棄した。私だって天使が死ぬのは嫌だ」
その時、ずっとミカエルの名を呼びながら泣いていた百合亜がバッと顔を上げ、サタナキアに向かって叫んだ。
「殺して‼ 殺してください‼ 堕天使なのでしょう⁈ お願い……‼」
「ガブリエル様……‼」
「ミカエルがいない世界など、生きている意味がない‼」
百合亜の必死の表情に、サタナキアが表情を歪める。そして、首を横に振った。
「できません」
「どうして⁈」
「ミカエルが最後にルシファーに頼んだのです。他の四大天使に手を出さないでくれと」
百合亜が大きく目を見開く。そして「ああ……」と泣きながら笑った。
「あなたは……一緒に逝くことも許してくれない……酷い人」
「ガブリエル様‼」
百合亜の身体から力が抜け、友音が慌てて抱き留める。ヒューが涙を流しながら百合亜に縋り付いていた。
「サマエル。ハニエルとアリエルを守ってくれ」
「はい」
「え? 鮮巳ちゃん、まだ助けてくれるの?」
「ガブリエルが意識を失ったということは、聖域から私たちが追い出されるということだ」
「……ん?」
「四大天使の聖域は、招かれた者しか入れないのだよ」
次の瞬間、羽衣たちは上級悪魔に囲まれていた。
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