第14話 能天気

「羽衣はいいよ!」


 響いた羽衣の声に、部屋の中はシンと静まり返った。沈黙を招いた羽衣だけが不思議そうに「あれ?」と首を傾げている。


「え、ええええ⁈ い、いいのですか⁈」


「うん? 羽衣はいいけど?」


「羽衣……」


 逆に驚いている恵慈は口をパクパクさせ、綺心は額を押さえてため息をついた。グレイシスが「やっぱりこの小娘を仲間にするべきじゃなかったわ」と苦言を呈する。輝星は楽しそうに笑っていた。レオが羽衣の目の前に飛んでくる。


「羽衣‼ そうやって後先考えずに答えるんじゃない‼ わかってるのか⁈ 七大天使の席はあと三席なんだぞ‼ 仲間を増やせば、仲間同士で殺し合いになるんだ‼」


「でも、輝星ちゃんは気にしてないんでしょう? ちょうど、三人だよ?」


「誰が裏切るかわからないんだぞ‼」


「誰も裏切らないよ‼」


「あ、あああ、あの‼」


 恵慈が大きな声を出し、全員の視線が恵慈に向く。恵慈がその視線に一瞬怯んで「ひっ……」と声を上げた。


「え、ええっと、その……‼ わ、私、自分に自信がないんです……‼ あ、あがり症だし、ひ、人と話だけでお腹が痛いし、なにも取り柄がなくって……‼ だから、七大天使になったら、じ、自分に自信が持てるんじゃないかって、思って……‼ み、皆さんの足は絶対に引っ張りません‼ だから、どうか……‼」


「い、いやあ、そういう話じゃなくってさぁ……ほらぁ! 羽衣が余計なこと言うからぁ!」


「いいじゃん! お友達になってあげようよ!」


「と、友達……?」


 恵慈が困惑の声を上げたその時、綺心の咳払いで騒いでいたレオと羽衣が黙った。


「七大天使になりたくて、僕たちの仲間になりたいってことでいいのかな?」


「は、はい……‼」


「まぁ、いいんじゃないかな。羽衣も歓迎しているようだし」


「ハニー‼」


「裏切って僕たちに決闘を仕掛けてくる度胸も、技量もないんだろう? 心配ないよ、グレイシス」


「ジェレミエルを~悪くいうのは~やめて欲しいんだよね~?」


 いつの間に起きていたのか、マーシーが綺心の目の前に飛んで来た。グレイシスが警戒を露にし、身構える。


「これでも~覚醒はハニエルより早かったし~? 戦闘能力がないだけで~サポートには適してるんだよ~」


「へぇ……。じゃあ、存分に僕たちの力になってもらおうか」


「マーシー‼」


 恵慈が慌てた様子でマーシーを両手で掴み、マーシーが「グエッ」と声を上げた。


「な、ななな、波風を立てないでくださいぃ……‼ 私は皆さんの仲良くなりたいんですぅ……‼」


「わかった~。わかったよ~」


 恵慈にゆすられながらマーシーがのんびりと答え、難なく恵慈の手からすり抜けた。すると、マーシーが逃れた恵慈の手を羽衣が掴み取った。


「うん! 恵慈ちゃん! 羽衣たち、お友達だね!」


「お、お友達……ですか……?」


「羽衣……一応、先輩なんだけど……」


「い、いえ! 敬語なんて使わないでください……‼ 私がお世話になるわけですし……」


「丸く収まったカナ? それじゃ、よろしくネ! ジェレミエル!」


 ずっと黙っていた輝星が唐突に声をかけ、恵慈が「え⁈」と声を上げた。


「チャミエル……最初からわかっていたんだろう?」


「だからなにも言わなかったヨネ?」


 輝星が不敵に笑い、綺心が小さくため息をついた。

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