月は太陽に恋をする。

懋助零

第1話 月に住む姫


昔話の竹取物語。


そこに出てくる、かぐや姫。


かぐや姫の物語を読む人は皆、美しくて儚い物語だと思うだろう。



……だが、私はそうは思わない。

というより、思えないのだ。




何故なら私はあの可憐で美しいかぐや姫の本当の姿を知ってしまっているから。


少し説明すると、私は月で生まれた。

生まれも育ちも月である。


そして、あのかぐや姫は私のひいお祖母様なのだ。


ひいお祖母様のことはお母様やお祖母様からもう耳にタコができるほど聞かされた。


勿論、地球でひいお祖母様がモデルとなった竹取物語というお話ができたことは我々月に住む人々にも伝わっており、その物語は嘘だ、かぐや姫がこんなに美しいわけが無い。と、批判の声が殺到したそうだ。


それも、ひいお祖母様は見た目は本っ当に美しかったらしいが、性格はもう…………

酷かったらしい。


ひいお祖母様は、月の王国の姫であったため、それはそれは甘やかされて育った。


密かに「我儘姫」と呼ばれていたらしい。



そんなひいお祖母様の血を受け継いだ私の名前も、かぐやだ。


由来は顔が似てるかららしい。

出来れば一緒にしないで欲しかったのだが。


そして今日、私はこの月の王国の姫となる。

今までは城に住むただの上級階級の人と言うだけだったが、15歳になった今、姫となるのだ。


あのひいお祖母様の血を引いているから。



あまり気持ちは乗らないが、兎 と呼ばれる召使いに準備されたドレスを身にまとい、城の上の方の出窓に立つ。


「ふぅ……」


人がぞろぞろと門を潜り、城の前の広間に集まっている。


私も遂に姫になるのだ。性格だけは、曲げないようにしないと…………


そう覚悟してから、城の広場に向かった。



コツ、コツ、コツ……


私の足音が、静まり返った城の中に響く。

そんな中、もうひとつの足音が後ろから聞こえた。


誰だろう、と不思議に思い振り返ると、そこにはお母様がいた。


「お、お母様……!!調子は如何です??」

「私は大丈夫よ、それよりも式まであと少ししかないわ。急ぎましょう、かぐや。」

「は、はい。」


急にお母様が現れたため、体が強ばる。

余計に緊張してきた。

階段を降りると、ついに式が始まる。

私は深く深呼吸をし、背をただし、喝を入れた。


私はこれから国の姫となる。

恥じない行いを、心がけていかないと行けない。


兎達が、一斉に城の中で1番大きな正面のドアを開けた。


私は、堂々と真ん中に立つ。



私が、第一声として、「皆様、ご機嫌いかがですか?」といおうとしたとたん……



「今日から王国の姫であり、私の娘のかぐやは、地球で3年間、修行を積む事となりました!皆様、どうかご声援をよろしくお願い致します……」


国民から盛大な拍手と歓声が起きる。

ものすごい音量だ。


そして、城のドアの上にあるバルコニーで、王国精鋭のオーケストラが、ファンファーレのようなものを吹き始めた。


「っ!?」


こんなの微塵も聞いていない。どういうことだろうか……


私は気持ちを抑えきれずに、国民の前だというのに驚きを隠せずにお母様の方を向く。


『目を見開きすぎよ、かぐや。』

お母様がコソコソと私に耳打ちをした。


『いや、私こんなの聞いていません……どういうことなのですか、地球に行くって。』

私はお母様にコソコソ話で返す。


『あら、言ってなかったかしら?この国の王族は、15歳になったら決まって3年間地球で修行を積むのよ。姫になるのはその後。』


んーーーー!?

私はどうやら大きな勘違いをしていたようだ……


地球に行けるのは嬉しいが、いきなり過ぎて気持ちが追いつかなさすぎる……。


『それは、いつ頃出発するのですか??』

今日だったらどうしようかと、少しソワソワする。


『今日の夜ですよ。さあ、貴方はスピーチをして、早く準備をなさい。』

お母様はそれだけ言って、私に話を振った。


急すぎるでしょ、夜なんて!そう慌てている私を横目に、お母様は話を続ける。


「皆様、姫の言葉をお聞きください。」

お母様が私に目配せしてウインクする。

急に言われても何を話せば良いのか分からないのだが……!!


私はヴヴんと喉を鳴らしてから、1歩前に出て、国民の目線を引く。


そしてゆっくり、口を開く。


「皆様、ご機嫌いかがですか??私、かぐやは今日、遂に地球へ旅立つ事となりました。3年後、私が皆様の元へ帰る時には、もっと立派な人となっていることを、皆様とお約束致します。どうか、応援をよろしくお願い致します……。」


私がそう言い終えてお辞儀をした途端、またしても大きな拍手と歓声が響き渡った。


咄嗟に文を作ったが、まあまあ形になっていたので良かった……

私がそう安堵していると、お母様がぽんと背中を押した。


「さあ、準備をするのです、かぐや。」

「はい、お母様。」


私はついさっき通った道を通り、自分の部屋へ向かう。

今日の夜に地球へ行くのか……不安だな、と、改めて思った。


部屋の重たい扉を開けて、自分の背の2倍は横幅のある大きなクローゼットから、バッグを取り出す。


お母様のおさがりの、なんでも入るバッグだ。

どうも、中が4次元に繋がっているらしい。


地球ではやっているアニメのキャラクターを模して作られたそうだ。


私はその中に、ドレスや靴など、使いそうなものを詰め込んだ。


そして最終チェックをしていた所で、扉をコンコンと誰かが叩いた。


「どなた?」

「姫、入ってもよろしいでしょうか??」

「あぁ、兎ね、入りなさい。」


「失礼します。」

ギギィと音を立て、扉が開いた。

兎は、見知らぬものを手に持っている。


「お母様から、地球ではこれを着なさいとの事です。"制服"と"私服"でございます。」


「聞いた事ない名前ね……まぁいいわ、ありがとう。」

「それでは私は失礼します……」


"制服"というものを手に取った私は、ふと思った。


「ちょっと待って!……どうやって着るの?」


扉を開きかけていた兎の手が止まった。

そして振り返って言った。


「お教えします、そこで少しお待ちください。」

「あ、ありがとう……」


ドレスとは全く作りが違うので、"制服"をもったまんま戸惑ってしまった。

兎は慣れた手つきで、"制服"を私に着せていく。

「なるほど、こうやるのね……」


慣れないからか、なんだかゴワゴワした感じだ。

「本当にこれで合ってるのよね?」

「はい、合ってますよ……懐かしい。」


兎がボソッとそういった。

「懐かしい??」

「あぁ、いえ、違います。それでは私はこれで。」

「ありがとう!!」


懐かしいとはどういうことだろう、私はそう思いながら、さっき着せてもらった"制服"を脱いだ。


そして"私服"と一緒にバックに詰めた。

「本も、あったらいいかしら。」

私はお気に入りの本3冊も入れた。

これでバッチリだ!


「準備OKよ!!いつでもドンと来いだわ!」

私が立ち上がって思いっきり右手で胸をバンッと叩いた瞬間、またしても扉が開いた。


「「「姫、地球へ向かいましょう!!!」」」


十数人の兎達が私を雲のようなものに乗せる。

戸惑いながらも私は雲の上に乗った。


ふわふわしていて、気持ちがいい。


兎達が雲を持ち上げた途端、ふわりと浮いた。

「わぁ……浮くのね、これ。」

「そうです、さぁ!!地球へ出発です!!!」

私はなんだかウキウキして来て、雲の上で鼻歌を歌った。


雲は城を出て、国の街並みを越え、クレーターの上を過ぎ、やがて月が見えなくなる。

夜空には無数の星、惑星が広がっている。


「綺麗…。私達はこの星たちを見て生活していたのよ……、手に取れるほど近くにあるなんて、なんだか素敵ね……」


思わずポロリと独り言を零して、手を伸ばす。

星は、近くで見てもキラキラと輝いている。

私は星を眺めながら1つ、疑問に思った。

「この星、自分で光を発しているのかしら?それとも……」

そこまで言いかけた途端、眩しすぎるほどの光が目に入った。

「ま、眩しい……!」

頑張って目を開けて見ると、そこには、一際大きく、輝きも他の星とは比べ物にならない程の惑星があった。


私はハッとなり、バッグから本を一冊取り出す。

天体についての本だ。

ページをペラペラとめくり、1つのページで手を止める。

「これ、これだわ……太陽よ!!!」


本に載っている絵どおりの見た目だ。

説明もその通り、そして載っていないことで、この惑星、太陽の近くはものすごく暑いということも分かった。


「ふふ、私、太陽についての情報の第1発見者になっちゃったわ!!」

なんだか嬉しくなって、手を伸ばしたが、兎に停められた。

「姫、太陽には触ってはいけませんよ。」

「そうなのね……わかったわ。」

なぜかは分からなかったが、多分暑いからだろう。


そんなこんなをしているうちに、地球が見えてきた。

太陽とは違い、青と緑、そして所々に白がある、美しい惑星だ。


「私はこれから3年間……ここで暮らすのね……!!!」




私の地球での生活が、今、始まる。





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