偽・神・殺

灰色時計

終焉と始まりの少女


「足りない…」


目に映る何もかもが焼けただれ、崩れ果てたその世界で

男はひたすらに集め続ける


「足りない足りない足りない」


拾い集める、美しく艶やかな黒髪だったもの、やわらかにけぶる金髪だったもの


「ああ…足りない」


かき集める、狂ったように集め続ける


不器用にほめてくれた、凛々しくも美しかったもの

やわらかく受け止めてくれた、やさしく美しかったもの


それらはすべて散り散りになり一帯に降りそそぐ


守りたかったものに守られてしまった

その後悔に苛まれながら男はただひたすらに集め続ける


男自身の心も体も傷ついていた、限界などとうに超えていた

最後に見たものは笑顔だったはずなのにそれを思い出す余裕さえない


追いつめられた心はさらにひび割れていく


「ああ二人分なのに一人分にもならない……」


男ははたと動きを止めて笑顔を浮かべてつぶやく


「……そうか…足りないのなら足せばいい…」


男はするりと虚空から剣を取り出すと一分の躊躇も無く自らの左腕を切り落とした


左腕は音を立てて男が集めたものの上に落ち、傷口からだくだくと流れ出る血もその山を染め上げていく


男は満足したように微笑みながら跪き、その山を愛おしそうにかき抱く

なおも流れ続ける血は不思議と広がらず意思を持っているかのようにその山の周りに留まり続ける


疲労と出血で男の意識が遠のく

その狭まる視界の片隅で何かが蠢いたのは気のせいだっただろうか


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どれくらいの時間がたっただろうか


男は目を覚ますと、まじまじと切り落としたはずの左腕を見つめる

焼けただれ壊れ果てた周囲の世界と対照的な”傷ひとつ無い左腕”を


あれは夢だったのだろうか?

いや、夢ではない、そのことを思い知らせるかのようにその腕には恐ろしいほどに存在感が無かった


男は気づく、もうひとつ無くなっているもの


それは必死でかき集めた”大事なもの”だったもの

それが幻だったように掻き消えていた


血の跡すら残さず忽然と消えてしまったその場所に1人の幼い少女がたたずんでいた


初めて会うのに懐かしい、他人のはずなのにつながりを感じる

そんな不思議な感想を抱かせる、栗色の髪の愛らしい少女だった



その少女は男を見つめながら首をかしげ栗色の髪を揺らしながら一言「パパ?」と笑顔で言った




その世界に「神」はもういない


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