セヴンミッチェルグランドエレーナ

エリー.ファー

セヴンミッチェルグランドエレーナ

 今から嘘をつこうと思います。

 まぁ、意味のない嘘です。




 あるところに女性がいました。

 非常に美しい方で、多くの人を魅了しました。

 けれど、三十歳という若さで死んでしまいました。

 美人薄命とはよく言ったものです。

 ある時、彼女の墓に赤いペンキがかけられました。

 遺族は怒り狂いました。一体、誰が行ったのか、そして、どんな意図があるのか。

 しかし、犯人は捕まりませんでした。

 それから数十年が経過すると、女性のことなど誰の記憶からも消えてしまいました。

 決して、悪人でもなく、ましてや影の薄い存在でもなかったというのに、皆、興味を失ったのです。

 そんなある日、村人が女性の墓を見つけました。

 他の墓と比べると少しばかり赤みがかっており、まるで血に塗れているかのようにも見えます。

 村人は非常に退屈な毎日に嫌気が差していたので、その墓をモチーフに怪談を作りました。少しでも、現実的であるように墓に書いてあった名前を拝借して、登場する幽霊につけました。

 こうして、そのあたりでは多くの人を魅了する怪談が語れるようになっていきました。

 近くの街では、お祭りを作って人を集めたり。

 その墓場の近くに住んでいたものは、絵葉書やフィギュアなどを作って売りさばきました。

 訪れた小説家は、その怪談を基にした新たな恋愛物語を書き華々しくデビューをしました。

 誰もが、彼女に興味を失っても、彼女はコンテンツとして生き続けました。

 死んでしまった彼女が考える余地など全くありませんし、彼女への一定の尊敬があるかどうかについては、何の影響も与えません。

 人を呼べたから。

 お金になったから。

 盛り上がったから。

 作品になったから。

 楽しいから。

 話のネタになったから。

 誰も気にしなかったのです。

 もちろん、天罰を喰らうこともありませんし、因果応報のような物々しいこの世の理が音を立てて動き出すこともありません。

 ただ、生まれ。

 ただ、消費され。

 そして。

 また、忘れ去られました。

 現在、その物語は数多くの打ち捨てられた芸術の中にあります。誰かが興味を持つこともあるでしょうが、その機会は一年に一度あったらいいという程度でしかありません。悲しいかな、運命とはそういうものです。

 また、ある時。

 いや。

 地球が滅亡してしまった時。

 宇宙人が地球の残骸を集めて時間を潰していると、彼女について書かれた小説を見つけました。地球の言葉は難解でしたが、その宇宙人の母星では文明が非常に発達していたので、直ぐに翻訳することができました。

 文化的な背景が違くとも、何が示されているのかは、伝わるものです。

 宇宙人は、かなり満足しました。

 面白い物語とは、この世の中に溢れていて、誰の心でも動かすことができる。ある意味、平等で、不変的な魅力を秘めた武器なのです。

 ほんの僅かなきっかけは、宇宙人と彼女を繋ぎ、彼女を通して文化の純粋さを宇宙のそこかしかに広げていきました。

 しかし。

 物語は、また忘れ去られました。

 彼女のことを語る者もいません。

 当然、人間はいません。

 もう、宇宙人もいません。

 読書をするのに見合った最高の静寂が宇宙を支配しています。



 この物語の嘘は、彼女の物語は今も地球で語られているということと、人類は滅亡なんてしないということです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セヴンミッチェルグランドエレーナ エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ