第4話 究極の三すくみ
二人は意気投合し遅くまで飲んだ。
閉店近くになって客が一通りひける、とママが小走りに二人のテーブルに近付いてきた。
「どうもごめんなさい。今日はいつもよりお客様が多くて挨拶に回るつもりが、やっと今になっちゃったのよ」
「いやいや、今夜はとてもこの若い青年と意気がぴったり合ってね。ママはいらなかったよ」
「青年と言うのは、褒めすぎですよ。わたしは既に五十をすぎていますから」
「いやいや、ママ。この男は、本当に素晴らしいですよ。なにせママをものにできるのですからな。ははは」
「あら?言っちゃったの?ダメでしょ。ここはプライベートを隠し、秘密は守るところなのよ」
「ごめんね。ママ。この方から色々教えを請うて、ついぽろりと口から出てしまったのです」
「いいじゃないか。若いもの同志仲良く、仲良く」
「は。恐れ入ります。ねママ」
「じゃぁ、わたしも言っちゃおうかな?喉まで引っ掛かっていることがあるのよ」
「おお聞く。聞く。何でも聞くぞ。で他には絶対言わないから信じてくれよ」
「じゃあ、ここだけの秘密と言うことで・・・やっぱりやめようかな」
「ママ、もったいぶらないで」
「そうだよ。ここまで来て言わないなんて蛇の生殺しみたいなものだよ、ママ」
「じゃあ、絶対に秘密にしてくれることを約束してね」
「もちろんだよ、ママ」
「うふふ。実は・・・私やっと父親が誰かと知る事が出来たのよ」
「それってすごいじゃん」
「いやいやママ、この青年はね。そのことで悩んでいたのだよ」
「ええ~。そうなの?」
「ごめん、ママには言えなかっただけれど、この方に人の出生よりも何が大事かを教えて戴いたばかりだ」
「で、その前は、この青年は、バチが当たるって心配していたしね」
「やめてくださいよ。もうバチなんか当たりませんよ」
「で、その父親とは会ったのかい?」
「まだ顔も知らない人だけれど、わたしは、その方の愛人の子だったみたいなの」
「でもどうしてそれを今になって知ることができたの?」
「母が先日亡くなって、今際の際(いまわのきわ)に教えてくれたのよ。わたしはショックで寝込んだわ」
「まさか父親は、犯罪者だったのですか?」
「そうじゃないのよ。父は、わたしを生んだ後の母に興味をなくしたみたいで一度だけお金をぽんと渡してあとは知らんふり。その後の母は、大分貧乏しながらわたしを育ててくれたわ」
「へぇ。そりゃぁ、父親が絶対悪いね」
「そうよ。全部悪いのは、親に決まっている。そんな男には大きなバチが当たればいいよ」
「驚くなかれ。その父親は、なんと川辺産業の社長。川辺秀人さんなのよ」
「え?ワシ?」
「今ワシって言った?川辺秀人さんですか?ご本人ですか?」
「あっ!・・じゃぁママは娘!いやぁ~驚いた・・・」
「・・・こっちは、もっと驚きましたよ。お父さん」
「え?今ワシをお父さんと言ったのか?」
「・・・」
「え?じゃ私たち異母ちがいの兄妹なの?」
「あ!…そうなるのか」
「え?こりゃ大変なこと・・どうしようママ」
「なんてことなの」
「ワシたちは、全員血が繋がっている、そう考え・・」
「そんな馬鹿な話が・・」
「バチが思いっきり当たっちゃったよ・・」
「お前が悪いのだろ、クソオヤジ・・・」
「てめぇこそ、あのクソガキだったか・・・」
「やめて、やめて・・・」
「・・・」
「・・・」
それから会話が途切れると、沈黙の時間だけが滔々(とうとう)と流れていった。
お互い顔を見合わせても、身動きが出来ないほどの闇に近い焦燥感に溢れていた。
それを察してか、間もなく、ホステスたちの声がした。
「ママお先に・・」
よどんだ空気の中、三人だけが店の中に残った。
店内はいつもの閉店の曲「Speak Low」が繰り返し流れていた。
Speak Low♬
We're late, darling, we're late
遅すぎるの、私たちは遅すぎるのよ
The curtain descends
幕はおりて
Everything ends
すべてがお仕舞だわ
Too soon, too soon
すぐに、本当にすぐに
I wait, darling, I wait
あなたを待っているわ
Will you speak low to me
声をひそめて言ってくれる?
Speak love to me
愛を囁いて・・
And soon?
いますぐによ。
Speak Low 終わり
Speal Low 伊藤ダリ男 @Inachis10
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