第2話 家族の秘密話で盛り上がる

「母親がいなかったのかね」

「いいえ、母はおりましたが、自分は息子をちゃんと教育をしているし、息子が盗みを働いたとすれば父親の教育が悪いから、とその責任をいつも父になすりつけていました」

「なるほど。でもね、君、子供と言うのはそういうものじゃないかね。ワシも君の父上のようにあちこちの女に子を産ませていたから・・・。余り自慢できることじゃないけれど、考えてみると君と同じようなことがあったような気がする」

「でもわたしの父は、あなたのように優雅で堂々としているところが無く、母にこっぴどく叱られると野良犬のように“ぷい”といなくなるのですよ」

「じゃぁ、現在は父上と疎遠なのかね」

「疎遠?それどころではなく、わたしはその頃から父親と会っていません。後で聞いた話ですが、すさまじい口論の後、母は、父と離婚し、慰謝料として会社のひとつをもらい受け、結局はその会社をわたしが母から受け継いだのですが・・」

「それで君は、現在その会社の社長となったのかね」

「最初は、全く採算の合わない会社でしたが、わたしは、あの父をぎゃふんとさせたくて、母と一緒に奮闘努力をしていたらいつの間にか上場するまでに大きくなってしまったのですよ」

「それは、ラッキーなことじゃないかい」

「ええ。でも母と一緒に仕事をしていて分かったことですが、母の性格は、まさに鬼畜の如くでした」

「鬼畜?」

「ええ、気に入らないと誰彼構わず怒鳴り散らす。自己愛が強くて、例え自分が仕出かした失敗でも絶対に認めることはなかった。だから父がよそに女に手を出し、挙句の果て、家族をないがしろにして逃げてしまったのではないかと。父がそのような男になったのは、実は母が父をそうさせたのではないかとそんなことに思えて来たのです。いずれそんな道理に背く家庭で育ったわたしの少年時代には楽しい思い出は有りませんでしたよ」

「可哀そうに。息子として両親に恵まれなかったのだね」

「ええ」

「思い出してみると、ワシの本妻と言う女はね。君から聞いた母親よりもっと酷い女でね。何せ一度怒ると止まらない。それが何時間と続く。呪い殺されると思ったほどだったよ。今でも思うよ、あのクソガキを・・・息子の事だが、ワシに教育しろと絡んで来て、ウンザリしてしまった。とうとう我慢しきれずに離婚をしたが、ワシにも父から受け継いだ会社が沢山あったから、その女に潰れそうな会社ひとつくれてやったよ」

「そう聞くと、どこも似たり寄ったりなのですね。わたしは自分の家庭だけが特別変だと思っておりました」

「そんなことはないでしょ。現にワシのオヤジと言うのは、これまた酷い男でね。愛人たちとその子供たちを家の中に連れて来たこともあったりしてね。当時世の中は、貧乏だったからな。食えないと言っては総勢二十名にもなる愛人たちを家につれて来ては、その者たちの食事を母に毎日作らせていたんだよ」

「それは、凄いですね。お母様はそんなお父上をお叱りにならなかったのですか?」

「母は、ワシにオヤジの陰口をたたいていたよ。将来こんな大人だけにはならないで欲しいとね。ただその当時にすれば、会社を創設し更に大きくしたそのオヤジのエネルギーは、凄いものだったし、そんなオヤジの無謀ぶりに反対するに者などいなかったよ。対照的に母は、毎日が奴隷のようで可哀そうだったがね」

「私の会社も祖父が、あの戦後のドサクサに立ち上げたのだそうです。やはり大勢の女を囲っていたみたいですが・・・」

「君は真面目そうだから、女を囲ったりはしないだろう。ん?」

「いやぁ。そう言われると恥ずかしい限り・・。実は、わたしにも父親の血が流れているみたいで既に二人は・・・。最近また一人増えましてね」

「子は?」

「本妻に三人、別のところにも三人ほど」

「中々やるじゃないか。男はそうでなくちゃならんね」

「恐れ入ります」

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