第三十九話 The Reverberations Continue
1月21日、午前11時35分。
「ギイハ、ヤァ」
街を駆け抜けるカゲロウ達は走を危険と判断し、一斉に襲いかかる。
「スゥ」
走は雷黒刀を鞘から抜き、素早くカゲロウを切り伏せる。
「終わりました、関崎さん」
走は後ろで水を飲んでいる関崎に言う。
「速くなったな、それと抜刀術は俺のマネか?」
「は、はい」
走は顔を隠しながら言う。
「今日はお前に提案があるんだ」
「提案?」
関崎は鞄から数枚の紙を出し、走に見せる。
「雷黒刀試験を受けてみないか?」
「何かあるんですか?」
「今お前が使ってるのは中サイズ、だがこの試験に出て実力が認められれば大が使える。まあ受からなくてもそこそこなとこ行ければ良いんだが」
「これ受かったらすごいんですよね」
「んーまあそうだな」
「じゃあ、受けます!」
「そうか。じゃあこれに印鑑押してきてな」
「分かりました」
走は紙を貰ってすぐに家の方向へと走り出した。
喫茶店サンシャイン。
「さーてと、全員集まったか」
まだ定例会議から一ヶ月程しか経っていないが、ここに日本の支部長達が揃った。
「その前に、予算が三万しか増えてないのはどういう了見?」
宮岡は予算書を見ながら関崎を問い詰める。
「ここは最初から結構多いんだ、仕方ないだろ」
「それならヨーロッパ、特にウクライナ、元々多いのよ? なのに二十万も増えてる」
「今度そこに学校が出来るらしい」
道札が関崎に代わって答える。
「せめて十……五か六は欲しかったですね」
「せやな、三万は少ないわ、銃すら買えへん」
「……関崎、手入れはしてるか?」
「してるに決まってるだろう? この几帳面は」
「それよりも本題はいろうよー」
「ああ、そうだな。大戸、飲みもん退かせ」
「はーい」
関崎はコートを椅子に掛け、姿勢を正す。
「黒武からの命令は二月十日に黒武の中のカゲロウを倒せと」
全員に電流が走る。
「なんで? 今月中に隊長達とやれば良いじゃない」
「連携が取りづらいし、それに東京の地形も把握してない奴が多い」
「その日、コンサートは無い、賛成だ」
「……その日は雷黒刀試験の日だ」
「おそらくだけど、走が動けない日だからだと思う」
関崎は先刻の会話を思い出しながら言う。
「じゃあ、『烏の血』は」
「絶える、最近だから採血もしてないだろう」
金屋が額に手を当て答える。
「……待て」
「それはまずいですよ!」
松山が立ち上がり、机が揺れる。
「若い方達は知らないかもしれませんが、あの血があるから総隊長なんです」
「『烏の血』が無いと政府に示しがつかないわよ」
「待て!」
関崎は口論を収め、話し始める。
「……すいません熱くなって」
松山は席に着く。
「黒武は『烏の血』を絶やす気は無い、と思う」
「……なぜそう思う?」
「最近の走はどんどん強くなっている。黒武はこれを見越してた」
「そんなこと最初から……」
「いや最初からじゃなくても、『烏の血』を飲めば出来る」
盛台が指を鳴らして言う。
「そうね……『烏の血』は血行が良くなったりするから、頭の回転が速くなる」
「聞けば聞くほど、健康サプリに聞こえるな」
関崎は手を叩き、注意を引く。
「すまん、話がずれた。俺の憶測だ気にしないでくれ」
「はい」
「話を戻して、作戦決行場所は渋谷」
「なるほど」
「関崎がめちゃくちゃにしたからね、人は少ない」
「以上だ」
話を終えて、関崎は周りを見渡す。
「僕は先に渋谷に行くよ。狙撃スポットを決めなきゃだからね」
盛台は椅子に掛けたケースを取り、店を出る。
「その……話変わりますけど、雷黒刀試験って一日しか無いんですか?」
松山がテーブルに突っ伏しながら聞く。
「……まあその年の参加者によるが、今年は一日で終わる」
「俺の年は一ヶ月掛かった」
「へえ! どんぐらい人来たんですか?」
「いや、俺が会場壊したから」
「はぁ……」
雑談が終わった頃、関崎のスマホが鳴る。
「すまん、出てくる」
関崎は席を立ち、人の少ないところで電話に出る。
「はいもしもし、もしもし、じいちゃん、久しぶり、うん知ってるよ、知ってる、そうなの。うん、へぇ~じゃあ行こっかな」
「あの人、五代目総隊長の事、じいちゃんって」
「千鳥さん、懐かしいわね」
宮岡は千鳥との思い出を思い出しながらコーヒーを飲む。
数分後、関崎が戻ってくる。
「悪いが、先に帰る」
関崎はコートを着て、喫茶店を出る。
「どうしたんでしょう」
「まあ、千鳥さんが来るんちゃう? あいつ、けっこうじいちゃん子やし」
午後10時25分。
「ここにしよう」
黒武は公園で手を広げる。
「こんな時間に呼ばないでよ」
「すいません、遅刻して」
盛台と寝代は姿勢を整え、隊服のロングコートの前を閉めて、黒武の前に立つ。
「なんでここに呼んだんですか?」
「その『烏の血』かカゲロウか分からねぇけど、カゲロウが集まってくるんだ」
「それで、倒してほしいと」
「そうだ」
「分かりました」
盛台は胸のホルスターから銃を抜く。
「その武器持ってないんですけど」
「そこの電柱にあるよ」
盛台は電柱を指差す。
「取ってきまーす」
寝代は急いで電柱に行く。
「始めるぞー」
「「はい!」」
二人は武器を構える。
「あと、俺武器持ってねーから」
黒武は手を掲げ、パン、パンと音を出す。
「は?」
「ギャギャー」
カゲロウが暗闇から続々と現れる。
「くそっ」
「もっと早く言ってください」
「バギャイ」
「え? 聞こえない」
「背中は任せた」
「はい!」
盛台は一発でカゲロウを仕留めて行く。
寝代は雷黒刀を振り回し、近距離は足で対応する。
「まだ居るのー?」
「安心しろ、こっからは中ボスだ」
「コンニチハ」
洋風な服装でひげを生やした男が電灯の光の中に立っている。
「こんばんは、だ」
盛台は銃を投げ、回し蹴りを腹に決める。
「中ボスじゃねぇな、ザコで良い」
「そうですね」
「もうボス呼んだ方が良いんじゃない」
「そんなこと言われても」
「コンバンハァー」
「盛台さんは装填してください」
「お言葉に甘えて」
寝代は雷黒刀で敵を切り、宙を舞うカゲロウの体を蹴り、逆方向へ向かう。
「意外と強いんだね」
「あいつ、関崎の動きに合わせられる奴だ」
「関崎が合わせてんだろ」
寝代の動きを見ながら、軽口を交わす。
「よし、寝代!」
盛台は装填を終え、寝代に合図する。
「はい」
寝代はスマートウォッチの画面に触れる、すると寝代の仕掛けが起動し、カゲロウ達の体の一部が光る。
「ウッ」
ハンマーのような塊が、寝代に直撃する。
「カハッ、ハ」
口から唾液が垂れる。
「休んでな」
「……はい」
「黒武ーこっからは、暗殺部隊としてやらせてもらうよ」
「構わん。殺れ」
「りょーかい」
盛台はフードを被り、銃に短剣を付ける。
「ごめんね。本気でやらなくて」
寝代に言っているのか、カゲロウにか、フードに隠れた視線は何へ向けられるのか。
「さあ、誰から殺ろうかな」
その声と同時に盛台の姿が消える。
「ギあ」
カゲロウは辺りを見渡すが、己の体から出ている光で見えない。
「オカシイ?」
一匹のカゲロウが気づく、仲間の気配が消えていくことに、視界から光が減っていくことに。
「ギャ」
カゲロウは仲間の気配が消えた方向に手を振り回す。
「気付いたの? 鋭いね、けどもう終わり」
光が消える。
「終わったか?」
盛台はフードを取り、辺りを見渡す。
「うん。あー疲れた」
「ありがとな」
「まあいいけど、もう呼ばないでね、二月十日まで忙しいから」
「分かった」
カゲロウとの戦闘が終わり、黒武達はその場を去る。
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