第三十七話 What The Blade Cuts Through Is The Shadow
走は国会議事堂の周りを駆けながら、カゲロウの様子を伺う。
「十……五、かな。被害は最小限に」
走はカゲロウの足を切る、カゲロウが横に倒れてドミノの様に他のカゲロウも倒れる。
「ウ、アアアアアア!」
カゲロウが手を伸ばし走を掴もうとする。
「ハァ!」
走は周りの手を切り、倒れたカゲロウの胸辺りを刺す。
「タスケ」
刃が刺さったカゲロウが仲間に助けを求めて手を伸ばすが、走はここまでを計算していた。
「雷黒刀、『放電』!」
電気が流れ、カゲロウの動きが乱れる。
走は別のカゲロウに飛びかかり、コートに付いているホルダーからナイフを取り出して、カゲロウに突き刺す。
「これで数秒は稼げる」
走はここから反対側を目指しながら、拳銃に弾を込める。
「ギァ!」
小型のカゲロウに八方から襲われる。
「ここ」
一発で五匹倒して、反対側を目指す。
「倒れろ!」
走はカゲロウの頭を撃ち、股の下を通る。
「後四発と六匹かな」
走の黒目が絶え間なく動き周囲の状況を把握する。走はカゲロウの足を撃つ。
「グバッハッハ」
「邪魔!」
小型のカゲロウを掴んで大型のカゲロウの目へと投げる。
「放電は終了してる」
走は雷黒刀をカゲロウから抜き、銃を捨て、流れる様に大型のカゲロウを切り裂いていく。
大型のカゲロウの残穢から小型のカゲロウが現れる。
「次から次へと……鬱陶しい」
走は雷黒刀を投げ、カゲロウを一気に倒し、残りはステゴロでぶっ飛ばしていく。
数分後。
「はっはっはっはっはっ」
走は息を整える、太陽がカゲロウの残穢と走の汗を照らす。
「見てたか?」
「ああ、なんと言うか……」
「ああ」
「美しい!」
「へ?」
突然の大声に疲れきっている走は気の抜けた声をだす。
「美しい! この場に居る者は君の活躍に見惚れて動けなかった。素晴らしいよ」
フランス代表イル・ド・フランス地域圈支部隊長クロード・ポール・ルノワールが走に拍手を送りながら言う。
「あ、ありがとうございます」
「ほら、やるよ」
カンボジア副代表兼トンレサップ湖地域支部隊長コン・スカラが水を渡す。
「ありがとうございます」
走はいろんな人から言葉を掛けられ、対応を急ぐ。
「見たか」
意識を取り戻した黒武が走を見ながら皆に言う。
「あいつが、次の総隊長だ」
数時間後。
会議が終わり、走達は別の会場へ移動する。
「今年も頑張りましょう、それでは、カンパーイ!」
「イェェェイ」
「スタッッフー、上ハラミに上タン、ハツ、レバー」
「アンド、サァロイン!」
「はーい」
「うう」
飲みの場が苦手な走はソフトドリンクを持ちながら、隙を見て帰ろうと様子を伺っていた。
「凄いね、走君」
チャールズが流れる様に走の隣に座る。
「いや、まあはい、鍛えてますから」
「鍛えてるって、本当かい? 硬ッ二の腕硬い、えっ本当に鍛えてたの? じゃあもっと厳つい見た目になれよ~」
走は離れようとするが、チャールズが二の腕を触るため離れられない。
「いいなぁ、じゃあこの手で、たっくさん人を助けたんでしょ」
「……いえ……助けられなかった人もいます……」
走は目の前でカゲロウに殺された人達を思い出す。
「そうか、ごめんね、思い出させて」
「大丈夫ですよ……」
ビールをグッと流し込み、顔が赤くなってきたチャールズが話し始めた。
「僕は強くなくてね、センスが無い、努力も才能には勝てなかった。……けど、人を笑顔にする才能があった、人を笑顔にしてたらここに来てた。走君もそうだよ、きっと」
「え」
「人を助けてたらここに居た。君には人を助ける才能があるんだ」
「ありがとう……ございます」
「それと、助けられなかった人達のことは気にしなくて良い。その人達は別の人に助けてもらってる、だから……」
「だめです、助けられなかったと言って、それが人を忘れる理由にはなりません」
「そうか」
「はい」
「オエッ、ごめんトイレ行ってくる」
口元を抑えて、壁伝いにトイレを目指すチャールズの背を見ていた走にレオニダスが声を掛ける。
「よお、ずいぶん語ってたじゃねえか、走くぅん」
「えっと」
走は席を立とうとするがレオニダスに肩を掴まれる。
「凄かったな、おりゃぁ、仕事柄よぉいろんな奴と戦うが、放電をあんな使い方する奴は居なかったぜ」
「それは関崎さんが機能を教えてくれたからで」
「教えたの? へえ、結構ひいきにしてんだなぁ。な、関崎」
「ああ」
前に立っていた関崎が間に入る。
「見た感じだと、放電は鐔からだった、まだ非公開のタイプだぞ」
「この会議が終わったら公開だったろ、問題ない」
「非公開の物を渡すな、いくら次期総隊長でも……」
「その情報の方が非公開だろ」
「待ってください、次期総隊長って」
「お前のこと」
「悪いがレオニダス、こいつと二人きりで話したい」
「3Pはダメなの?」
「だめだ」
関崎に連れられ、走は屋上に入る。
「さっきの話の前に、聞きたいことがある」
「はい」
「何がしたい? 総隊長になって」
「……えっと」
走の頭の中でいろんな出来事が駆け巡る。
数分後、走は関崎の目を真っ直ぐ見つめながら答える。
「人を助けたいです。助けられなくても、せめて寂しい思いをする人がいない世界にしたいです」
「お前の家族みたいにか」
「はい!」
走の声が屋上に響き、空へと上っていく。
「分かった。お前を総隊長にしてやる」
「お願いします。それで何をすれば」
「お前は何もしなくて良い。ただ……」
「ただ……」
「覚悟しとけ、いざとなれば人を殺す覚悟、世界に立ち向かう覚悟、家族と別れる覚悟を」
「はい」
走は拳を握りしめる。
「分かったら帰れ、総隊長になる日までに休めるだけ休んどけ」
「はい! それでは」
走は関崎に背を向け、歩き出す。
「あと、今日言ったこと、忘れるなよ!」
「はい、分かってます!」
世界を覆う星は見えるものと見えないものがある。
見えるものはそのままで。
見えないものは見なければならない。
見えないものを見るためには近づく必要がある。
見えないものを見るために走は歩みを進める。
何度世界に邪魔されようと……。
走の歩みは止まらない。
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