Αphone

奇想しらす

第一章 Justice Face In Your Black

プロローグ

 放課後の通学路。

高校生の鴉馬走からすまはしるは、スマホでニュースを見ながら、薄暗い住宅街を歩いていた。

「2030年頃から度々起きているカゲロウ事件は今も起きており、一部研究家からは新月の夜に起きやすいと推測されており――」

走は顔を上げ月を確認する。

「かーらすっま」

「わ」

友人の公影こうえいが、後ろから飛び付いてくる。

「うわ、飛び付くなよ、公影」

「すまんすまん」

走は公影をひっぺがし、足を蹴る。

「ん、なにみてんの?」

走の手にあるスマホを公影は後ろから覗き込む。

「あー、カゲロウ事件か、怖いよな、目撃者全員失踪して、もう10人いなくなってる、しかもこんな薄暗い夜に」

「やめろよ、意識しちゃうだろ」

「そうだなって、おおい!」

「うるさ」

走のスマホの変化に気づいた公影はスマホを取り上げる。

「これ、Aphoneの最新機種じゃん!」

公影は走のスマホをなめ回す様に見る。

「そう、早く返して」

「はい」

走が出した手の上に、公影はスマホを置く。

「ありがと、話戻すけどさ」

「悪い、俺用事あったの思い出したから、近道使うわ、じゃあな!」

十字路に着いた公影は走の家路とは反対の道に走っていく。

「お、おう」

公影の姿は暗い道に包まれて消えていく。

「はあ」

走はさっきの会話を思い出してしまい、少し怯えながら家路につく。

「あれ? 何か歪んでる?」

走は街路灯の光が風に靡くカーテンのように揺れている事に気づいた。

「陽炎? この時期に……?」

走は目を擦って、また同じところを見つめる。

「なんだ?」

走は少しずつ、揺れる光に近づいていく。

後数歩というところで、走は光が揺れている原因に気付く。

「……カゲロウ…………!」

走はすぐさま振り向き、走り出す。

「キィ」

カゲロウの姿が現れ、走を追う。

「はあはあ、来るな!」

走は積み上がったダンボールを蹴り、道をふさぐ。

「なんなんだよ」

真っ暗闇の中を走は逃げる。

「とにかく電話を」

スマホをだそうとして、速度を落とした走、その瞬間カゲロウが速度を上げる。

「ギィァ」

「間に合わn」

走は目を閉じ、死を覚悟した。

その時、バイクのエンジン音が響き、何かが千切れるような音がした、走が目を開けると、黒いロングコートを羽織った男がカゲロウを薙ぎ払っていた。

「ふう、間に合った」

「へ?」

「君、名前は?」

「えっと、鴉馬走……です」

「そうか、俺は黒武勝鳥くろたけかつどり、俺のバイクに乗れ、安全なとこに連れてってやる」

「は、はい!」

走は黒武からヘルメットを受け取り、被り、バイクに乗る。

「あの、カゲロウについて何か知ってるんですか?」

「まあな、後で説明してやる」

バイクに乗った二人をカゲロウ達が追いかける。

「チッ」

黒武はスマホに何かを取り付け、発砲する。

「銃!?」

「それも後でな」

弾を込め、発砲する。

カゲロウの体に穴が空く。

「どこに向かってるんですか?」

カゲロウ達の姿が見えなくなり、走は質問する。

「安全な場所だ」

「具体的にどこですか」

「隠れ家だよ」

黒武の曖昧な返答に、走は違和感を覚える。

「止めてください、こっからは自分で帰ります」

「やめろ! どうなっても良いのか」

走はバイクを飛び降りる。

「家は近いですし、走れば間に合います」

走はヘルメットを投げ、走り出す。

それに気づいたカゲロウ達は走を追いかける。

「めんどくせぇな」

黒武がグルッとUターンし、走を追う。

「こっち」

走が曲がるとカゲロウも曲がる。

「はあ、来るな」

走は道に積んであったダンボールを倒すが、カゲロウは悠々と越えていく。

「ん? あれは公影!?」

遠くにさっき別れたばかりの公影を見つけた。

「やめろぉ」

公影もカゲロウに襲われていた。

「くっ」

――逃げよう、ごめん公影。

走は公影を見殺しにしようと目を背ける。

「走! あぶねえとこに行きやがって、暗いところはカゲロウが強くなっちまう」

後ろから黒武が追ってくる。

ふと視界に公影の顔が入った。

「!」

走は公影の涙ぐんだ顔を見て、なにか衝動に駆られた。

気づけば、走は走り出していた。

地面を蹴り、足を上げて、公影の元に向かう。

「公影!」

走は叫んだ、その声にカゲロウの動きが一瞬止まる。

「くらえ!」

走は公影を掴んでいるカゲロウにバックを投げつけ、突進する。

「はあはあ、鴉馬?」

「逃げて!」

「あ、ああ! うわぁぁあ!」

公影は腰が引けて、うまく立てない様子だ。

「ハアァァァ!」

走は殴りかかるがカゲロウはスルリと避ける。

走にカゲロウの激しい攻撃が降り注ぐ、服が切れ、身体中に切り傷が増えていく。

「馬鹿野郎」

黒武は走の周りにいるカゲロウを蹴散らす。

「公影ってやつ、早く逃げろ」

「は、はい!」

立ち上がった公影がゆっくり壁を伝って歩き、逃げていく。

「走」

「なんですか」

「パーフェクト!」

「へ?」

「さっきはおんぼろのキノコ生えた家に連れていこうとして、すまん」

「そんなところに行ってたんですか、僕」

「走、明日学校終わりにこの場所に来い、俺ん家に連れてってやる。絶対に来い、お前に頼みがある」

「頼み?」

「ああ、それと絶対にカゲロウの事を話すなよ、話したら、明日のニュースのカゲロウ事件に被害者が1人増えることになるからな」

「は、はい」

「じゃあな」

ヘルメットを被り直した黒武がバイクに乗り、すぐに遠くへ行ってしまった。

走は家に帰り、ボロボロの服と身体を見た親に叱られ、ベッドの上で横になり、天井を見ながら呟いた。

「はあ、これからどうなるんだろ」

これは1人の青年の継承の物語。

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