第12話 頼もしい先輩
まずは竜が狩りの対象になるかの観察だ。竜の近くに若い女性が一人、腕を押さえて座り込んでいる。近くに摘んだ薬草が入っているカゴが落ちているところを見ると、どうやら薬草採取に出ていたところを攻撃されたようだ。
全体を見るミヤコの一方で、リュウコはドラゴンの鉤爪に注目して観察していた。竜の鉤爪には小型も中型も両方血がついていた。臭いから察するに人間の血だろう。
「怪我人一名発見。おそらく鉤爪による裂傷! 血が村の方まで続いているところを見ると怪我人がもう一名いる可能性あり!」
「竜の鉤爪に血液痕を確認! このドラゴンたちはおそらく人を傷つけている。この2体を討伐対象とし、これより討伐を開始する!」
ここまでを約3秒で終わらせ、早速女性とドラゴンの引き剥がしにかかる。
ミヤコが女性の前に出て盾になり、続いてリュウコが一番近くにいた中型ドラゴンの顔面を戦斧の側面でぶっ叩いて吹っ飛ばした。
「トイ、足止めんな!」
リュウコの怒鳴り声が飛んだ。
「は、はいっ」
いきなりの竜との遭遇にトイは動けなかった。竜の討伐認定も、一般人の保護も座学で教わってはいたが、いざ実践となるとその通りに動くのは難しかった。
大陸のギルドにいた時も、新人だったから後方支援だけど経験はあった。結局それも何の役にも立たなかった。
—悔しい。リュウコさんに会いにくる前に大陸でも経験積んでるのに
経験はないわけではない。だから大丈夫だと思っていた。
—でも今の自分はどうだ? 足手纏いでしかない。本当にこの人たちと一緒に仕事をできるのだろうか。
不安は募るばかりである。
「小型は任せる。後方支援にミヤコがつくから安心して倒してきな!」
リュウコの声が響いた。それだけ言い残してリュウコは吹っ飛んだ竜を追いかけて行った。どうやらこの先輩はまだトイのことを見捨てていないようだ。
—ああ、いつだってこの人はぼくを光の方に連れて行ってくれる
小型を任された。ならばやることは一つ。竜を狩る。
トイはリュウコに憧れて自分も愛用するようになった戦斧を握りしめた。
♢♢♢
「大丈夫ですかお嬢さん。悲鳴も上げられないほど傷が痛みますか?」
「はい、うぐっ、うっかり薬草取りに夢中になってしまって……そしたらすぐ近くにドラゴンがいて、本当ならゆっくり後ずさらなければならないのに走って逃げようとしてしまいました」
女性は弱々しい声で今までの経緯を話した。
「誰だって竜が近くに来たら走って逃げたくもなるでしょう。腕を出してください。簡易的ですが治癒魔法をかけます。—草木の精霊よ。どうか力をお貸しください。セラピア!」
肉がえぐれて骨まで見えていた、血で染まった腕の傷がみるみるうちに塞がっていく。しかし、今の魔法は簡易的に周囲に生えている薬草の効果を草木の精霊から借りただけで、傷を完治させられるほどのものではない。
まだ残っている傷に水魔法で生み出した水をかけて汚れを流し救急箱から出したガーゼを当てて包帯を巻いていく。
「これで大丈夫。あなたは村に戻っていなさい。私はあそこで戦っている2人の後方支援担当ですから」
「はい。ありがとうございました」
女性は深々と頭を下げて、ミヤコの元からさっていった。
「さて、どこから手をつけるかな?」
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