第33話 赤ちゃんに問いかける その1
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残り時間――5時間47分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
重体によるゲーム参加不能者――3名
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診察台に横たわる薫子。産婦人科ならではの診察台の機能により、両足は大きく開かされている。
もっとも、瑛斗は薫子の股間にはこれっぽっちも興味がない。
しかし、薫子の方はそうは思っていないみたいで、さっきからずっと体中が震えを起こしている。顔には悲壮極まりない表情を浮かべている。
事前に騒がれないようにハンカチを薫子の口にねじり込んで入れておいたのが効いているのか、切羽詰った息遣い以外の音は聞こえない。騒がれるのがあまり好きではない瑛斗にとっては、理想的な状況である。
前回は酷く騒がれてしまい、結果、その悲鳴に気付いた隣人に、逃げていくところを目撃されてしまった。今回は異常な状況下ではあるが、この神聖な場を誰かにジャマされたくはない。
「そろそろ始めようか」
瑛斗は作業を開始した。
まず最初にお腹を見せてもらわないと困る。右手に持ったメスをワンピースにさっと走らせると、薫子の上半身を覆い隠していたワンピースが左右にきれいに切り裂かれていく。肌色のブラジャーが露わになる。
一度、薫子の表情を確認する。瑛斗の視線を受けて、薫子が必死に懇願するかのように首を左右に振る。
「大丈夫だよ。言っただろう。淫らなことには興味がないんだ、ボクはね。キミは静かに横になっていてくれさえすればいいから」
瑛斗は優しく、本当に優しく、まるで母親が我が子に言い聞かせるような声音で諭した。
だが残念ながら、瑛斗の心意は伝わらなかったらしく、薫子はハンカチを押し込まれた口からウーウーと唸り声をあげ始めた。
「仕方がないな」
言いながらも、満更、気を悪くしたわけではなかった。この程度の抵抗ならば逆に可愛く見えるくらいである。
「きっとお腹の赤ちゃんも可愛いんだろうね。――今から会うのが楽しみだなあ」
瑛斗は氷の声でつぶやいた。
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瑛斗が初めて生物を殺したのは幼稚園のときだった。夏休みに近所の公園で捕まえたセミを殺したのだ。あんまりジージーとうるさかったので踏み潰して殺したのである。
そのとき、心に何かを感じることは一切なかった。
小学生のときには、学校で飼育されていたウサギを殺した。理由はウサギの世話に時間をかけるくらいならば、もっとたくさん勉強をしたかったからである。
学校中が大騒ぎになったが、瑛斗としては、なぜそんなに騒ぎ立てるのか皆目理解出来なかった。ウサギがいなくなったおかげで、勉強する時間が増えたのだから、むしろ喜ぶべきはずだと思ったのだ。
しかし、そのことを担任に話したところ、すぐに母親が学校に呼び出された。
そこで瑛斗は自分がウサギを殺した理由を包み隠さずに全部話した。自分の理由を聞いてくれたら、きっと理解してもらえると思ったのだ。
だが、担任はおろか、母親も瑛斗の想像とはかけ離れた反応を見せた。担任は大きな声で怒鳴り散らし、母親は大きな声で泣きじゃくったのだ。
そのとき、初めて生き物を殺すと怒られるのだと知った。それからはなるべく生き物を殺さないように心がけた。命の大切さを知ったからではなく、怒られるのが面倒だったからである。
もっともその後にも、母親や担任にバレない範囲で、近所の犬や猫などの小動物を何匹も殺した。死体は誰かに見付からないように、山に埋めて捨てた。罪悪感は一度たりとも感じたことはなかった。
そうして、そのまま瑛斗は成長していった。
中学一年生のとき、また動物を殺してしまった。
相手は動物は動物でも、人間だった。
同じ部活のふたつ年上の先輩である。
いつも文句ばかり言うくせに、自分からは絶対に行動をしない人だった。他の部員からも嫌われていた。
そのことに気付いた瑛斗はみんなの為を思って、その先輩を事故に見せかけて殺した。
部活のみんなは言葉にこそ出さなかったが、ほっとしたように見えた。部室の雰囲気も見違えるほど明るくなった。
ところが、瑛斗の犯行に気付いた先輩がひとりいた。
クラブの部長である。放課後、誰もいない部室で瑛斗は問い詰められたので、正直に全部話した。理解してくれなくとも、怒られはしないだろうと思った。
小学校のときと同様に、瑛斗の予想はまた外れた。
部長は警察にいくべきだと忠告してきたのである。
警察にいったら、また母親を苦しめることになるので、瑛斗は部長も殺すことにした。さきに殺した先輩の後追い自殺という風に装った。
部員たちはみな悲しんだ。それが瑛斗には理解出来なかった。悪いのは部長なのだから。
幸い警察は瑛斗の偽装を見抜けなかったが、母親は何かを敏感に感じ取ったらしく、瑛斗はすぐに転校をさせられた。
それからしばらくの間は動物を殺すことは控えていた。当たり前の学生生活を過ごした。
その妊婦に出会うまでは――。
瑛斗が中学三年生のとき、近所に妊婦が引っ越してきた。はじめは特に気にもならなかったが、日に日に大きくなっていくお腹を見ていくうちに、ある思いが生まれてきた。
赤ちゃんに聞いてみたい。
自分は当たり前の行動として、人間を含めた生き物を殺してきたが、その当たり前のことをなぜ他の人は理解してくれないのか。
それはきっと生まれる前に、何かあったせいではないかと考えたのである。だから、まだ生まれてくる前の赤ちゃんにそのことを聞いてみたくなったのだ。
赤ちゃんならば自分の疑問に答えてくれるはずだ。
その日から、瑛斗は絶好の機会が訪れるのを待ち続けた。
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