第23話 響く銃声

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 残り時間――7時間49分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



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 つい数時間前には警察署に護送されるところだったというのに、今は目の前に色っぽい女がいる。隠れていた駐車場で紫人の話にのったときには、まさかこんな展開が待ち受けているとは考えもしなかった。ただ、追跡中の警察の目から逃れたいが為に、このゲームに参加しただけなのに。


 たしかにデストラップの恐怖はあったが、前兆さえ見逃さなければいいだけである。ヒロユキにしてみれば、デストラップよりも警察に見付かることの方が何よりも怖かったが、この病院内にいるかぎりは安全だろう。だったら今はこの状況を楽しむに限る。


 腹ごしらえは終わったので、次は性欲を満たす時間だ。テーブルの上には愛莉が横たわっている。ヒロユキは銃口の先を、愛莉の首元に突きつけた。


「うぐっ」


 愛莉の喉元が小さく動いた。


 ヒロユキは愛莉の反応を楽しむように、さらに銃口を下へと動かしていく。大きく盛り上がった胸元の間を銃口が通る。鼓動のたびに胸元が大きく上下に動く。


「なんだよ。鼓動が早いぜ。もう感じてんのか?」


 ヒロユキの挑発に対して、愛莉は唇を噛みしめて堪えている。


「いつまで耐えられるか見ものだな」


 ヒロユキは銃口を腹のあたりまで下げた。銃口を愛莉のシャツの下に潜り込ませる。そのままゆっくりと、今度は逆に上の方へと銃口を持ち上げていく。シャツが徐々に捲られていき、愛莉の肌が晒される。


 さらに銃口を上げようとしたが、そこで何かに引っかかってしまった。


 ヒロユキはイヤらしく笑みを深くした。銃口がブラジャーに引っかかったと分かったのだ。


「このでかい胸のせいで、これ以上銃が上がらねえよ。しかたがねえな。ここから先は手で脱がせるしかねえか」


 ヒロユキは隣のテーブルの上に銃を置くと、両手をブラジャーの下に潜り込ませた。


「すげーな。最高の胸だぜ!」


「くっ……」


 愛莉が苦悶の声をあげて、首を左右に振る。


「そんなにジタバタすんなよ」


 ヒロユキは指先をブラジャーの下に潜り込ませた。そのまま上に引き上げれば、ブラジャーからこぼれ落ちた愛莉の胸が見えるはずだった。



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 今までこの巨乳のせいで、キャバクラでどれだけエロイ目で見られてきたか。しかし、今日だけは巨乳で良かったと心底思った。


 ヒロユキに胸を触られたときはゾッと寒気が走ったが、このチャンスを逃すつもりはない。ヒロユキは両手をブラの下に潜り込ませて、完全に両手がふさがった状態である。



 やるなら今しかない!



 愛莉は両手を支えにしてテーブルから上半身を素早く持ち上げた。ヒロユキは咄嗟にブラジャーにかけていた両手を外すような仕草をしたが、ブラジャーの淵に指が引っかかってしまったのか、両手が自由に使えない。


 上半身を完全に起こした愛莉の目と、驚いたまま何も出来ずにいるヒロユキの目が、同じ高さで交差した。


「クソ野郎がっ! 人様の大事な商売道具を勝手に触ってんじゃねえよっ!」


 愛莉は頭を一回大きく後ろにそらすと、次の瞬間、躊躇することなくヒロユキの額目掛けて、渾身の頭突きをかました。


「うぐぎゅっ……」


 ヒロユキがそのまま後方に崩れ落ちる。


 愛莉はすぐさま隣のテーブルに手を伸ばした。銃を掴みかけたとき、床に倒れていたヒロユキが思い切り強くテーブルの脚を蹴飛ばした。振動でテーブルの上から銃が滑り落ちる。


「ちぇっ」


 愛莉は舌打ちをしながら、銃の落ちた方に視線を飛ばした。


 床の上を銃が滑っていく。


 それを目で確認すると、手近にあったイスを掴んで、まだ床に横たわったままのヒロユキに叩きつけた。


「ぐべっ!」


 ヒロユキが悲鳴を発した。


 愛莉は悲鳴を無視して、さらに続けてイスで叩きつけた。


 ヒロユキは両腕を交差させて、イスからの衝撃を防御する。さらに足を伸ばして、愛莉の足を払いに来た。


 愛莉はテーブルに右手をついて、辛うじて床に倒れるのを防いだ。こうなってくると体力的に弱い愛莉には不利となる。


 すぐに床に落ちた銃の位置を確認した。そちらに向かってダイブするようにジャンプする。床の上を滑りながら、どうにか銃に飛びついた。



 よしっ! これさえあれば勝てる――。



 右手の先に硬い質感が伝わってくる。床の上で体を回転させて、うつ伏せから仰向けになる。同時に手にした銃を後方に構えた。


「遅いんだよっ!」


 ヒロユキが鬼の形相で飛び掛ってきた。手にしていた銀のトレイを横殴りに振り払ってくる。


 トレイが愛莉の手首を強打した。その衝撃で愛莉の手から銃が飛んでいく。


 ヒロユキがすぐに銃の元に走った。手に走る痛みの為、愛莉は動くのが一瞬遅れてしまった。銃を失い無防備になったので、慌てて倒れているテーブルの陰に隠れる。


「おい、そこにいるんだろ! おとなしく出てこいよ!」


 ヒロユキの怒声がホールにこだまする。


 愛莉は絶体絶命の状況に陥った。テーブルの影から少しだけ顔を出して、ヒロユキの姿を確認する。


 ヒロユキはどっしりと銃を構え、その銃口は一直線に愛莉の方に向けられていた。これではお色気作戦も通用しないだろう。


 必死に頭を働かせるが、銃に勝てる方法などすぐに思いつくはずもなかった。

 

 万事休すである。


「出てこねえのなら、こっちから――」


 ヒロユキの言葉に重なるようにして、レストランの入り口のドアが大きな音を立てて開いた。


 愛莉は音のした方に咄嗟に視線を向けた。ヒロユキも視線を自分の背後――ドアの方へと向ける。


「誰だか知らねえが、ヒーロー気取りで助けに来たんだったら気をつけな! 一歩でもこの中に入ってきたら、この女を撃ち――」


 瞬間、レストラン内が白い世界と化した。


 愛莉の視界も白一色となった。



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 中から漏れてくる人が争っているような音を聞いて、ヒロトは突入を決めた。レストラン入り口のドアを勢い良く開け放つ。ドアの音ははじめから気にしていない。重要なのはスピードである。


 ドアの影に隠れながら、手にしたホースをレストランの中に向けた。安全ピンはとっくに抜いてある。レバーを強く握り締めた。ホースの先からもうもうと白煙が噴き出す。


 一瞬で、レストラン内は白い世界と化していく。


 ヒロトは躊躇することなく『消火器』の中身をすべてぶちまけたのだった。



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 愛莉が目の前の変化に呆然としていると、白い世界から不意に現れた手に腕を掴まれた。


「お前は早くここから逃げるんだ!」


 白い視界の中で声だけが聞こえた。


「えっ、誰なの?」


「そんなことはいい! ここはオレに任せろ!」


「わ、わ、分かった!」


 愛莉は白い世界の中、無我夢中で前に向かって走り出した。


「クソっ! ふざけたマネしやがって! 覚悟しろよ!」


 姿は見えないが、ヒロユキの怒りに満ちた声が聞こえた。



 パアンンンッ!



 風船が割れたような音がした。瞬間的に銃の発砲音だと悟った。


 でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。視界が利かないので足や腰にイスやテーブルがガンガンがぶつかってくるが、愛莉は無視して走り続けた。アドレナリンが分泌している為なのか、特に痛みは感じなかった。


「こんな見えないところで、銃なんかブッ放してんじゃねえよ!」


 さっきの声が怒鳴っている。


「誰だ、てめえ!」


 ヒロユキが怒鳴り返す。


「通りすがりの正義の味方さ!」


「その声……そうか、あのボウズ野郎か!」


 二人の声が後方に消えていく。同時に、目の前にレストランの入り口のドアが見えた。


 愛莉は開けっ放しになっていたドアを走り抜けた。そのまま止まることなく、廊下を突き進んでいく。

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