第17話 疑心暗鬼の会議

 ――――――――――――――――



 残り時間――9時間43分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



 ――――――――――――――――



 スオウたち三人が五階のホールに戻ってくると、さっそく円城が近寄ってきた。


「どうでした?」


「さっき円城さんが言った通り、九鬼のオッサンは確かに亡くなっていた。ただ、手にはこの薬をしっかりと握り締めていたけどな」


 瓜生が手にした薬の箱を円城に見せる。 


「それじゃ、ミネさんは助かる――」


「いや、これは完全に治す薬じゃないんだ。あくまでも症状を緩和させるだけの非常用の薬だから」


 瓜生がソファに横たわるミネの元に歩いていく。ミネのそばにいた愛莉が、心配そうな表情でミネを見ている。


「バアさんはどんな感じだ?」


「ずっと苦しそうな息遣いのまま変わらずって感じ」


「分かった。これである程度で症状が軽くなってくれればいいが」


 瓜生が薬の箱を開いて中から注射器を取り出す。そして、慎重にミネの太ももに針を突き刺した。薬の効果がすぐにあらわれたのか、ミネの呼吸が先ほどまでと比べて、弱冠落ち着きを取り戻したようにみえる。


「これで大丈夫のはずだ。もっとも、俺たちにはこれ以上出来ることはないけどな。あとはバアさん自身の体力にかけるしかない」


「このゲームが終わるまで、ミネさんの体力はもつの?」


「そればっかりはおれでも分からない。ゲ-ム終了まであと10時間を切っているから、そこまで何がなんでも生きててもらうしかないさ」


 瓜生はそれでミネの話は終わりだという風にホールの中央に戻っていく。


「さて、バアさんのアナフィラキシーショックは応急の処置を施したし、ここらで一度、作戦会議でも開こうと思うんだが、みんなの意見を聞きたい。――何か話したいことがある人間はこの中にいるか?」


 瓜生が作戦会議の話を切り出した。あらかじめそのことを知っていたスオウは、冷静に他の参加者の様子を観察していた。この中にあるいは九鬼を階段から突き落とした犯人がいるかもしれないのだ。


「なんだ、それ? 急に作戦会議なんておかしくねえか?」


 さっそくヒロキが噛み付いてきた。


「おまえだって今のこの状況が危険だってことぐらいは分かってるだろう?」


「そんなことおめえに言われなくたってわかってるぜ! それと作戦会議がどうつながるのか聞いてんだよ!」


「だから、ここで一度みんなで話し合って、デストラップに対して万全の体制を整えるんだよ。これ以上犠牲者を増やさない為にもな」


「けっ、罠にかかった奴はドジっただけだろうが」


「だとしても次のデストラップの犠牲者がお前じゃないとは言い切れないんだぜ。それでもいいのか?」


「オレは自分で自分を守れるからお構いなく」


「そこまで言うなら好きにすればいいさ。――それじゃ、他の参加者はどうだい?」


 瓜生がヒロキ以外の参加者に目を向ける。


「僕は瓜生さんの意見に賛成します。しっかり作戦会議をして、これからの行動をみんなで真剣に考えた方がいいと思う」


 五十嵐が最初に瓜生の案に賛成票を投じた。


「私も作戦会議をした方がいいと思う。短時間でいろいろ起こりすぎて、みんな、内心では浮き足立っているだろうからな」


 円城が五十嵐に続く。


「難しいことは分からないけど、アタシも賛成」


 愛莉らしい言葉で意思表示をする。


「これで三人は会議に賛成ということだな。残りは――」


 瓜生が壁際でお腹をさすっている薫子に視線をやった。薫子は話し合いよりも自分のお腹が気になるようで、瓜生の視線に気付いていない。


「久里浜さんはどう思いますか?」


 瓜生に代わってスオウは薫子に声をかけた。薫子の様子が最前から少し気になっていたのだ。情緒不安定ともいえるくらいに怯えているのだ。


「えっ? あの……なんですか? 私のこと、呼びました……?」


 どうやら話すら聞いていなかったらしい。


「みんなでこれからどうしたらいいか、作戦会議をしようという話をしていたんだけど」


「ああ……それなら、みなさんにお任せします」


「分かりました。反対ではないということですね」


「あ、はい、そうかな……」


 最後までこちらの話をちゃんと聞いているのかどうか分からない態度の薫子だった。どうやら話よりも、自分のお腹のことが気になっているらしい。個人的なことになるので聞こうかどうか迷ったが、これから重要な会議をするのだから、一応確認の意味も込めて聞いてみることにした。


「あの、さっきから随分お腹を気にしているみたいですが、もしかして体調がすぐれな――」


「いえっ! そんなことありませんっ! 私のことは構わないでくださいっ!」


「あっ、そいうつもりじゃなかったんですが……すいませんでした」


 突然、金切り声で張り上げた薫子の反応に、スオウは何がなんだか分からなかったが、とりあえず謝った。


「スオウくん、ありがとう。薫子さんの意見は分かったから。――ところで、君たちは二人は賛成でいいんだろ?」


「はい、賛成です」


「わたしも賛成に一票入れます」


 瓜生の問いかけにスオウとイツカの二人は答えた。


「これで賛成が六票だな。残りの二人は――」


 これで意思表明をしていないのは、ヒロトと瑛斗の二人だけになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る