剣士と商人の実家脱出

大沢 朔夜

「足さばきが遅い!」

 父上の怒声どせいが、道場いっぱいに響いた。



 明り取りの窓から薄く光が差し込む、午前の道場。そこで五歳の私は、父上から初めて剣術の手ほどきを受けていた。

「よいか。こう……こうだ! やってみろ!」

 そう言いながら、木刀を握る父上は、敵の剣を受け流しながら身をかわし、そして反しの斬撃ざんげきを繰り出す一連の動作をやってみせる。脇差わきざしの短い木刀を握る私が、それをつたない動作で真似ると今度は、

「ちゃんと防げ! さもないとお前は斬られておる!」

 と、刀での防御の甘さを叱られる。

 まだ幼かった頃のことだ。そのように叱られながら教えられていると、しまいには私は泣き出して――そして、頬に父上の平手打ちをもらう。

「泣くな! 戦場では敵はお前が泣き止むのを待ってはくれん!」

 そう怒鳴られて、私はどうにか泣き止もうとする。

 散々怒鳴られて泣いて叩かれたその日の稽古の終わりに、

「お前は桂木かつらぎ流を継ぐ一人息子だ! 今日からみっちり教え込む! 覚悟しておけ!」

 と父上から言われ、私は思った。私も将来は、この人のようにならねばならないと。

 それを疑わず、私は十七歳まで生きていた――

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