第157話 大暗黒剣の威力
大暗黒剣ノヴァ。
史上最強の魔族と言われ、唯一魔界を統一した魔族……魔帝ルシエル。
そんな魔帝が使用したと言われる伝説の魔剣がノヴァ。
莫大な魔力を剣に宿し、使用者はその魔力を手にする事ができる。
たとえ砕けたとしても、一定の周期で復活する。
復活の周期には常に争いが起きる。大暗黒剣の奪い合いの……
前回は祭壇の崩壊により、獲得者はなし。
――しかし、今日この日……大暗黒剣ノヴァを獲得する者が現れた。
帝王軍支配地域で細々と反抗していた、ちんけな盗賊団組織……グランド。
その副長たる、カゲツ。
大暗黒剣ノヴァはその男の手にわたってしまった。
♢
カゲツは高笑いをしつつ、ノヴァを振るう。
――瞬間、祭壇は一瞬で消え去り、間近にいたヒカリとゴルドを弾き飛ばす。
「きゃ!」「があ!」
祭壇が崩壊したことにより、外にいる者達全ての視線がそこに集まる。
そして、大暗黒剣ノヴァを持つ男を発見する。
この場の全員が、ノヴァを手にした男に気づいたのだ。
「は? あれだけお膳立てして何をやってるのかねゴルド殿は」
理暗と戦闘中だった、八百万八傑衆のネビュラは呆れる様子を見せた。
「ノア。後始末はゴルド殿に任せよう」
「はぁーいお兄ちゃん。キャハ!」
地獄兄妹はこの場から離れだす。
二人と戦闘していた理暗と南城は取り残される形になる。
普段の二人ならば、逃がさんと、後を追うところだが……
ノヴァを手にしたカゲツを前にして、そんなことする余裕はなかった。
理暗は取られたなら取り返すという判断。
南城はまず、仲間の救出を考える。
この場にはまともに動けなくなってる天界軍の仲間が多い。逃げるだけでもできるかどうかわからない。
それに、カゲツがこれからどんな行動をしてくるかも読めない……
カゲツは辺りを見渡す。
そして……言う。
「ノヴァがどれ程の物か……お前らを皆殺しにして試してみるとするかぁ?」
ノヴァの試し切り……
この場にいては危険すぎる。
だが動けない者を見捨てるわけにはいかない。
「水無瀬ぇ! ダスト! お前達は動けない者の救出しろ!」
そう叫ぶと、南城はカゲツの元に向かう。
理暗もまた動く。対帝王軍のためには大暗黒剣は必須。
わけのわからない賊に渡してなるものかと……
「何人でもかかってこい。全員返り討ちだ!」
カゲツはノヴァの闇魔力を解放する。
発生した魔力は渦をまき、放たれる。
影のように長く伸びる闇の魔力は理暗、南城の二人の腹部を貫く。
「「がはっ!」」
さらに伸びる魔力は、そのまま二人の手と足をも貫いていく。
辺りに血を撒き散らし、二人は倒れる。
「おいおい。まだ序の口だぞ?」
「はぁっ!」
今度はヒカリが全速力で攻撃を仕掛ける。
四聖獣白虎の最速。反応できねば対処も不可能なはず。そう思い仕掛けた。
「
音速すら越えかねない速度の、雷属性の爪撃。
常人なら反応すらできずに切り刻まれる一撃……
――しかし。
大暗黒剣から放たれる魔力が、ヒカリの両手両足を縛り、捕らえた。
「なっ!?」
「素晴らしいなノヴァは。オレが反応できない攻撃すら、自動防御してくれるのだからな」
そう、カゲツは今のヒカリの攻撃に反応できていなかった。
なのにノヴァ自身が勝手にヒカリを捕らえた。
まさに攻防一体の魔剣……
「そら。白虎を血祭りにあげろノヴァ」
放出される闇の魔力が、ヒカリの全身を切り刻む。
「がっはっ……」
ヒカリは全身から血を吹き出し、白目をむいてその場に倒れる。
深い切り傷がその身に刻まれている。今にも腕が落ちてしまいそうなほどの……
「四聖獣すらこうも容易く仕留める力……ふ、フハハハ! まさに最強! オレこそが! 魔界の頂点だ!」
カゲツは高笑い。自らが最強。そこに間違いはないと、完全に油断している。力に溺れるとはこの事だろう。
だがしかし、それでもその油断の隙すら作らせないのがノヴァの恐ろしさ……
先ほどのヒカリも完全にその油断をついていた。なのに結果はあの様……
遠目で見ながら、怪我人を逃がすために動いてる水無瀬は思う。
(逃げるしかないわ……)
頼みの四将軍、燕は死に、天海とヒカリは再起不能……
自分やダスト、皆木がかかろうが、結果は目に見えてる。
唯一なんとかできる可能性のある神邏は、帝王六騎衆のベバルと戦闘中のはず……助けになどこれない。
「ガキがなめるなあ!」
ゴルドが動く。
奴は敵だが、カゲツをどうにかしてくれれば逃げる隙を作れるかもしれない……
まさか帝王軍に期待することがくるなんてと、水無瀬自身、信じられない状況になっていた。
「パイロン! やれ!」
この場にいない、謎の人物の名を叫ぶゴルド。
すると辺りが暗くなっていく。
「ん? 誰かの能力か……」
何者かの能力……だがこの暗闇では誰がどこで何をするつもりか全くわからない。
だが、カゲツは余裕の表情を崩さない。なにがあろうと、負けることなどありはしない。そう思い込んでいるからだ。
「ワガ能力、受ケテ見ルガイイ」
暗闇から仮面だけが見えてくる。こいつこそがパイロン。
八百万八傑衆最後の一人、夢遊使いパイロンである。
「知ってるぞ貴様。確か相手を特殊な空間に引きずり込む能力者だ。その空間内では、あらゆる事象を具現化するんだとかな」
「ゴ明答」
カゲツの目の前に、魔物の大軍が現れる。
カゲツは即座に始末しようとするも、体が無性に重く感じる。
「動キ辛イダロ? 何セ、オ前ノ体感時間ガ遅クナッテルカラナ」
カゲツ自身の感じる一秒間は五秒間に変わっている。
どういう事かというと、一秒間にできる行動の全てに、五秒間の時間がかかるということだ。
相手への攻撃速度が一秒から五秒に変わるだけで、攻撃速度が異常に下がるのは目に見えてわかるだろう。
体の重さはそれが理由。
「サア、魔物達ノエサトナレ」
魔物の大軍が、カゲツに一斉に襲いかかる。
「くだらねえな……知っているか? 大暗黒剣はな、莫大な魔力だけでなく、能力を作る事ができるんだよ」
カゲツはノヴァの能力を解放する。
「ノヴァよ。能力の作成だ。オレの封印能力を、対象の名を呼ぶだけで発動可能にしろ」
ノヴァの刀身が光輝くと……
「パイロン」
――瞬間、パイロンの作りあげた暗い空間は砕け散る。
「何!?」
気づいたらパイロンの全身に、鎖が絡みついていた。
いつの間にと、驚くパイロン。
「言ったろ? 名を呼んだだけで能力が発動するとな。そしてオレの能力は、相手の魔力と能力を封じる。言いてえ事はわかるな?」
パイロンは冷や汗をどっとかく。自らの魔力の減退を感じ、能力も使えなくなっていたからだ。
「はいサヨナラ」
カゲツはノヴァを振るい、パイロンの首を落とした。
八百万八傑衆を容易く葬って見せた……
パイロンはけして、弱くなどない。魔力ランクはS相当。それが赤子同然に……
今のカゲツを止めれる者はこの場にはいないのかもしれない。
水無瀬はそう思った。
「おいよそ見してていいのか?」
水無瀬の背後からヴァイソン強襲。そう、カゲツだけでなく頭のヴァイソンもまだ健在なのだ。
ゴルドの能力がようやく切れ、水無瀬、皆木、ダストは動けるようになる。
ヴァイソンの攻撃にギリギリ回避が間に合った……が、
「カゲツ! まずこの三人を仕留める! おれさまに楯突いたんだからな!」
「了解、頭」
カゲツはまたも、ノヴァを影のように伸ばし、三人に向けて放つ。
あまりの速度に反応できず、三人は串刺しに。
勢いそのままに、地面に三人は叩きつけられる。
グネグネうごめく闇の魔力が、三人の足と腕を地面ごと刺し動きを封じる。
「うう!」「いったあ!」「がっ」
ヴァイソンはまず、ダストの頭を踏みつける。
「が、がああ……」
「てめえは坊っちゃんと一緒になめた事してくれたからなあ……まずてめえからズタボロにして殺してやるよ」
ヴァイソンは至近距離でダストに魔導弾を連射する。
「がああああ!!」
あえて苦しむように威力を弱め、何発も何発も放ち、拷問するかのようにダストをいたぶるヴァイソン。
「がああああ!!」
「ははは! 泣け! 叫べ! バビロンなんかと手を組んだ事を後悔しながらくたばりな!」
その後もヴァイソンの暴行は続く。その数々の攻撃により、ダストの手足はへし折られてしまった。
「まだ終わらねえ」
ヴァイソンは自らの腕を魔物の爪に変換させ……ダストを刺す。
「ぐ! が……」
「猛毒入りだ。たっぷり味わいな……」
水無瀬はその様子を黙って見てる事しかできない。
このままではダストは殺される。そして魔の手は時期に自分と皆木にも……
ヒカリもやられ、南城と理暗も串刺しで動けない。
まさかゴルドなんかに頼れない。
水無瀬は自分の弱さを呪う。
(誰か……誰か助けに来て……)
もはや願う事しかできなかった。
ヴァイソンはともかく、今のカゲツに太刀打ちできる味方などいないとわかっているのに……
「そろそろ……死ぬか? ダストよ」
「ぐあはあああ!」
(助けて……! 神邏!)
『……賊風情が、生意気だな』
刹那、ヴァイソンの両腕が突然地面に落ちた。
「え? があああああ!」
血を吹き出し、痛みに悶えるヴァイソン。
水無瀬は驚く。本当に助けが来たのかと。
視線を上げると、そこにヴァイソンを切った人物が立っていた。
残念ながら神邏ではない。
そこに立つは……
銀髪の美しい容姿をした、冷たい目をした魔族……
シャド。
――つづく。
「え、敵ですもんね……で、でもグランドとも敵ですし……潰しあいになるかも?」
「次回 シャド対カゲツ。こ、この隙に逃げましょう!」
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