第156話  大暗黒剣を手にした者

「誰でもいい! ゴルドを止めろぉ!」


 南城は、喉が切れるかもしれないくらいの大声で叫んだ。


 水無瀬、皆木、ダストが向かう。


「フン、邪魔をするな。【錆び】【神条ルミア】【帝王陛下】」


 ――瞬間、三人は地に倒れ伏す。三人の苦手な、嫌いなワードをくらったからだ。

 ゴルドの能力、言葉の重圧ゴシックプレスだ。


 水無瀬は剣の錆びが嫌い。ダストはローベルトや自分を追いやった帝王が嫌い。

 皆木は……神邏の隣をルミアに奪われた恨みと言ったところか。


「そこで地面にキスしとるんだなガキ共」


 ゴルドは心底見下した顔でその場を去り、祭壇に向かう。


「ぐっ! くそ!」


 必死に立ち上がろうとする水無瀬とダスト。

 皆木は少し諦めムードだった。


「やっだぁ~なんであいつ叶羽さん達の嫌いな言葉知ってるの~?」

「知るか! 情報屋でしょ!」

「情報屋……なーんでそんなピンポイントなやつなんだろ」

「は?」


 皆木は顔だけ動かし、水無瀬を見る。


「あんたらはともかく、叶羽さんは神条さんだなんて、効くかどうか微妙なチョイスしたからさ」

「どういう意味よ」

「確かに叶羽さんはあの子の事嫌いだけどさ、一応は和解してるんだよ~?」

 ※91話参照。


「それくらいの情報、知ってるはずなのに、あえて神条さん。なんか叶羽さんの事はあんまわかってないみたいだよね~」

「……」


 情報屋は天界のスパイ、皇から情報を受け取ってると推察している。

 皆木は天界の者ではない。ゆえに情報不足なのかもしれない。


「ならあんた、効果切れたらもう、能力を受けない可能性あるわね」

「もう嫌いな物知らないかもしれないもんね」

「あんたに任せるわ。命運」

「めんど~」


『じゃあてめえはここで殺しとくか』


 ――!?


 声のした先には充満した煙……

 オーギルの自爆現場だ……


 煙が晴れ、魔族が姿を現す……

 その魔族はグランド頭領ヴァイソン!


「あのやろう生きて!」

「オーギル坊っちゃんは無駄死にだ。魔物変異により、爆炎に強い魔物の肌へと変換したんだ。それでもダメージは避けられなかった。本来ならな」


 ヴァイソンはオーギルの腕だったものを投げる。


「おれさまを掴んでた腕切って、逃げおおせたから、大してダメージも受けなかったわけよ」

「野郎……」


 動けない三人に迫るヴァイソン。


「お前さんバカか!? 狙いは大暗黒剣だろ!? 小生達よりゴルドだろ!」


 ダストは正論を叫んだ。

 グランド頭領のヴァイソンにとっても、大暗黒剣入手は急務。

 その上敵として一番厄介な帝王軍に渡るなど、あってはならない事なはず。


「当然奴らには渡さねえさ。お前らにもな」

「ぐっ……くそ!」


 動けない三人は格好の的だ。殺せる隙があるならつく。そういう事だろう。


 一方、ゴルドはすでに祭壇に入り込んでいた。


「ん?」


 矢に銃弾、その他もろもろがゴルドに襲いかかってくる。


「ふんくだらん」


 軽く腕を振るうだけで、それらをしりぞける。

 おそらく罠が仕掛けられていたのだろう。


 この戦争に参加していた者か、それとも元々仕掛けられていたものかは判断がつかないが。


 どちらにせよ、負傷してるゴルドの足を止めるほどの罠ではなかった。


 祭壇内を進むと、魔宝玉を置くであろう丸いくぼみを見つける。

 そこに魔宝玉を設置する。

 くぼみの大きさと魔宝玉は一致する。やはり設置場所だったと思われる。


 わずかな静寂の後、祭壇内に秘められた魔力が、魔宝玉に集中していく……

 凄まじい魔力だ。


 魔宝玉は少しずつ形を変えていく。ゆっくりと、剣へと姿を変えていくのだろう。

 みるみる高まる魔力と、剣に少しずつ変貌していく魔宝玉に恍惚とするゴルド。


「す、すごいではないか……これ程の物を吾輩が手中に納めれば、帝王六騎衆の上位にも登り詰めることができるかも……」


 最高幹部たる、帝王六騎衆の座にいるとはいえ、ゴルドの実力は末席。

 下からの追い上げもあるゆえ、その立場は磐石ではない。

 

 シャドや地獄兄妹がいい例だ。


 バロンが死んだため、シャドの六騎衆昇格時に下に落とされることはなかったが、地獄兄妹が手柄を上げたら降格もありえる。


 地獄兄妹の戦闘能力はゴルドと差はあまりない。

 特にネビュラに至っては時間を止める能力者。汎用性が高く、昇格の可能性は充分ある。


 だからこそ、ゴルドは今回の作戦に賭けていた。

 伝説の魔剣さえ手に入れば、自分の帝王六騎衆としての立場は揺るがない。


 そして今、その願いが叶う寸前まで……


「――!?」


 ゴルドは、電気が走ったかのような速度で動く、何者かを察知する。


 狙いは大暗黒剣で間違いない。


 ゴルドは身をていして、魔宝玉への道を閉ざす。

 

 凄まじい速度で現れた者の一撃が、ゴルドの胸部を貫く。


「がふっ!」


 そしてすぐさまその相手の腕をつかむ。ゴルドを貫いたのは鉤爪。


 鉤爪を使うものなど、一人しかいない。


「確か貴様……白虎!」


 そう、目にも止まらぬ速度で魔宝玉を奪いに来たのは天界四将軍兼、四聖獣白虎の西ヒカリだった。


 白虎光爪ウエストクローでゴルドを貫いたのはよかったのだが、奴の筋肉と魔力が爪を締めつけ抜けないようにされてしまった。

 ゆえに、ヒカリの腕が奴に掴まれたのだ。


「いかに速かろうが、こうしてしまえば後の祭りよ」

「汚い手でワタシに触れるな」


 ヒカリは自らの全身に電気を放出。

 凄まじい電撃が、腕を掴んでるゴルドの体に駆け巡る。


 しかし、感電してなお、ゴルドは腕を離さない。


「その程度では……離さん!」


 ゴルドはヒカリの腕をへし折ろうと、握り潰す!

 ヒカリもまた、その痛みに負けずに電撃を続けて放つ。


「このクソあまぁ! おとなしく死ね!」

「こっちのセリフだ。三下!」

「三下……だとお!」


 もう片方の腕でヒカリに殴りかかるが、器用に彼女は回避する。


 ならばと、ゴルドは能力を発動する。


「【生徒!】」

「――で?」


 能力は発動せず、電撃を強めるヒカリ。


「なにぃ!? ふ、不発……がああ!」


 ついに電撃を耐えきれなくなってくるゴルド。しかし、意地で腕を離さない……

 だがなぜ発動しなかったのか……


 答えは簡単。ヒカリの苦手なフレーズではなかったからだ。


「大方、情報屋とかいう奴から聞いたんでしょ……ワタシの嫌いなもの」

「――!?」

「情報屋は天界軍のスパイ、皇から情報をもらってたはず……でもおあいにくさま。ワタシは自分の好き嫌いを天界軍の誰にも教えてはいないの」

「なんだと……!? ではこのもらった情報は……」

「嘘八百。皇のアホが知った気でいただけでしょ」


 ゴルドの能力は、相手の嫌いなものが分からなければ、何の効力もない。

 ゆえに、ゴルドは情報屋を重宝していた。


 相手の嫌いなものを情報として、奴は多くもっていたからだ。

 今までの天界軍の嫌いなもの情報は、全て奴から提供を受けていた。それゆえに信用しすぎていたのだろう。


 ゴルドの能力は嫌いなものかどうかにかかわらず、能力一回として処理される。一度のフレーズで五分は効果がある。

 つまり五分間は能力を使えないことになる。たとえ重圧がかかってなかったとしてもだ。


 この五分が勝負……


「はあ!」


 ヒカリはゴルドを貫いている鉤爪にも電撃を放つ! ありったけの魔力を込めて!


 この五分でゴルドを黒こげにして殺す。そうすれば大暗黒剣は奴らに渡らない……


「がああ! く、クソがクソがクソがぁ!」


 しかし、ゴルドも負けじと掌底の連打! ヒカリはそれをまともに受ける。頭部は血に染まり髪の色が赤く染まったかのような錯覚を受ける。


(離すもんですか……ゴルドを始末するチャンス……みんなの犠牲を、ワタシが不意にするわけには……)


「いかないのよ!」

「がああ!」


 電撃はさらに強く放出される。

 まさに互いの我慢比べ。どちらが先に死ぬかの……


 そんな時だった。


 祭壇に捧げられた魔宝玉が発光しだす。光は禍々まがまがしい闇の魔力を秘めた剣に変貌する。


 大暗黒剣ノヴァ、ついに完成。


 ヒカリもゴルドもそれに気づいた。しかし、敵を仕留めねば取りにいけない……

 ならまずは、目の前のこいつを殺す! 二人の意思は一致していた。


 ……


 何かの金属音が耳に入る。


 突如二人は、祭壇のどこからか放たれた鎖の存在に気づく……が、避けれず縛られる。


「なっ!?」

「がっ!?」


『ご苦労様。ノヴァを完成させてくれて』


 祭壇内から突然ある人物が現れた。この男、祭壇内で隠れていたようだ。二人は互いの事にしか意識が向いてなく、気づく事すらできなかった。


「誰だてめえは!」


 ゴルドの叫びに男は答える。


「盗賊団グランドの副長、カゲツ」


 そう。神邏と戦い、彼に封印をかけた後、逃げ帰っていたはずの男がそこにいた……

 ※140話参照。


 奴は神邏にやられた傷を癒しながら、人知れず祭壇内に忍び込み待機していたのだ。魔宝玉を誰かがもってくる、その時を待つために……


「互いに潰しあってくれて助かった。礼を言うぞ二人とも」


 カゲツは大暗黒剣ノヴァに手をかける。


「ふざけるなぁ! それは吾輩の!」

「グランドごときが触れていい物じゃない!」


 ゴルドとヒカリの叫びもむなしく……


 ノヴァはカゲツが握ってしまう。


『決まりました~!』


 またもノヴァ本人の声が天に轟く。


『大暗黒剣所持者決定~! ノヴァはカゲツ殿の剣となりました~!』


「ふ、ふふふふ。ハーッハッハッハ!! 見たか負け犬共! このオレが、カゲツがこの戦の勝利者だ!」


 ゴルドとヒカリは絶望する。


 大暗黒剣ノヴァはカゲツの物となってしまった。


 天界軍でも、帝王軍でもないグランドの副長が手にした……

 とんでもない番狂わせが起きてしまったのだ……


 だが、カゲツは勘違いをしている。

 ノヴァはカゲツの物となったが……


 




 ――つづく。



「え、ええええええ!? あんな組織がノヴァを!? わけわかんないですよどうなってるんですか! で、でも帝王軍に渡らなかっただけマシなんでしょうか……?」


「次回 大暗黒剣の威力。き、気になりますね……」


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