第136話  傲慢

 周防はブレボスの能力、。それ事態を疑う。

 それだけ大規模な能力を、魔力の消費も時間制限も回数制限もなく、範囲も広いなんてありえないからだ。

 使う事にリスクがあるようにも見えない……


 だが現に、奴の思った事が現実に起きてるように見える。

 何か種があるとは思うが、そう見せられるだけの強力な能力に間違いはない。


 奴の能力がはっきりするまで、様子をみたいところ……

 しかし、ブレボスは周防を一番警戒している。能力をゆっくりと考える暇など与えてはくれない。

 どうすれば……


「おい周防。どうした? もうくたばったのか?」


 ブレボスは、煽るように呼び掛けてきた。

 そう思わせておいた方が都合いいか? と、周防は思う。

 死人に警戒する必要ないだろうし。


「死体かどうかはどうでもいいか。五体満足でいられると、いつ立ち上がってくるかわからなくて気味がわりい」


 ブレボスは自らをを取り囲む、魔力のコウモリを周防へと放つ。

 死体だろうがお構いなく、バラバラに切り刻むつもりなのかも。


 仕方ないと思い、起き上がり、逃げようかと思ったら……


「みんな! 周防隊長を守るんだ!」


 引き連れていた天界軍の兵と、低ランカーのみんなが肉壁となり、周防を守ろうとする。


「おれ達では何の役にも立たない! ならせめて、戦力の方々の盾になるんだ!」


(何をバカな事を! 命を捨てる気かい!)


 そう思ってる間に、コウモリが兵隊達に襲い……


「だったら小生に力貸しな!」


 ダストが自らの能力で作り上げた盾で、コウモリの突撃を防ぐ。

 その後、ダストは大きな盾を精製し、兵隊達に渡す。


「それに全魔力を集中するんだよ。そうすりゃ少しの間くらい耐えられる!」


 兵隊達は言われるがまま受けとる。そして、人一人隠せるくらいの大きな盾に、全魔力を集中する。

 

 人に魔力を託すといった行動は、相性などが悪いとうまくいかない。たが、魔力に耐えうる武器なら、他者の魔力が入り乱れようがそのまま力になり得る。

 とはいえ武器聖霊スピリットウエポンでもなければ、耐えれる魔力に限界があるのだが。


 兵隊一人一人の魔力は低くても、みんなで盾に魔力を集中させれば、相当な防御力になる。

 いかにブレボスが強くても、そう簡単にぶち壊せるほど、やわな盾ではなくなったのだ。


 コウモリが突撃してくるも、盾が見事に弾き返していく。

 とはいえ盾も無傷とはいかない。大きな傷が、一発受けるだけで何ヵ所もついていく。


「ふん」


 ブレボスはコウモリを旋回させ、盾のないところから攻めようとする。


「させねえさ!」


 ダストはさらに盾を大量精製。

 それも兵隊は装備し、周防を守る、盾の城を形成する。


「味な真似を」

「スキあり!」


 意識がそちらに向いてるスキに、九竜は戟で切りかかる。

 だがコウモリがブレボスを守るように盾になり、九竜の攻撃は弾かれてしまう。


「マヌケ。オレにスキなんかねえんだよ」

「くっ! それなら……」


 戟を振り回し、魔力を集中する。何か技を仕掛けようとしてるのだろうが……


「おせえんだよ」


 ブレボスはコウモリを大量射出! 九竜はその連撃に引き裂かれ、悲鳴と共に倒れる。


「九竜!」


 ダストの叫び。

 九竜は血にまみれ、倒れ込み気絶。

 まだ息はある。しかし出血の量からして、致命傷を受けたとしか思えない。放置すれば死の危険も……


「くだらねえ遊びは終わりだ。次の一撃で、その邪魔な盾も全部粉々にしてやるよ」


 ブレボスは宣言する。

 もしやまた、奴の思った事が現実になるのかと、ダストは警戒する。


 ブレボスは横目で禅昌寺を見る。禅昌寺はすでに戦意を喪失しかけていた。

 兵隊のみんなが肉壁となろうとしていた時も、一人だけボー立ちで動く事もできていなかった。


「む、無理だ……またあいつの思った事が現実になる! 盾は全部切り裂かれてしまう……」


 ブレボスはそんな禅昌寺の様子を見てニヤリとする。その後、コウモリを大量射出。

 大丈夫だ。さっきは全弾防ぐ事ができた。そう何度も受けきれはしないだろうが、まだ大丈夫……

 

 ――そんな希望は無惨に砕け散る。


 射出されたコウモリは、全て一直線に突撃。

 ……そして……

 盾、全てがバラバラに切り裂かれてしまう!


「何!? そんなバカな!」


 そして、コウモリ達によってダストと兵隊は吹き飛ばされ、周防を守る肉壁は、がら空きとなってしまう。


「うがあああ!」「ぎゃああ!」


 全員吹き飛ばされ、コウモリにズタボロにされて倒れ伏す。だが全員に息はある。重傷だが……


(おいおい嘘だろ? さっき防げた攻撃が、なんで今度はあっさり破られるんだ!?)


 奴の言った通り、盾は破壊された。

 まさに思った事が現実になったかのよう……?


(ん? あいつ粉々って言ったよな? 破壊こそされたが、盾は切り裂かれただけで粉々にはなってないぞ?)


 破壊された盾は、コウモリの羽により、綺麗に切り落とされただけ。粉々にはなってない。


(思った事が現実になるのが事実なら、なんかおかしくないか?)


 ブレボスの発言と思った事が違う……? そんな変な事するだろうか?


 それに、あれほどの魔力の盾を切れるなら、ダストや兵隊達が無事なのも違和感。

 共に切り裂かれ、死んでてもおかしくないのに。


 ダスト達が切り裂かれるとは思わなかったのか? だとしたら何故? やはり思った事が現実になるわけではないからか?


 でも、盾は破壊された。差異こそあるが。


 一体どういう事なのかと、頭を巡らせる周防。

 そんな時、視線が禅昌寺に向かう。

 そういえば、ブレボスは先ほど禅昌寺を見ていた……


 禅昌寺は……全くの無傷だった。戦意を失った相手など、無視していいから攻撃していないのだろうか……?


 よくよく考えれば、最初に周防に不意討ちした後は、様子を見るかのように、攻撃の手を少し緩めていた。

 

 他のものに攻撃を仕掛けだしたのは、能力が発動した辺り……


 そして先ほどの流れ……


『全部粉々にしてやるよ』

『全部引き裂かれてしまう!』


 ――!?


 周防は察する。


(そうか……。違うのは、)


「禅昌寺! 九竜は無事だ! 攻撃当たってねえからな!」

「え? そうなんですか!」


 周防の叫びに反応した禅昌寺は、一目散に倒れた九竜の元に向かう。


「あ、あれ?」


 気絶してた九竜は突然目を覚まし、起き上がる。

 致命傷を受けたはずなのに……周防の言った通り、当たってなかったように無傷だった……


「しまっ!?」


 ブレボスはうろたえる。


「どうしたよブレボス。

「き、貴様……気づいたのか!」

「まあね。お前の能力は、


 相手とは禅昌寺の事だ。

 つまりブレボスではなく、禅昌寺の思った事が現実になったのだ。


「相手に依存する能力なら、魔力の消費は少ない。何故なら自分が不利になるリスクも背負うからね。それなら広範囲、使える回数などにも納得がいくってものさ」


 例えるなら、ブレボスが倒されると禅昌寺が思えばその通りになる。とすれば、大きなリスクだ。

 リスクや制限、もしくは莫大な魔力があることで、反則紛いの能力は発動できる。

 相手が思った事を現実にする能力、それは自分の運命さえも相手に依存するというリスク……それにより、ありえない事象を起こす事を可能にしたのだ。


「お前さんは自分の思い通りな想像をしてくれそうな、ネガティブな奴を値踏みした。おれを倒したと思い込んだ後、攻撃しなかったのはそういうこと」


 わざわざ声に出すことで相手に想像させ、能力を発動させる。

 それがブレボスの魂胆。

 それにまんまとはまったのが禅昌寺。しかも彼は戦意を失い、ネガティブになっていた。まさにブレボスの格好の餌になった。


 誰を能力の対象にしようか考える必要すらなかったわけだ。

 だからすぐ他の奴らにだけ攻撃し、禅昌寺にだけは手出ししなかった。大事な能力の対象だからだ。


「失敗だったねえ。想像しやすいように盾を粉々にする……なんて言ったのに、禅昌寺は切り裂くなんて想像しちゃった。それでピンときちゃったんだよね」


 おまけに周防の機転で、禅昌寺は九竜が無事と思い込んだ。そのおかげで、致命傷だったはずの九竜は回復。

 状況は好転したと言っていい。


「相手が自分の思うがままの想像をする……なんて思ってるなら、傲慢にもほどがある。能力名にふさわしいほどにね」

「黙れ……」

「おそらく対象に出来るのは能力を知らない者、そして敵に限るんだろうよ。となると、もう能力は使えまい。禅昌寺がうまいことお前さんの死を想像してくれりゃ楽だったんだが……」

「てめえ! それで勝ったつもりか!?」


 ブレボスは憤怒の表情をあらわにする。


「おいおいお前さんは傲慢だろ? 憤怒じゃ他の大罪だぜ?」

「周防を真っ先に殺せって情報屋が言ってた事に、納得は言ったぜ」

「……情報屋かい。相も変わらず情報売ってんのか。皇が裏切り者として情報流してたのはわかったし、これ以上は警戒することもないんだろうけど」


 それでも情報屋の動きは不気味。まだ何かしら情報を手に入れる手段があるのかもしれない。

 そう周防は思っていた。


 ブレボスは周囲にコウモリを再び生成する。


「能力は使えなくとも、半死半生の連中ばかりでこのオレに勝てるとでも思ってんのか?」

「なめちゃいけないぜ!」


 周防は鎌を投げる。しかし、ブレボスの立ち位置まで届かず、手前の地面に鎌は突き刺さる。


「どこ狙ってやがる。下手くそが」

「いや? 狙いどおりさ」

「なに……を!?」


 突然ブレボスの左肩が出血する。


っ! ど、どうなって……」

「鎌の刺さってるとこ、見てごらんよ」


 周防に言われるがまま、視線をおろす。

 鎌は地面……いや、ブレボスの影、それも左肩付近に刺さって……


「まさか!」

「そう。おれの能力は何も影に潜むだけじゃないってこと。さあ、反撃といこうかね!」


 

 ――つづく。



「へえ~想像を現実にする能力事態は本当だったんですね。でも形勢は言うほど……怪我人多いですし。あとマジで神咲さん、お義姉さんは何処へ?」


「次回 チーム周防対ブレボス、決着。遂に決着がつきますか!」

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