第98話  銀髪の魔族

 ――???side。


「ええ、はい……。そうですか。申し訳ない、こちらの不手際です。次こそは確実な情報を提供しますので、……はい」


 仮面を着け、ローブを身にまとった怪しい人物、情報屋がなにやら通信機のようなもので誰かと会話している。


「ですから今後も、」


 ブチっと通信が途切れる音が鳴る。おそらく、会話相手が話し途中で切ったのだろう。


「……ちっ」


 舌打ちする情報屋。

 そんな奴に誰かが近寄ってくる。

 情報屋はその人物を見ると、ため息つく。


「帝王軍からクレームだぞ。朱雀達の居所、もぬけの殻だったらしい。どうやら移動したのだろうな」

「え、」


 その人物は驚いた様子だった。

 アジトの場所を仕入れてから、そこまでの時間はたっていない。

 その短時間で居所を変えたなんて思いもしなかったのだろう。


「奴ら、スパイがいることに感ずいているのだろうな」


 情報屋は推測する。それは実際当たりなわけだが。


「まあ、西木に西辺りがその可能性を考えて、こそこそしているようだったしな。想定内の話だ」

「奴らがスパイに気づいていたと?」

「うむ。だがその可能性を考えて……渡したろう?」

「ええ。発信器、ですね。着けておきましたよ」


 人物は、小さな機械を取り出した。


「ビンゴ。本当に移動してますね奴ら。これを確認してから帝王軍に教えるべきでしたかね」

「まあよい。元々信用などされてはいなかったしな。とにかく、この居所をすぐに帝王軍に知らせる」

「はい。……ただ、」


 人物は歯切れが悪くなる。


「こんなに早く情報を伝え回れば、西達にスパイ候補絞られるのでは? それに発信器がバレれば……直接会いに行ったおれっちが真っ先に疑い候補に」

「下らん心配するな。帝王軍が攻め込めばすぐに終わること。最悪お前がスパイとバレても問題ない」


 情報屋は人物の肩に手を置き、名を告げる。


「わかるな。皇よ」


 ――そう、神邏達の前に現れた三人の中にいた、♧の十かつ特殊部隊所属、皇館文。

 この男こそが天界のスパイ。

 だった。


 皇はホッとするように頷き、


「あなた様が、そうおっしゃるなら問題ないですかね。では戻りますね、天界での仕事に」

「うむ。近いうち、帝王軍の斥候部隊が天界に少し攻撃を仕掛けるらしい。その時はお前も天界の連中に不意打ちして少しでも数を減らせ」

「おや、そんな話が?」

「本格的な戦争ではないがな。だがさすがは帝王軍、人間界と天界の支配を先に目論むとは、目をつけた甲斐があった」


 帝王軍が天界を攻める……

 それは神邏の父、火人が死んだといわれる二年前の南城門防衛戦とやら以来の話。


 二年の月日を開けた理由は謎。


 天界もまたピンチに陥るのかもしれない。



 皇が去ったのを確認すると、情報屋は笑う。


「なにが自分がスパイと疑われるだ。皇、貴様などただの捨て石だ。むしろ貴様がスパイと判明すれば、罪をすべてなすりつけられるのだ。なんの問題もないわ」


 皇のことは、ただの利用できる駒としか見ていなかったらしい。


「そもそもスパイ事態、必要性などないのだからな。なぜなら……フフフ」



 ♢



 ――神邏side。


 周防さんに鍛えられ、自分自身力が増してきている事に気づく。

 魔力の底上げ、木属性魔力の特性の理解などなど、前回のバロンとの一戦より確実に強くなれたはず。


 ……だが、まだ足りない。

 帝王六騎衆――バロン。

 奴にはまだ届く気配が見えない。


 一応、対策になるような新技を模索し、完成までこぎつけた。

 これ一つでどうにかなるかはわからないが……


「おーいシン、一息入れよう」


 周防さんに声をかけられ、頷く。


 共に新しいアジトへと戻ろうとした、その時だった。


 ――!?


 俺と周防さんは互いに片膝をつく。……何故か?

 それはとてつもなく、強大な魔力に当てられたからだ。


 でも、周囲には誰もいない。

 気配もない。ならどこから?


「まだ、だいぶ離れた所にいる人物の魔力だ」


 周防さんは解説する。


 離れたところからでも感じる圧、それだけとてつもない魔力という事か……


 帝王六騎衆クラスとしか思えない。……なんでそんな奴がここに、それも魔力で威嚇しながら……


「とにかく、みんなに伝えて逃げる準備だ、とても勝てる相手じゃないからな!」


 周防さんの提案にのり、アジトへ足早に向かう。

 だが、魔力の圧のせいか、うまく動けない。


 普段より走るスピードも遅くなってしまっている。


 この威嚇、それが理由か?


 強大な魔力を撒き散らし、相手の動きを封じる……。こんな芸当ができるなんて。


 俺と周防さんがアジトに戻ると、魔力の圧に当てられ、倒れてる仲間の姿があった。


「みんな! 敵の襲来だ! 逃げるぞ!」


 周防さんは叫ぶも、北山や須和辺りは、動くこともままならない様子だった。


「……動けない人は教えてくれ。手を貸すから」


 俺はそう聞いた。

 予想通り、北山と須和が手をあげる。声もまともに出せないのかもしれない。


「……他のみんなは?」


 水無瀬や南城も冷や汗をかき、辛そうにはしているが、自分で立ち上がる。


「オレ……様には、余計な心配だ。なんなら北山はオレ様が背負うぜ」


 南城はまだ、強がり言う余裕があるようだ。

 水無瀬はこちらを見て笑う。

 大丈夫と言いたいのだろう。


 そうだ! ルミア……

 何よりも一番彼女が心配……


「神邏くん、女の子は私が運びますか?」


 ルミアに後ろから声をかけられて少し驚く。

 ……意外と大丈夫そう?

 俺は聞く。


「ル、ルミ……大丈夫なのか?」

「え、ええ。苦しいは苦しいですけど、動けないほどでは……」


 二重に驚いた。

 この中だと一番元気そうに見える。

 もちろん辛そうではあるが、俺と大差ないくらいの苦しみに見える。


 魔力は俺より低いはずなのに……


 いや、そんな事は今はどうでもいい。ルミアが無事なら、それにこした事はないのだし。


 とりあえず、早く逃げないと……


「お前ら、先に行きな」


 アジトの主、ベイルさんが言った。


「おれが、足止めしてる間にな」

「――足止め!?」


 まさか、この強大な相手に一人で時間稼ぎするとでも言う気なのか? そんなの、無謀としか……


「言っちゃなんだが、死ぬぞお前さん」


 周防さんは警告した。

 ……俺もそう思う。


 だが、ベイルさんは……


「誰かが足止めしねえと……、逃げれる相手じゃねえよ」

「覚悟の上……かい?」

「ああ」

「そうかい。行くぞみんな」


 え、周防さん!?


「シン、男の覚悟の上の発言だ。尊重しようじゃねえか! 実際、ベイルの言う通り、足止め役いねえと逃げれる保証ねえからね」


 この二人の覚悟……

 否定できるほど、俺には力がない。文句つけれる実力がない。

 ……従うしかない。


 悔しい……

 ベイルさんの命を犠牲にしなくてはならない、自分の力のなさが。


「安心、しな。スキ見せて逃げるからよおれも。まだ、死ぬ気ねえしな」


 ベイルさんは外へ出て行ってしまう。


 なんの、声もかけられなかった……


「シン! 裏口から逃げるぞ!」


 周防さんは北山を担ぎ先行した。

 俺はルミアと協力して須和に肩を貸し、三人で動く。

 南城と水無瀬は自力だ。


 裏口から出ると、魔力の圧が増す。

 ……近くに来ている。

 ふと後ろを見ると、ベイルさんの姿、そして対峙している魔族が目にうつった。


 目が隠れかねないほど長い前髪、美しい銀髪……

 誰もが美しいと表現しかねない容姿、それと同時に恐ろしさをも感じ取れる、一見優男な魔族。


 こ、こいつは……


 最近見なくなった、俺の見ていた過去の夢……

 そこで俺と戦い、実の父を切った魔族。


 シャド……



 ――つづく。


「い、因縁の相手……? で、でも何か……?」


「次回 分断 え、分断というと……?」


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