第10話『上位聖騎士の天と地』
307。
これは、聖騎士協会所属の現行上位聖騎士数である。
少数精鋭。しかしピンからキリまで様々だ。
上位以上の聖騎士には
その者の特徴をよく表現し、世間はその名でその者を呼ぶ。
そんな人類の英雄が2人、酒場で卓を挟んでいた。
「つまり、今回の任務は秘境の調査ってことですかい?」
上位聖騎士序列307位『
「ああ。端的に言えばそうなるな」
上位聖騎士序列1位『
上位聖騎士の天と地が言葉を交わしていた。
「そんなこと、アレクシスさんの出る幕ではない気が......
そっ、それこそ! 俺みたいな下っ端だけで処理する任務じゃァないですか?」
ゾフラはアレクシスに緊張し、あたふたと言葉を連ねる。
普段は机に足を乗せるようなゾフラが、今は足を揃えて大人しくしている。
対するアレクシスは、つまらなさそうにコップの中身を見下ろす。
「俺には現在、4つの仕事が課せられている。
会長の意図は上手く読めないが、俺を後進育成に回したいようだな。
教育が下手と断言はできないが......俺以外に適任はいなかったのか?」
アレクシスのその美形がため息とともに歪む。
聖騎士なら誰もが知るその青髪をくるりとイジり、退屈そうにする。
ゾフラはその余裕さにおののき、一層緊張する。
殺意はないが、気配が圧倒的だ。
「塔主の代替わりで協会が少し混乱しているようですがァ、アレクシスさんに影響はないんですか?」
「辞めていくやつより就くやつの方が優先。
だから候補者の討伐任務でも課せられるかと思ったが、な」
アレクシスほどの強者が動いていない。
ならば、と。ゾフラは唾を飲む。
「きゅ、九大聖騎士が動くってことですかい?」
「......お前、よくその頭で上位に上がってこれたな」
「すっ、すいません!!」
アレクシスはため息を吐き、ゾフラは頭を下げる。
しかしそう言われても、ゾフラには分からない。
なぜ聖騎士協会は動こうとしないのだ?
「塔主候補者の実力は上位並み。
つまりピンからキリまで色々ってことだ。
その場合、誰を討伐に向かわせるのが最適だ?」
「あ、アレクシスさん?」
「正解。その俺が出動しないってことは、そういうことだ。
九大聖騎士は腰が重いしな」
アレクシスはすべてを説明しようとしない。
そもそもゾフラに対し欠片も興味がないのだ。
実力があまりに違いすぎるゆえの無関心。
「そろそろ行こう。
食費は経費で落とす」
軽い朝食を酒場で済ませ、上位聖騎士は行く。
アレクシスが顔パスで会計を済ませたことに驚愕するゾフラ。
そして、面倒な任務に欠伸をするアレクシス。
2人は"鏡の秘境"へ出発した。
===
アレクシスの実力は聖騎士協会で10番目のものだ。
つまり、人間という世界から逸脱した存在。
その強さは容易く理解できるものではない。
鏡の秘境への中途。魔物に3体遭遇した。
ゾフラが苦戦するような相手も、アレクシスにとっては雑魚同然。
すべてを一撃で葬り、その身のこなしさえ見られなかった。
事態が動いたのは、鏡の秘境に到着した時だ。
「どうやら、数日の内に先客がいたようだな。
2日......いや、1日前だな」
秘境に至る洞窟を前にし、アレクシスがそんなことを言い出した。
顎に手を当ててブツブツ言うアレクシスについていけないゾフラ。
訳が分からずに尋ねる。
「と、言うと?」
「ん? 魔力の残滓を感じただけだ。
さあ行くぞ」
アレクシスの天才ぶりについていけず、ゾフラは思考を停止した。
鏡の秘境は攻略不可能だった。
上位1位の頭脳を以てしても歯が立たない迷路。
ゾフラは早々に狂い、ひたすらに鏡を殴り続けた。
アレクシスの剣技すら弾く堅牢な鏡。
途中で認識が狂い始める巨大迷路。
無限に存在する自分に囲まれた閉鎖空間。
「なにか発想が足りていない気がするな」
アレクシスはそう言い残し、鏡の秘境を後にした。
★★★
鏡の秘境の話から1日後。
ゾフラが別任務で動いている時、道端で話を聞いた。
「鏡の秘境をクリアした奴がいるのか?」
「らしいな。俺たちが前に挫折したやつだ」
「攻略法が意味不明だったから、クリアした奴に教えてほしいわー」
「それな。マジで気になる」
ゾフラは驚愕に顔を歪める。
まさか、九大聖騎士なのだろうか。
「ちょっ、ちょっといいか?
今、鏡の秘境をクリアした奴がいるって聞こえたが......」
「ん? ああ。らしいぞ」
「誰だか知っているか?」
「んー。確か噂じゃ......」
慌ててその男に尋ねると、解を得られた。
聖騎士協会10位をも上回る実力の主。
それは、タワーズドラゴン候補生だった。
「鏡の秘境をクリアしたのが、ただの子供だった?」
「はい。きちんと調べてきました」
ゾフラは急いでアレクシスを呼び、その旨を報告した。
以前にも増して忙しく、5つの仕事を並行処理しているアレクシス。
彼は長考せず、席を発った。
「ゾフラ、お前が処理しろ」
短く告げられた討伐命令。
困惑と不安が溢れると同時に、責任感が湧き出てきた。
これは、上位最強から与えられた使命なのだ。
こうしてゾフラは討伐を目論み、策を弄した。
無事に対象二名を無力化したと思った矢先、頭が割れた。
上位最弱はあっけなく散ったのだ。
★★★
そして、その騒動から数日後。
アレクシスの仕事が一通り終わり、休憩に差し掛かった頃。
一つの手紙がアレクシスに届く。
『上位聖騎士序列307位『
貴殿の命を完遂できず、塔主候補生シン=ルザースの手により死亡』
協会からの端的な手紙を、アレクシスは直ぐに捨てた。
小さくため息をつき、腰の剣を抜き、刃を眺める。
その美しい刃面には、青色の瞳が映っていた。
「シン=ルザース......」
アレクシスの脳には、ゾフラを弔う気持ちなど欠片もない。
弱者はただ散る存在。最弱の証明が為されたのみ。
ゆえに、その瞳が映すのは過去でなく未来。
新たな脅威の誕生を前に、アレクシスの剣は澄む。
たとえ全主の塔主が相手でも、地神が相手でも剣を振るう。
己の力と協会の訓にすべてを委ねて。
「魔を滅ぼし、聖を齎す」
そして、新たな報が届く。
アレクシスはその手紙を開け、内容に目を通した。
その瞳孔は、揺るぎなく一点を捉えた。
『新全主の塔主―――
新雪原の塔主―――』
選定戦が終わり、アレクシスの新たな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます