第15話 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーん
更新が遅れて申し訳ありません。突然の休日出勤でてんやわんやでした。
ちょっと短めですが、どうぞよろしくお願いいたします。
「新たな幻獣王が復活するまでは聖なる石が森を守っている」
奪われた聖なる石はとても大切なものという。アウレは誇らしげにそう言った。
「ただ、結界の要となる石ではあるが、すぐにどうなることも無いのだ」
「へー、そうなんだ」
「だが我が弟クラシシは焦って聖なる石を取り戻すために集落をでた。そして密猟者たちと聖なる森に向ったのだ。愚かなことに奴は手先となって幻獣を捕まえる手助けまでしておる」
「どうして焦ってるんですか?」
「なに、どうせ巫女に良いところを見せようと考えているのだろう」
クラシシと巫女は幼馴染で好きあっているらしい。巫女にとっては聖なる石を守れなかったことから責任を感じているようで、それをクラシシが何とか取り戻そうと焦っているみたいだ。
アウレは捕まった幻獣を解放させるために集落を離れてフレンズバーグに向う途中だと言った。
「どうして密猟者がフレンズバーグにいると分かったの?」
アレスは不思議に思って聞いてみた。
「クラシシが巫女にフレンズバーグの冒険者から取り戻すと言ってたらしい。そして襲撃の中で若者の一人がルアイとアメデという名を聞いている」
巫女からの話では、クラシシは襲撃者から何度か呼び出されていた様子だ。そして協力すれば返すと言われていたと。
「馬鹿な奴でも我が弟だ。不始末は私がつけねばならん」
戦った連中から姿かたちを聞いているから、それを手掛かりに探すという。
『アレス、幻獣を助けるのなら協力しよう』
ストームは高い声で嘶く。
「うん。僕も幻獣は悪人には渡せないし、かわいそうだよ」
アレスはアウレに協力すると決めた。
****
「でもどうやって探せばよいのかな?」
「私はしらみつぶしに探すしかないと思っていたが」
アウレは困った顔で申し訳なさそうに答えた。
「うーん、妖精に訪ねられれば簡単なんだけど」
ここはハルブレッドの森ではない。精霊が多い街とはいっても、アレスには妖精ほど簡単に意思の疎通は出来ないのだ。
なじみの妖精がいない今、出来ることは何だろうかと考える。
国境の街で領都なんかと比べれば狭いとはいえ、フレンズバーグの街をしらみつぶしに探すのは大変だ。アレスとしては闇雲に探してみても直ぐに見つかるとは思えなかった。
「そう言えば、冒険者ギルドで新顔が多くあらわれるってソフィが言ってたっけ。仕事が無いのにずっと居るって」
アレスはマルコが調べると言ってた話を思い出して手をポンと叩いた。
「そうだ! 聞いてみよう」
アレスはドリュアスから貰った黒板をとりだす。何かあったら聖霊に告げるか『異世界すまほ』を使えと言われていたのを思い出したのだ。
アウレは「なんだそれは?」と奇妙なものを見て片方の眉が上がった。
「ええと、どれだったかな?」
旅の前に教えてもらった操作方法を思い出しながら起動する。
表面が淡く光りだした。
ピッと高い音が鳴ったとき。
『はいはいーい! 初にして偉大なるラーナのドリュアスだよん』
いきなり『異世界すまほ』からは気の抜けるようドリュアスの声が聞こえた。
「わっ! 喋った」
驚いた拍子に『異世界すまほ』を落としそうになったアレスの目が丸くなる。
『遅いよー、もっと早くに連絡してくれると思ったのに』
「えっ! 連絡? これってドリュアス先生に連絡するために使うの?」
アレスとしては困ったときに使えと渡されたのだ。それに使い方を教えてもらったときは表面にエルフ文字が浮かび上がるだけだった。
まさか、ドリュアスが直接話しかけてくるなんて夢にも思っていなかったのだから、驚くというものだ。
『まあ、良いや。で、何の話? 僕としては別に世間話でもかまわないけど、違うんでしょ?』
「ああ、そうなんだ。実は困ったことがあって」
『よし! 分かった。これからそっちに行くよ』
「えぇえええ」
アレスが説明しようと話す間もなく、突然黒板から光が溢れて辺りを包んだ。
「じゃじゃじゃーん」
なんと、ニヤケ顔で親指を立てたドリュアスが現れた。
「先生!」
「あれ? アレス、ちょっと大きくなったかな?」
「なるわけないよ! もおー!」
言葉とはうらはらにアレスは満面の笑みでドリュアスに抱き着いた。
「あーあー、まだまだ子供だったか」
こちらも、からかう言葉でも表情はにこやかだ。
アウレは目は大きく見開かれて、固まったまま微動だにしない
「ん? そちらはどなたかな」
「あ、はい」
「ふむ、見たところ草原の民に見えるが」
「マコール族のアウレだよ。こちらは聖霊のドリュアス。僕の先生をしてもらってるんだ」
アウレは聖霊と聞いて、さらに驚き、いきなり地面に俯いた。
「も、申し訳ありません。聖霊様とは知らず、失礼な態度を」
そう言って地面に頭をこすりつけ始めた。
「ちょっと! アウレさん。そういうのは大丈夫だから」
そう言ってアレスはアウレを見て笑うのだった。
****
その頃、マルコは森を抜けて醸造所の裏手に出たところで商人が集まっているのを見つけた。
争っているわけでは無く、どうやら傭兵が商人と交渉しているようだった。
「さあ、たったいま仕留めたばかりの岩猪だよ」
中心ではソフィが声を張り上げている。
荷車に乗せた岩猪を前にして、商人に売りつけてる様子だ。
「おい、ソフィ」
マルコは探す手間が省けたと、ニヤリと笑みを浮かべると声を掛けた。
「あら? マルコじゃない。どうしたのこんな所で」
狩りが大量だったのか機嫌の良いソフィである。
「ああ、例の冒険者を付けてみたんだが、ちょっとヤバイ話を聞いた」
「ふむ、分かった。ちょっと待ってて」
そう言うと、近くにいた傭兵を呼びつけ。
「悪いけどあたしは抜けるから後は頼んだ」
「分かりやした」
「いいかい。商人はしたたかだ。安めで売るんじゃないよ」
ソフィは抜け目なく指示を出すと「ここじゃ不味いんでしょ? 酒場でも行きましょうか」
「ちっ、どうせ一杯飲みたいだけじゃねえか」
「あら、狩りの後は当然の話じゃない」
そう、のんびりと答えたソフィだった。
「それに内緒の話にも酒は付きものじゃない」
そう言って不敵に笑ったのだ。
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