20xx年11月01日(土) ①
文化祭当日を迎えた。
例年、この学校の文化祭はクオリティーが高いともっぱらの噂で、多くの一般人が押し寄せる。
今年もスタートから老若男女問わず校門を潜る人の数が多く見受けられ、潜った先では三年生の模擬店に多くのお客が並び、大賑わいを見せている。
まもなく体育館で二年生の劇も始まるということもあり、これから更に集客が見込まれるだろう。
そんな中、一年生である要たちのクラスの出し物はフォトスポットだ。
客層としては、やはり若い女子たちがメインとなっており、朝はそうでもなかったがお昼が近づくにつれ、携帯片手に楽しそうに写真を撮る十代が多く来場していた。
「中々盛況だな」
「ああ。お前の案を取り入れて正解だったぜ」
「見て! 既に結構な数の写真がインスタにアップされてるわ」
綾乃の携帯を覗き込む要と流星。
さすが名門高校の文化祭ということもあり、既にハッシュタグはトレンド入りし、今後更なる影響がありそうな予感である。
「お前ら、今のうちに回ってきたら? 午後からも忙しくなるだろうし」
「……いいのか?」
「どうせ約束してたんだろ? こっちは適当にやっとくから行ってこいよ」
付き合って初めての文化祭。
一緒に回る約束をしていないわけがない。
その辺、意外と気が利く要である。
「じゃあ、お言葉に甘える?」
「そうすっか。すまんな、要。一時間後には戻る!」
「あいよ」
ここまで実行委員として、クラスを纏めてきた二人だ。これくらいのご褒美はあってもいいだろう。要は、快く二人を送り出した。
「さて」
とは言っても、特にやることはないので入り口付近でぼーっと監視を続ける。
教室内で写真を撮って盛り上がっているだけの女子たちにトラブルなど起こるわけもなく、平和な時間が流れていた。
(てか自分で提案しててなんだが、写真を撮ってるだけなのに何がそんなに楽しいんだろな……)
「……いったい何がそんなに楽しいんだろうなという顔をしていますね」
寸刻自分が心の中で思ったことを言い当てられて、要はびっくりしたように横を見た。
するとそこには、巡回中と書かれた腕章を付けたひよりが隣に立っており、要は無意識で少し距離を取ってしまう。
「……パトロール中か?」
「はい。随分賑わっていますね。聞いたところによると、要くんの発案とか。すごいです」
「別にすごくねえよ。ああいうのが大好きな妹がいるから思い付いただけだぞ」
「確かにきらりちゃんは好きそうですね。この文化祭には来られないのですか?」
「受験生だから我慢するんだとさ」
「なるほど、偉いです。根が真面目な所は兄妹でそっくりですね」
「あいつが聞いたら怒りそうだけどな。『は? 一ミリも似てないんですけど!』って言いそうじゃね?」
「ふふ。目に浮かびます」
ひよりは優しく笑い、満足したように教室を出ようとする。その去り際、一枚の紙切れを要に手渡した。
「……後で見ておいてください」
その一言を残し、すっと教室を後にしたひより。
要はすぐさま、手の中に残った紙切れに目を通す。
「……文化祭の後、帰らないでこの部屋で待っていてください。あら〜、モテる男は辛いわね!」
「河内先生!?」
忍者並みの隠密度で背後から覗き込まれていた要は、びっくりしたように振り返る。
担任である真希は、青春の一ページを目の当たりにし、淡い気持ちに浸っていた。
「いいわね、それでこそ高校生だわ。先生もあの頃を思い出しちゃった」
「……はるか昔の記憶っすかね?」
「失礼ね! たった十数年前よ!」
それでも結構だろ……と思わなくもないが、女性の年齢弄りは万死に値すると母が言っていたような気がするので、これ以上はやめておこう。
要は髪を掻きながら、面倒くさそうに真希の相手をする。
「覗き見なんて悪趣味ですよ」
「まあ、そう言わない。先生、協力してあげるから」
「協力?」
「杠葉さんが何でこの教室で待っててって言ってると思う?」
「……さあ? 写真を撮りたいとかですかね」
「ちゃんと分かってるじゃない。だから、教室に人が立ち入らないように見ていて上げるわよ」
「いや、何で先生がそんなに乗り気なんですか……」
「私は生徒の恋は見てみぬふりして応援してあげるポリシーなのよ」
「……まあいいですけど、このことは絶対に誰にも言わないでくださいよ」
「もちろん」
文化祭。
生徒たちは浮き足立ち、学びの場での非日常を楽しむ。それらは相俟って多くの男女はカップルへと昇華することになる。
では、自分たちはどうするべきか。
要は冷静に、ひよりとのこれからのことを見つめ直していた。
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