20xx年06月23日(月)
「はよー、要」
「おはよ、流星」
朝から眠そうに挨拶をするこの男の名は
茶髪に染めた髪はチャラついた印象を持たれるが、意外と家族想いのいい奴だったりする。
「眠そうだな」
「まあな。昨日も遅くまで弟たちのゲームに付き合わされてな」
そう言って、大きなあくびをする流星。
これは授業中にうたた寝した挙句、後々ノートを見せてくれと懇願してくるパターンだ。
別にノートを見せるくらいやぶさかではないのだが、そろそろ真面目に勉強してはどうだろうかと思わなくもない要である。
「それはそうと、一昨日の雨すごかったよな。お前ん家、吹き飛ばなかったか?」
「そんなボロじゃねぇよ」
(まあ窓ガラスが割れた奴はいたけどな・・・・・・)
同じ屋根の下で一晩過ごしたあの日。
要が目を覚ますと、既にリビングにはひよりの姿は無く、代わりに昨晩はありがとうございました的な置き手紙だけが残されていた。
お互い寝起きで会うような仲でもないのでスマートに去ってくれて助かると思う反面、少し寂しさも感じた朝だった。
日中は高気圧の影響で快晴となり、要は食料の調達に出かけていた。帰宅するとアパート前に修理業者のトラックが停まっていたので、彼女が呼んだのだとすぐに分かった。夕方には外でお礼を言っている彼女の声も微かに聞こえていたので、無事に修理は完了したのだろう。
つまるところ、これで彼女が一昨日のように訪ねてくることは無くなったわけで、同時に接点も消滅したことになる。
あの出来事は儚い青春の思い出として心に閉まっておこう。そう思いを馳せていた要だったのだが、やけに廊下が騒がしいことに気付き、そちらに視線を移した。
その先にいたのは、制服のブレザーを誰よりも可憐に着こなし、誰よりも眩いオーラを放つ一人の少女。言わずもがな、杠葉ひよりである。
その周りを金魚のフンのように付き纏う同級生の少年少女達。はっきり言って鬱陶しいはずだろうに、嫌な顔せず対応しているのは自分の立ち位置を理解してのことだろう。
(俺には到底できないな)
人事のように彼女を眺めていると、流星が物珍しそうな顔を要に向けた。
「・・・・・・お前って黒猫姫に興味あったっけ?」
「はい? なんでそうなる」
「いや、いま見てたじゃん」
「別に。あんな毎日で気疲れしないのかなって思ってただけだ」
「まあ、俺たちの代のナンバーワン美少女だからな。否応なしに注目されるってわけだ。噂によると、告られた回数は既に二桁を超えてるとか。もちろん全員振られてるらしいけどよ」
後先考えない人間が多いことに驚愕する。
入学から二ヶ月で振られようものなら、残りの2年半以上、ずっと杠葉ひよりに告白して振られたという情けない称号を背負って学校生活を送ることになる。
それだけならまだしも、所謂いけてない連中が告白したとなれば、自意識過剰だの、身の程を弁えろだの、心無い悪口を叩かれることだってあり得るわけだ。
そんな地獄の業火に自ら進んでいくような真似は、要には毛頭できない。
ただもしかしたらこいつならとも思い、要は流星に尋ねてみた。
「お前はどうなんだよ、杠葉さんのこと」
客観的に見て、流星の顔は整っている。身長は要とさほど変わらないが、筋肉質な体型をしている分、身体も大きく見える。
少なくとも、隣に並んで恥ずかしいという事態にはならないはずだ。
しかし当の本人はと言うと、興味なさげに首を横に振る。
「俺はもうちょい明るい子が好みだ。それに、今いい感じの人いるし」
「は? 聞いてないぞ」
「言ってないからな。まあ上手くいったら報告してやるよ」
にかっと笑う流星。
憎たらしい笑顔だが、こうやってリア充どもは青春を謳歌していくのだろう。
つくづく自分には縁のない話だ。
思いがけないハプニングで杠葉さんと関わりを持ったが、そもそも自分は地味で非モテな男子高校生だということを忘れてはならない。
彼女のような華やかな人間は、それ相応の人と惹かれ合うのだ。
だから決して調子に乗らず、これからも平凡な高校生活を送っていこう。
そう要は心に決めていた。
はずなのに--。
「ごめん下さい」
その週末、彼女は再びやってきた。
今度は晴れた日の昼間に。
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