第20話「最終話」

 それから夏休みに入り、あおは一度も姿を現さなかった。


 残暑が続く夏休み明け、クラスからは夏休みの思い出を話す楽しそうな声が聞こえる。中には課題を昨日終わらせただなんていう全く自慢できない内容を、誇らしげに言う声も聞こえてくる。

 ……私は、それどころではなかった。


 皆が睡魔に耐えながら始業式を受ける中、私は一人いつまでも彼女のことを考えていた。


 ___ねえ、そこから飛び降りようとでも思ってる?___

 初めて会った時、初めて言われた言葉。


 ___辛かったよね。よく頑張ったね、偉いよ___

 温もりに包まれた言葉。


 ___はるはる___

 変わったあだ名。


 ___雨はね、時空をゆがませる。時の流れをゆっくりにするんだよ___


 キーンコーンカーンコーン


 私が顔を上げるのと同時にチャイムが鳴った。


 外では___雨が降っている


 学校が終わり、私は一目散に下駄箱へ向かった。

 傘をさして、必死に走った。


 カンカン カンカン


 踏切が閉まる。辺りを見渡しても、誰もいない。

 ……いや、いる。

 踏切の先に長髪が見えて、力が抜けた。


あおちゃん!!」


 手から傘が落ちる。

 線路をまたいで向こう側に、あおちゃんが立っている。

 どうしよう。伝えたいことが沢山ある。

 私は悪くないんだって、自信をつけさせてくれたこと。あおちゃんはいつだって、私を励ましてくれた。


 私は、大きく息を吸った。電車の音に掻き消されぬように。


「ありがとーう!!!!」


 あおちゃんは、涙を堪えたように白い歯を見せて笑った。

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