第1話「いじめ」

 私は、学校が大好きな子だった。

 学級委員などの仕事にも積極的に手を挙げるような子で、基本元気一杯。

 小学校は小規模なもので、2クラスしかない私の学年は先生の指導が手厚く、全員の顔と名前が一致していた。合計で47人しかいない程の少ない人数。

 それは一応、充実したものだった。


 中学校はそれなりに楽しみにしていた。

 中学校なんて、高校に行くためのステップでしかないと思っていたのは、不安を隠すためだったのかもしれない。

 初めて入る中学校は見知らぬ人でごった返していた。

 この中学校はうちの学校と合わせて三校が集まっている。残りの二校の生徒数は、私の学校に比べ、けた違いだった。

 埋もれる形でスタートした新しいクラスは、無論むろん知り合いなど片手で数えられる程度。

 そんな中でも私は学級委員になり、クラスの先陣せんじんを切っていた。

 クラスメイトとの仲は意外とすぐに深まり、所々でグループができ始めていた。私は基本グループをつくらないタイプの人間だから、満遍まんべんなく色んな子と接した。


 しかし、ある日をさかいに、私は七夏ななかから敵視されるようになった。


 雨上がりのベタついた重さを感じながら過ごしていたとき、席替えが行われた。先生に指定された座席表を見て、私は先生に訂正をお願いしに行った。目が悪い私は、そこの席が見えにくかったのだ。

 そうして新たな訂正が行われた座席表を見て、七夏ななか


「うわー最悪〜!!」


 と、大声で言っているのが聞こえた。その『最悪』の原因が私であることは明らかだった。なぜなら七夏ななかは、私の後ろの席になったのだから。


 その日から、地獄が始まった。


 話しかけるのも、目を合わせることも耐えがたい苦痛だったけれど、弱々しい態度を取るのが悔しかったから、私はいつも通りに接した。

 けれど向こうは、私にだけあからさまに態度を変えてきた。


 ある日交流の時間で私が、


「ねえねえ、七夏ななか


 と、後ろを振り返ると七夏ななかは俯いてじっとしていた。

 その瞬間、酷い虚無感に襲われた。

 悲しくて、虚しくて、苦しかった。

 私は、その時初めて「無視」をされた。

 真正面から、目と鼻の先で。


 それからというもの、私が交流時に七夏ななかに話しかけることは一切なくなった。

 そんな交流の時間が、一番の苦悶くもんだった。


 下校時刻。

 皆が荷物を背負って、帰り支度をする。今日は部活が無く、一斉下校だから一つの門に生徒が集中する。

 私は窓枠まどわくに肘をかけ、反対側の校舎を眺めた。

 自分がいじめを受けるだなんて、思ってもみなかった。心のどこかで他人事だと思っていたことに気づかされた。

 いじめは、恐ろしくて、寂しくて、それに立ち向かえない自分が一番情けなかった。

 なんだかもう、疲れてしまった。


「ねえ、そこから飛び降りようとでも思ってる?」

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