ふぉにい!―強い少女と狙われた少年―

肥前ロンズ

プロローグ

第1話 出会いは曲がり角とともに

 しんとしずまった、少しすずしい朝の時間。

 日課のランニングをするには、すがすがしい空気。わたしは歌を口ずさみながら、アスファルトの道を歩いていく。

 そのコース上には、わたしの友だちの家もあって、めずらしく彼も家を出ていたの。


「あ、誠ちゃん、おはよー」

「おはよう……」


 声変わりをしたせいか、のどが痛くて最近はあまり話したくないみたい。低く、かすれた声で挨拶をする誠ちゃん――もとい、誠一郎くんは、中学一年生の頃からの付き合い。


「めずらしいね、こんな時間に起きているなんて」

「いやちがう……寝ようとしたら、支払いするの忘れてて……コンビニ行ってから寝る……」

「すでに半分寝てるよ、誠ちゃん。支払いって?」

「あー……今度受ける中国語の……検定料、支払日が今日までだったのわすれてて……」


 誠ちゃんは頭がいい男の子。なんでも、IQが人よりずっと高いんだとか。そういう人は、『ギフテッド』と呼ばれてるらしい。わたしにはよくわからないけど、すごく勉強家で、こうやって色んな検定を受けていたりするんだ。


「中検も……テストセンターで受けれたらよかったんだけどな……県外いくのめんど……」

「えー、でも、都会に行く機会なんて滅多にないし。大きな博物館もあるでしょう?」

「人が多いとこに……行きたくねえ……」


 半分眠りながらも、わたしのランニングのペースについていく誠ちゃん。

 わたしはまわりを確認しながら、誠ちゃんより前に出て走る。

 誠ちゃんのペースが徐々におちてきたので、わたしは十字路のところで立ち止まった。


「大丈夫? 誠ちゃん」

「だいじょ……大丈夫じゃない、すまん……」


 気持ち悪そうにしている誠ちゃんを、路地に面した公園の、入口にある青い車止めに腰掛けさせる。そりゃ、寝不足で走ったら気持ち悪いよね。


「ごめんね、誠ちゃん。もうちょっとペース落とせばよかった」

「いや……行き場一緒なら、って思ってついてきた俺のせいだし、気にしないでくれ……」

 顔を青くして言う誠ちゃん。

 辺りを見渡すと、わたしは公園の傍にあった自販機を見つける。

「待ってて、ポカリかなにか買ってくるから」

 わたしはとっと、といつものペースで走る。

「あ、飲みものは、水で……」

「え、何?」

 誠ちゃんがなにか言ったことはわかったけど、聞き取れなかったので、わたしは後ろを向いた。


 その時だった。

 どすん、と何かがぶつかったのは。


 ――男の子が、向こうからすごい勢いで走ってきて、わたしの身体とぶつかったのだと、見ていた誠ちゃんがあとで教えてくれたのだけど。

 その前に、走ってきた男の子は、すごい勢いで吹っ飛ばされてしまった。


 思いっきり、頭を道路のアスファルトにぶつける男の子。


「……え?」


 わたしも、それなりに衝撃は受けたのだけど、無傷。身体が弾き飛ばされることもなかった。


 頭をぶつけたせいで、意識を失った男の子を見て――わたしは、叫んだ。


「あばばばば――!」


 もうしおくれました。わたし、神無月勇希ゆき

 人よりちょっと、筋肉がついてる女の子ですっ!

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