あと10分で世界が終わる

ゆーしん

第1話

「あと10分で世界が終わります」

こう言われて、混乱しない人はいないだろう。現に、その言葉を告げられた高校生、水寺龍寺も、とても混乱していた。

「まあ、混乱するのも無理はないと思いますがねぇ。本当に終わるもんは終わるので、仕方がないじゃないですか」

 スーツを身にまとった紳士風(あくまでも「風」である)の男は、困ったように頭を搔いた。

NASAの観測網から外れた隕石の一部が地球に接近し、地球は今、現在進行形で滅亡の危機にある。まるでコメディのような現実を、簡単に受け止められる人はいないだろう。(しかし、メタいことを言うとこれはコメディなので、このまま話を進める。)隕石が地球に衝突するまでに、人類に残された時間は10分。テレビやネットニュースをはじめ、様々ななメディアが、その事実を報じている。龍寺には信じがたいが、紳士風の男がいうことはおそらく事実だ。


 では残された時間で何をするか。もちろん、「好きなことをして過ごす」のは、帰宅途中の彼には無理である。そもそも、今龍寺がいる場所から彼の自宅まで、ダッシュでも3分かかる。残りの人生が10分であることを考えると、あまりにも痛い支出だ。


ーでは、残された時間で何をするか。改めて考えると、龍寺は一つの考えを思いついた。急いで、近くのコンビニに駆け込む龍寺。


「ヤバい。買い物で2分も使っちゃった。急いで帰らないと」

急いで帰宅し、コンビニのビニール袋からあるものを取り出す。ちなみに、残された時間はあと5分である。

「おや、それは何ですか」

さっきの紳士風の男が首を傾げた。

「そうそう、実は前から食べてみたかったカップ麵が……って、なんでアナタがいるんですか!」

「そう固いことを言わないでください。人生の最後に、ひとりぼっちは寂しいですから……それで、そのカップ麵は?」

「そう、これは通常サイズで一つ五千円もする、スーパー高級カップ麵なんですよ……って、アナタにはあげませんからね?」

「一つ五千円って、原材料に何を使ったらそんなバカ高いカップ麵ができるんですか」

「えーっと、この商品は、金目鯛やキャビアなどの海の幸をふんだんに使用し、A5ランク黒毛和牛に松茸、高麗人参をベースにしたコンソメで格式高い味わいに仕上げており……」

「なんですかその市場価格が高い順に適当に鍋にぶち込んだみたいな料理は」

「まあいいじゃないですか。人生の最後に贅沢をしたって。それよりもあと4分しか残ってないから、急いでお湯を沸かして……って、あ」

「どうかしましたか」

「えーっと、今からお湯を沸かすのに2分かかって、そこからさらに3分待たなきゃいけないから……」

「間に合いませんね」

「いや!まだだ!僕はこのカップ麵を絶対に平らげてみせる!」

「でもお湯を沸かす時間もないし……って、何してるんですか!」

「冷麵とかサラダうどんとか、冷たくても美味しく食べられる麵があるなら、カップ麵も水でもどして美味しく食べられるはず!」

そう言うなり、やかんの水をそのままカップ麵に注ぎ、3分待たずにかきこむ。

 「美味しいんですか、それ」

紳士風の男の質問に、龍寺は答えない。返事をする時間すら、今の彼にはもったいないのだ。


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