第6話
「わかったよ、キル。じゃあ次は………って、もうこんな時間! 使用人たちが心配しているだろうな………。急いで帰らなければ! 帰り道、教えてもらってもいい?」
「いや、まだ休んでいた方が良いんじゃないか?」
確かに、二人の心配はわかるがこのまま遅くなれば俺が今までどこにいたのかが問題になるはずだ。使用人や家族に余計な心配をかけたくないし、二人も人目には触れたくないだろう。
「すぐに帰って寝れば大丈夫だよ。これ以上遅くなると、俺が今までどこにいたのかが問題になってしまう。そうなれば、二人は困るよね? 俺はまたここに来たいし、今日はもう帰るよ。明日は念のため休むとして、明後日また来て良い?」
二人はやはり、家には知られたくないようで渋々ながら頷いた。
「では、私が僭越ながら近くまで背負わせていただきます。これでも一応鍛えていますので、ご心配には及びません。」
鍛えているとか言われると、興奮するからやめてほしい。俺は誘惑に負けて、背負われることにした。
――
そして俺たちは帰途に就いた。俺はイケメンの背中を堪能しようと思っていたのだが、いつの間にか眠ってしまってた。やはり、長距離の移動はまだ体には悪かったらしい。
気が付くと、キルが俺を呼ぶ声で俺は目を覚ました。目を開けると屋敷が見えていた。どうやら、眠っていた間に着いたらしい。
「ごめん、いつの間にか寝ちゃったみたい。アルフォンスさん、ありがとうございました。」
「いえいえ、お気になさらず。」
「アース、明後日も来るんだよな? その………途中で倒れられたら困るから、明後日もここで待ってるから。」
優しいんだけど、それを素直に出せないところがグッとくるな。迷惑かもしれないけど、確かに途中で俺が倒れるほうが方々に迷惑をかけそうだ。ここは素直に、お言葉に甘えよう。
「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃあ、また明後日ね!」
俺は二人に手を振って、急いで屋敷に戻った。そこでは案の定、メイドのマリーを中心に使用人たちはたいそう俺のことを心配してくれていた。俺は風が心地よくて木陰で昼寝をしていたら、いつの間にか眠ってしまい遅くなってしまったと、若干苦しい言い訳をした。使用人たちは渋々ながらも納得してくれたようだったけど、明日は完全休養を言い渡された。キルたちとの予定を明後日にしておいて、本当によかった………。危なく部屋から脱走するとこだった。
俺はその夜、不思議な出会いに思いを馳せていた。キルには聞きたいことがたくさんあるな………。だけど、聞いてもいいことと駄目なことはしっかりと事前に考えなければならない。姓がNGのようだから、家族に関することは駄目そうだよな。兄弟の有無とかは聞いてもいいかな? あとはあの屋敷にいる理由だけど、明らかにお忍びだよな。何か事情があるみたいだし、そこらへんは聞かないようにしよう。となると、やはり初学院のことかな。俺の同級生となる人たちについても聞けるし、魔法や剣術についても聞きたい。魔法は実際に見せてもらいたいな。兄上にお願いしようかと思ったが、俺はためらっていた。病弱ゆえに魔力判定ができないのに、魔法を見て喜んでいたら家族がどう思うのかを考えたら、到底魔法を見せてほしいとお願いすることはできなかった。二人なら、見せてくれるかもしれない。あとは剣術も見てみたいな。あ、そうだ。キルに授業内容とか、歴史や地理の人物の覚え方を聞いてみようか。あとは、礼儀作法とかも教えてもらおうかな。だけどちょっと、図々しいかな………。俺はそのまま眠りについた。
――
そしていよいよ、キルの屋敷に行く日となった。昨日は楽しみすぎて、時間が過ぎるのがとても遅く感じたがようやくこの時が来た。使用人には、「鳥の観察をするから、少し遅くなる」と伝えた。使用人たちは俺の遅くなる発言に難色を示した。確かにこの六年間俺は半分くらいをベッドの上で過ごしている。使用人たちが首を縦に振らないのは道理だ。どうしよう、使用人たちに迷惑はかけたくないしな………。すると、マリーが使用人たちに提案をしてくれた。
「アース様、私がご一緒してもよろしいでしょうか? アース様お一人でなければ、他の皆様も少しはご安心していただけると思います。それに、私個人としましてもアース様には外の世界を見てほしいと思っております。外を歩いているアース様は、部屋の中にいる時よりもお顔が明るいと私は思っております。」
マリー………。幼少のころからいつも俺の面倒を見てくれた、マリー。家族が王都に言っている間も、常に俺のことを聞きかけてくれており、高熱を出したときは一睡もせずに俺の看病をしてくれた。俺はこの人なしでは、生きていなかったかもしれない。そう思えるほどの命の恩人だ。マリーならキルたちのことを話してもいいだろうけど、逆にキルたちは受け入れてくれるかな? 何とかお願いしてみよう。
「マリー、ありがとう。同行をお願いするよ。」
「かしこまりました。」
俺は準備をすると言って、一度部屋に戻った。その際にマリーには事情をすべて話した。事情を聴いてマリーは驚いていたけど、最終的には了承してくれた。
「アース様にも同年代のご友人が必要と存じます。もしもの時は、私が命を張ってアース様をお逃がせいたします。」
「ありがとう。だけど、俺はマリーに死んでほしくはない。キルたちは信頼できると思うから、安心してほしい。」
俺がそういうと、マリーは一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、もしもの時を思い浮かべているようで真剣な表情でうなずいた。
俺は一昨日キルたちと別れた地点までマリーと向かった。。少し早く来すぎたかもしれないな。あ、そうだ。マリーに言っておかなければならないことがあった。
「マリー、一つお願いがあるんだ。俺はキルが何者なのか詮索するつもりはない。おそらく、高位の貴族であることはなんとなく予想がついているんだ。だけど本人が言わないのならば、他の方法で知りたいとは思わない。だから、何かにきづいたとしても俺には言わないでほしいんだ。お願いできるかな?」
「………アース様の望みなら、承知しました。」
また無理なお願いをしてしまったな。だけど、やはり相手の詮索をするのは気が引ける。背景がなんであろうと、目の前にいるキルという人物を見ていたい。
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