第3話

それから三年の月日が流れた。俺も六歳になる年を迎えた。つまりは、待ちに待った魔力判定ができる年である。あれから俺は、体を丈夫にできるように努めた。その努力もあり健康な体を手に入れた………。





なんて、都合のいいようにはいかなかった。あれからの俺はと言うと、頻繁に体調を崩しており一年の半分はベッドの上で過ごしていた。俺の予想だけど、元々病弱なのもあると思うが、俺の魂がまだこの体に定着しきっていないのも原因なのではないかと思っている。こればかりは、時が過ぎるのを待つしかない。目下の問題は、この状態で王都に行くことができるのかということである。教会で魔力判定を受けなければ、初学院も貴族院も何も始まらないのである。ただ、この高熱や頭痛で馬車移動ができるとは到底思えない。この体をダメにしては、「アース」に申し訳が立たない。それに、この状態では父上たちが移動を許可しないだろう。魔力判定をあとから受けることは可能なのだろうか? 俺はベッドの上から、様子を見に来てくれた父上に訪ねることにした。



「父上、魔力判定は後からでも受けることは可能ですか?」



「そうだね………。アースがこの状態では、魔力判定をあとから受けるためのやむを得ない事由にあたるだろうから、大丈夫だよ。ただ、同世代の子たちに大きく後れを取ってしまうね。さらに、初学院では同世代とのつながりをつくることも大切とされているから、途中から入ることになるアースには少しなるかもしれない。」



魔力判定が後からできる点は朗報かもしれない。ただ、そういう問題点があるのか………。途中からやってくる転校生よりは、少し難しい立場だよな………。だけどそれを回避するために無理をして魔力判定を受けたいと言っても、許可は出ないだろうな。



「わかりました。同世代の皆さんに後れを取ることは残念ですが、この体調ではあきらめるしかないですね。次の機会のためにも体調を整えたいと思います。」




「そうだね。次は必ず魔力判定を受けられるはずだよ。だから、今回はゆっくり休もう。何か食べるかい?」



「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」



「では、何かあったら呼ぶように、いいね?」




父上はそういうと、部屋をあとにした。さてと、これで楽しみの一つであった魔法や初学院での学びが遠ざかってしまったな。そういえば俺って、家族や使用人以外の人と会ったことも話したこともないよな………。まずい、このままでは社会不適合者になってしまう。体調がよくなったら、その辺を散歩して誰かしらと会話を試みたい。


すると、部屋の扉がノックされた。メイドのマリーが部屋の扉を開くと、底には俺の癒しである兄上が立っていた。兄上は九歳となり、美少年に磨きがかかっていた。



「アース、体調はどうかな? 絵本を持ってきたんだけど一緒に読むかい?」



「はい、動かなければあまり辛くはありません。兄上、僕はもう絵本を読んでもらうような年ではありませんよ!」



俺がそういうと、兄上は聞き分けのない子供を見るような温かい目をして、俺の頭をなでてくれた。



「そうだね、あーすももう六歳だからね。じゃあ、初学院の話をしようか。アースは魔法の話が好きだよね?」



「はい、お願いします!」








――






それから俺はもう何度目かの家族の見送りを終えた。夏の社交に向けて、父上たちは王都へと向かったのである。俺の体調は今もものすごく最悪だが、少しずつ治していきたい。


俺が来年の魔力判定を受けるまで何をするのかというと、まずは体力づくりである。日課である散歩の範囲を広げて、後は人を見つけたら挨拶をしたい。ここは辺境伯領ということもあり、広大であり辺鄙である。周囲に民家は見られないため、どれくらい歩けば人に出会えるのかはわからないけど頑張って歩いて見ようと思う。もう一つの課題としては、やはり勉強である。兄上に頼んで初学院一年次の教科書を用意してもらった。文字は読めるようになったため自習に勤しむ予定だ。科目として算術や歴史、地理、魔法基礎などが座学として挙げられる。算術は小学生レベルだったので放っておくとして、地理や歴史が問題である。前世では社会科目は結構好きだったので、頑張って覚えていきたい。あとは実技として乗馬や魔法、剣術、礼儀作法、美術、音楽などがあるがこれは初学院にいってからである。体力的な問題もあるがそもそも属性などもわかっていないため、手の付けようがない。とりあえず、体調が戻るまでゆっくり休むとしよう。





それから五月になった。体調は完全によくなり外へ散歩をしに行けるようになった。まあと言っても、この完全によくなった体調もいつも突然に悪くなるから喜んでもいられないんだけど………。


とにかく、勉強を頑張ろう! 一年生の内容を完璧にマスターして、兄上に褒めてもらおう!






俺は歴史と地理の教科書をひらいてみた。うーん、なるほど。これは難しいかもしれない。まず歴史については、いわゆるこの国の古代史のようなものだった。日本史みたいな感じで、徐々に現代まで近づいていく感じなのだろうか? 一年時の内は古代ということか。地理はと言うと、世界の全体像とこの国の領地及びその領主の名前が記されていた。この世界は結構広いようだ。そしてこの国の名前はアーキウェル王国というのか。そしてアーキウェル王国が位置する大陸にはほかに、四つの国があるようだ。そして問題なのは領地の一とその領主の名前である。この長たらしい名前を覚えるのは、相当骨が折れそうだ。少しずつ覚えていくしかないな………


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