第2話

それから俺は、情報集めを行うことにした。激しい運動さえしなければ歩くことは可能なので、子供らしい知的好奇心を装って、色々な人に質問をしていく作戦だ。



まずは俺付きのメイドであるマリーにいろいろな質問をしてみた。まず暦や季節など、基本的なことは日本と同じだった。そして今は二月であり、外はほどほどに寒かった。今から春に向かっていく感じだ。それからこの家についてだが、どうやら父上は辺境伯らしい。姓はジーマルというらしいので、俺の名はアース・ジーマルということになる。この国での辺境伯の地位は、伯爵と侯爵の間くらいらしい。まあ、そこそこ地位ということだ。他に聞きたいこととして、異世界の定番の魔法のことや同性カップルがいるかについても聞きたかったが、三歳児が質問する内容ではないと思ったのでもう少し成長するのを待つことにした。俺が三歳児らしくマリーに質問をしていると、扉がノックされた。マリーが扉に向かいそして開くと、そこには美少年の兄上が立っていた。ここで兄上が美少年と言ったが、その弟とだけあって俺の容姿もなかなかによさげである。父上から受け継いだ銀髪に、母上から受け継いだ緑色の目がいかにも異世界という感じがするが、今後の成長が楽しみである。



「アース、今日の調子はどうかな?」



「数日休んだのでもう大丈夫です!」



「本当かな? 僕が確認するから、少し触ってもいいかな?」




美少年に触られるなんて、ご褒美以外の何物でもない。こんな機会は今後訪れることがまずないであろうから、今のうちに堪能しておくのが吉だ。俺は迷わずに頷いた。


兄上はにっこり笑って、俺の額に手のひらを当てた。兄上のひんやりと冷たい手の感じながら、俺は兄上の反応をうかがった。




「うん、熱も下がったみたいだしもう大丈夫かな。今のところはだけどね。」



この含みのある言い方は、この体の病弱ゆえだろう。先日の死の間際をさまようレベルの体調の悪化はなかったにしても、それ以外にも頻繁に体調を崩していた。兄上が熱が引いたからと言って、安心できないのは仕方のないことだった。




「兄上が遊んでくだされば、僕は平気です!」



「ありがとう。これからはアースといる時間が減ってしまうから、ここにいる間はできるだけアースと一緒にいるよ。」



うん? ここにいる間は? 兄上はこれからどこかに行ってしまうのだろうか? ここはジーマル領だから、王都とかに行ってしまうのだろうか………。俺が首をかしげていると、兄上は申し訳なさそうな表情をしながら説明をしてくれた。



「僕たち貴族は、夏の間は王都で社交を行って、冬になると自分の領へと戻るんだ。そして、子供にも重要な仕事があってそれは六歳なる年に王都にある教会で、魔力の判定を受けることだよ。子供は六歳になる年から親と一緒に王都に行き、そこで学園に入学するための勉強をするんだ。貴族として正式に認められるためには十三歳から通うことになる貴族院を卒業しなくてはいけない。貴族院はこの国や各国にいろいろあって、その中から自分に合った貴族院に通えるように試験対策をするんだ。王都には初学院というところがあって、魔力判定を受けた子供たちが貴族院に通うまでの間、勉強や魔法、剣術を教える学校があるんだ。その学校や家庭教師の教えを通じて、試験勉強をするんだよ。だから、春ごろから僕と父上たちは王都に行くんだ。アースの連れて行ってあげたいけど、馬車での移動は長いからね………。」




兄上はそういうと、俺の頭をなでてくれた。この素晴らしい兄上と会えなくなるのは、大変心苦しいがそういう事情があるなら仕方がない。


というか、大事な情報がここでいっぺんに明らかになったような気がしたけど気のせいではないよな? 魔法だってよ、魔法! 剣術にも興味があるけど、この体では無理そうだよな………。ただ、魔法さえ使えれば御の字だ。それに貴族院も複数あるようだし、行きたいところに行ければいいな! まずはこの体を普通の子供と同じくらいの丈夫さに戻せるように、食事や運動に気を付けていきたい。



「アース、大丈夫かい? ごめんね、アースにはまだ難しい話をたくさんしてしまったね。」




どうやら長考をしていた俺の様子を、理解ができなくて頭がパンクしていると思われてしまったらしい。確かに先程の兄上の話は、それなりに量もあったし、子供には難しい話だったように思う。ただ俺は三十路の男だ。これくらいなら、充分に理解できる。ただ俺は三歳児なので、三歳児らしい行動をしようと思う。




「兄上や父上、母上と離れることは寂しいです………。だけど、兄上のお邪魔はしたくありません! 僕はこのお屋敷で、兄上のお勉強がうまくいくように祈っています!」




俺がそういうと、兄上は目を細めて俺のことを抱きしめてくれた。待て待て待て、それは反則だ。あ、いい匂い………。やばい、鼻血が出そうだ。すぐに離れなければ、失血死してしまう。



「あ、兄上………苦しいです………。」


「ご、ごめんねアース! つい、可愛かったから………。あ、そうだ。今日はこの絵本を持ってきたんだ。一緒に読むかい?」



「はい! お願いします!」



兄上は自分の膝の俺に俺を乗せてくれた。これは神様からのご褒美か、何かなのだろうか? いや、こんな不純なことを考えている場合ではない。これは、文字を覚えるチャンスだ。兄上のぬくもりを感じつつ、頭はしっかりとまわそう。



なるほど、文字の形はアルファベットの亜種のような感じか。兄上の発音に対応させながら、頭で整理していった。三歳の脳ということもあり、前世の自分よりも知識がすんなりと入ってくる感じがする。


そうして兄上のぬくもりを恋しく思いながらも、今日の絵本の読み聞かせを終えた。兄上は王都に行くまで毎日来てくれると約束してくれた。







――









それから俺は知識や情報の収集をしながら、ゆったりとした時を過ごした。そして季節は春になり、心地よい暖かさが肌をやさしく包み込んでいた。兄上と父上、母上が王都に向けて出発する日となった。母上は俺のことが心配の様で領地に残ると提案してくれたが、俺は大丈夫だと告げた。社交において女性の力はやはり不可欠だろうから。


「アース、冬には帰ってくるからそれまで体調に気を付けるんだよ。」

「アース、危ないことはしてはダメよ。しっかりと、使用人の言いつけを守るように。あと、無理はしないようにね。」



「はい、父上、母上。お帰りをお待ちしております。」




すると、次は兄上が俺の側により抱きしめてくれた。



「アース、具合が悪くなったらすぐに言うんだよ。いいかい?」



「はい、兄上。兄上の王都でのお話を楽しみにしています!」



「うん。お土産もたくさん買ってくるね。」





そうして、兄上たちは王都に向けて出発した。よし、俺もこの体を丈夫にできるように頑張ろう!





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