マホル使い
銀波蒼
第1話 転生希望の中学生
森村
父親の転勤で東京に引っ越して、中学校に入学してから一ケ月が過ぎていた。
知らない土地、慣れない環境に戸惑うばかりで、気づけば友だちもいなかった。
小学校の頃の海斗は、いつも多くの友だちに囲まれていた。
それが当たり前で、どうやって友だちになったかなど覚えていない。以前は団地に住んでいたので、小さな頃からの友だちも多く、遊ぶ相手に困ったこともなかった。
そもそも最初が失敗だった。
ある日の休み時間、海斗がトイレから戻ってくると、窓際の自分の席にクラスメイトの男子が座り、女子も含めた数名で盛り上がっている時があった。
「そこ、俺の席だけど……」
カイトがクラスで初めて発した言葉はそれだった。
自分が思っていたよりも暗くて重い声だった。
その場にいたクラスメイトはしんとした。
「あ……、ごめんな」
座っていた男子が素早く席を立った。
その席に海斗が座ると、そこに集まっていたクラスメイトたちは、静かにその場から離れた。
まるで見えない磁石があるようだ。
自分だけがみんなと対極なのだと、海斗は思った。
その日から、海斗は話しかけることも、話しかけられることもあきらめた。
海斗のそれからの毎日は、ただ今をやり過ごすためだけのものだった。
気を紛らわせることができるのは、ゲームやアニメだけだ。
特に異世界転生の物語は、興味惹かれるものだった。
初めから、設定が決まっている。
仲間が必要な時に向こうから現れる。
出会いに苦労することはないし、友だちどころか恋人を作ることすら簡単だ。
自分が主人公ならば、必要なものはすべて与えられる。
海斗は、休み時間も授業中も、家でもどこでも、自分がもしも異世界に転生したらどう生きたいかを考えるようになった。
海斗は魔法使いになりたかった。
偉大な魔法使いになれば、人にも尊敬されるに違いない。その魔力を必要とされて、周りに人も集まるだろう。その魔法で多くの人を救うこともあるかもしれない。何より、嫌な奴がいても、その魔法の力でやっつけられるし、誰にもバカにされたり、無視されたりすることもない。
海斗はいつしか、自分に話しかけてこないクラスメイトに対して、自分のことをバカにしていると思うようになっていた。
小学校では人気者だった自分のことを知らないクラスメイトたちは、何もわかっちゃいない。だから自分のことをみくびっているのだ。もしも魔法を使えたら、こんな奴ら一人一人、いたずらして困らせてやる。
そうやって、孤独を怒りに変えることで、つらい思いに負けないで、海斗は学校に通うことができた。
でも本当は一日たりともこんな場所にいたくないと思っていた。
(あーあ、早く死んで、異世界転生でもしたいな……)
そんなことを思いながら歩いていた帰り道。
それは思わぬ形ですぐに実現することとなる。
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