第77話 ついに、帰還しました!
トーアル村に着いたのは、昼休憩の時間を過ぎた頃だった。
今のマホーは転移魔法が使えないから、俺がおんぶをして連れて帰ろうと思ったら、「勇者様に、そのようなことはさせられません!」とザムルバさんが言い出した。
「さすがに、そこまで師匠の面倒を見てもらうわけにはいきません!」「いいえ、私がやらせていただきます!」と俺たちがやり取りをしていると、「儂は自分で帰るから、おぬしの血をくれるかのう?」とマホーが空気を読まず、余計にややこしいことに。
結局、俺がマホーをおんぶし、ザムルバさんにはアンディ&トーラ入りリュックを背負ってもらうことで落ち着いた。
村に着いて、真っ先に向かったのは、もちろん村役場。
ゴウドさんたちへマホーとザムルバさんを紹介し、新たな村人として認めてもらわなければならないのだ。
はっきり言って、俺はザムルバさんに関しては何の心配もしていない。
製薬スキルを持っているから、これから村でポーション製作をしてもらえるし、帝都で昼食を取りながら聞いた話では、氷魔法や土魔法で氷像・土像制作もできるとのこと。
うん、本当に優秀すぎて怖いくらい(笑)
そして、俺はひらめいた。
これからの季節にぴったりの、集客イベントができるじゃないかと。
◇
「お邪魔します」
役場へ顔を出すと、もちろん皆さんはお仕事中だ。
「カズキ、おかえりなさい」
「ルビー、ただいま」
お仕事中に、失礼しますね。
場所を応接室に移動して、俺はゴウドさんとルビー、ドレファスさんへ新たな移住希望者を紹介した。
「宮廷魔導師をされていたザムルバさんと、カズキさんのお師匠様のマホーさんですね」
ドレファスさんが俺の説明を聞きながらメモを取っている隣で、ゴウドさんとルビーが二人をまじまじと見つめている。
ルビーたちは俺の正体もシトローム帝国へ行った理由も知っているから、二人と俺がどういう関係なのか気になっているのだろうな。
あとで、こっそり話をしておかなければ……
「ザムルバさんは大変優秀な魔導師さんですから、村ではポーション製作などをしていただこうと思っています」
「それは、ありがたいですね。ところで、マホーさんはかなりお若い方なのですね? お師匠様というよりは、兄弟子さんと言ったほうがいいような……」
「儂はこう見えて、五百歳なのじゃ。若く見えるじゃろう?」
「ご、五百歳ですか?」
ハハハ……びっくりして、ドレファスさんの眼鏡がズレたね。
ここで嘘だけ吐いてもマホーは上手くごまかせないと思うから、本当のことも混ぜて伝えておこう。
「えっと……魔法で若く見せかけているだけで、中身はおじいちゃんです」
「これ! おぬしは、また儂を爺さん扱いし……」
「はいはい、話が進まないからマホーは黙ってて!」
俺がピシャリと黙らせると、ルビーが吹き出した。
「フフッ、カズキはお師匠さんにそんな口の利き方をして……ダメよ」
マホーもルビーに同調して頷いているけど、俺と師匠は最初からこんな感じだから全然問題なし!
その後、住む家のことや仕事とか決めることはたくさんあったけど、すんなり受け入れてもらえてホント良かった。
◇
俺たちが村の正規住人となって一週間。
いろいろありすぎて、大変だった……(遠い目)
俺は師匠と一緒に住むつもりだったけど、「儂は、一人で大丈夫じゃわい!」とマホーは一人暮らしを始めることに。
そのため、マンドルド共和国にあるマホーの家まで一緒に荷物を取りに行き、俺がアイテムボックスに収納していた本や素材・ポーションや戦利品なんかも、すべてマホーの家に片付けた。
もともと村へ帰ってから荷物の整理はするつもりだったし、あの魔物の目玉が入った壺を管理する必要がなくなったのはよかったね。
あと、ゴブリン討伐のときにソウルへ貸してあげた剣は、マホーがソウルへあげると言うから、俺が代わりに渡しておいた。
お礼にもらった串焼きをマホーへ渡したら、喜んで食べていたよ。
俺やトーラが食べているのを見て、ずっと気になっていたんだってさ。
忘れないうちにマホーが生前に貯めこんでいたお金も返そうとしたら、「当面の生活費以外は、必要ない」と言われたけど、そうはいかないよな。
これは袋(財布)を分けて、俺が管理をすることにした。
そうそう。
俺がシトローム帝国へ行っている間に、村に新たな出来事があった。
一つ目は、王都から商店が出店したこと。
店の名は『フリム商会』……あの行商人のフリムさんの商会だ。
トーアル村の方が家賃が安いから、店舗兼倉庫を移転させたんだって。
おかげで、マホーやザムルバさんの引っ越し準備が捗って、大変助かりました。
二つ目は、新たなお土産の販売を開始したこと。
お披露目パーティー後に抜け出してルビーへ会いに行ったときに話していた『温かい土産』が、ついに完成。
その名も、『オンセン蒸しケーキ』と言います。
ゆで卵を作っているあの高温の蒸気で蒸しているのだとか。
俺も食べたけど、食感がふわふわ・モチモチでかなり美味しい。
向こうの世界では温泉饅頭が定番だけど、これはこれでアリだな。
続いて、仕事のこと。
俺は、正規職員として以前と同じ村の観光案内役 兼 警備担当の仕事をしている。
でも、マホーに接客は無理だからどうしようかと考えていたら、ザムルバさんと同じように、当面はポーション製作をして生計を立てるつもりとのこと。
だから、「能力を移してくれ」と言われたけど……
◇
「マホー、本当にやるのか?」
「当たり前じゃ! せっかくスキルを持っておるのに、それを活かさぬ理由がないわい」
俺の手の上には、俺の血を吸った一匹の吸血虫がいる。
そう、マホーは今から『吸血取込』をしようとしているのだ。
気持ち悪いから、俺の血を吸った吸血虫を飲みこむマホーの姿は一切見ていない。
余談だけど、飲みこんだときにマホーの脳内ではジノムの絶叫が響き渡ったそうな……ご愁傷様です。
ともかく、無事に能力を取り戻したマホーは、これから弟子たちを鍛えるぞい!と張り切っている。
まず、真っ先に引き合わせないといけないのは、もちろん魔剣士さんことエミネルさん。
マホーは『モホーの弟子』で、『見た目は若いけど五百歳』で、『俺の師匠』と紹介をする。
「わが師よりおぬしのことを託された故、こちらに参ったのじゃ。これから厳しい試練が待ち受けておるが、おぬしにその覚悟はあるか?」
「ございます! これから、よろしくお願いいたします!!」
エミネルさんは、気合十分。さっそく、模擬戦を行うことになった。
これまでは洞窟の中でやっていたけど、今は新たな集客イベントのためにザムルバさんに作業をお願いしている。
そのため、外壁外の開けた森の中で行うことに。
二人の戦いを見学している俺の隣にいるのは、ルカさん。
モホーの弟子が村に移住したと聞いて、マホーに興味津々の様子だ。
「なあ、ちょっと聞くが、カズキの師匠って……本当に『人』なのか?」
「年は取っていますけど、普通の『人』ですよ」
鑑定しても、ちゃんと『人族』となっているから間違いないね。
でも、ルカさんは疑っているみたい。
まあ、モホーをアンデッドだと思い込んでいる彼からすれば、その弟子もそうじゃないかと思うよな。
年齢は五百歳だし、能力もまったく同じだし。
「本当に『人』かどうか、一度確認してもいいか?」
「俺は、別に構いませんが……」
おそらく、ルカさんは『音操作』を発動させるつもりだろう。
でも、待てよ。
本当に、効くんだろうな?
まさか、異世界転生者のジノムの体だから、俺みたいに効かないってことは……
少々の不安を感じつつ、俺は静かに待つ。
しばらくして、その結果が出た。
「な、なんじゃ、この『キーン』という音は」
良かった。
マホーは、ちゃんと『人』だったね(笑)
「これ、ルカよ。おぬしの仕業であることはわかっておるぞい! そんなに儂と戦いたくば、こちらへ参戦せよ」
「なんで、俺がやったって一発でわかったんだ? スゲー爺さんだな」
感心しつつ、ルカさんも向かっていく。
そんな若者二人を嬉々として迎え撃つマホーは、やっぱり戦闘狂なんだな。
ところで、ルカさんから唐突に「『死霊使い』はカズキじゃなく、師匠のほうだったのか……」と言われたけど、どういう意味?
◇◇◇
今日は、洞窟内に期間限定でオープン予定の新たな施設をゴウドさんたちへお披露目する日。
許可が下りれば、寒い時期に観光客を村へ呼び込む新たな目玉となるものだ。
洞窟に、ゴウドさん、ルビー、ドレファスさん、ジェイコブさんのいつもの面々が集まったけど、反応はどうかな?
「想像以上だね……」
「父さん、私はこんなの見たことがないわ!」
「これは、素晴らしいですね!」
「うん、見事と言うしかないな」
ザムルバさん、良かったですね!
皆の反応は上々だから、採用間違いなし!!
ザムルバさんにお願いをしていたのは、洞窟内をたくさんの氷像で飾り付けライトアップをすること。
俺がイメージしていたのは、某北国の雪まつり。
あちらは雪像だけど、それを氷で再現してみたら綺麗じゃないかと提案してみた。
通常だと、どんなに寒くても多少は溶けてしまう氷が、魔力を強くこめることで保存ができるとのこと。
暑い季節になったらまた『オバーケ』を開催するけど、それまで洞窟を遊ばせておくのはもったいない。
寒い季節も、温泉だけじゃない集客を見込めるものが欲しかったから、これは目玉になりそうだ。
老若男女問わず楽しめるように、テーマごとに部屋は分けた。
皆がよく知っている物語の登場人物だけを集めた部屋、花が咲き乱れる自然をテーマにした部屋、動物だけの部屋など、内容は様々。
宣伝を兼ねた『オバーケ部屋』にスケルトンの氷像がひしめく中、中央に、玉座に座るアンディとトーラの像が飾られていたのは笑ってしまった。
(ラスボスが誰か)完全なネタバレじゃないかと思ったけど、本人たちが満足そうだから、まあいいか。
一番広い部屋には、通常庶民では立ち入ることができない貴族の庭園も再現してもらった。
もちろん、ザムルバさんが知っているのはシトローム帝国の宮殿だけだから、他に、アンディやエミネルさんからも話を聞いて参考にした。
俺がこだわったのは、やっぱり
これだけは、絶対に譲れないね。
マホーは俺の記憶をしっかりと覚えていて、氷像制作に大いに貢献していた。
俺?
俺は試しに花を一つ作ってみたけど、出来栄えは……察してください。
その代わり、保存用の魔力をこめることには貢献させてもらいました!
◇
お披露目も無事に終わり、業務も終了ということで、皆が家に帰っていく。
俺は、花の氷像に目を輝かせて見入っているルビーに、後ろから声をかけた。
「ルビー、ちょっと話があるんだ」
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