第8話 解体しまショー
村の広場には、大勢の村人が集まっていた。
彼らが見学しているのは……魔物の解体ショーである。
「ねえ……二人で、こんなに魔物を退治してきたの?」
「えっと、そうだね。結構たくさんいたみたいで……ハハハ」
ルビーの、異形を見るような目が容赦なく俺に突き刺さる。
スモールウルフだけでなくゴブリンも持って帰りたい!というソウルの願いを聞き入れ、全部アイテムボックスに収納してきたのは間違いだったかもしれない。
俺の感覚ではせいぜい五十匹(ゴブ30,狼20)くらいだろうと思っていたのに、数えてみたら百匹近くもあったのだ。
⦅あの近辺に、ゴブリンは四十二匹、スモールウルフは五十五匹おったのじゃ。おぬしの探知魔法の精度は、まだまだということじゃな⦆
はい、お師匠様の仰る通りでございます。
ソウルを見習って、これから俺も日々精進していく所存です。
⦅うむ、良い心がけじゃ⦆
解体はソウルだけの手には負えず、皆が協力しておこなっている。
ソウルたちにやらせて、カズキはやらないの?とルビーから冷たい視線を向けられたが、俺は絶対にムリ!と返しておいた。
倒しっぱなしで申し訳ないが、素材などの権利はすべてソウルへ譲ってあるので勘弁してください。
討伐時の『血、ドバァー』にも、アイテムボックスへ収納するときも、俺はがんばって吐き気に耐えましたよ?
でも、解体はアカン!
もちろん
日本人の俺が鑑賞できるのは、マグロの解体ショーだけ!
「カズキは、本当に何もいらないのか?」
全身血だらけのソウルが、俺のところにやって来た。
うん……その姿、日本なら通報案件だぞ。
「俺は魔物を捌くことはできないから、素材は手間賃としてソウルが全部もらってくれ」
「魔物から出てきた魔石はどうする? さすがにこれは、全部はもらいすぎだから」
ソウルが見せてくれたのは、親指の爪ほどのサイズの魔石。
ゴブリンとスモールウルフから取れたもので、百個近くあるとのこと。
「じゃあ、それは半分ずつにしよう。それで、俺の取り分は解体を手伝ってくれた人たちへ手間賃として渡してくれるか?」
「それじゃあ、カズキの取り分はこれだけになっちゃうぞ」
もう片方の手にあったのは、幼児の拳くらいの大きさの緑色の魔石だった。
「ゴブリンリーダーの魔石か……結構大きいんだな。俺はそれで十分だよ」
⦅儂が、欲しいものがあるんじゃがの?⦆
マホーは、何が欲しいんだ?
⦅目玉じゃ。左目だけでよいから、スモールウルフとゴブリン、ゴブリンリーダーの三つをあの壺に入れておいてくれんかの?⦆
ゲッ……まさか、蘇生薬をまだ作るつもりなのか?
⦅せっかくじゃから、おぬしが生きている間も目玉を集めようかと思ってのう⦆
マホーは生粋の日本人である俺に、魔物から目玉を取り出せと?
⦅……これだけの魔物を倒せたのは、誰のおかげじゃ?⦆
すんません……マホーさまから頂いた能力と、補助のおかげです。
⦅わかっておるなら、よろしい⦆
満足げにうなずく姿が見えたのは、きっと気のせいではない。
そして、はたと気付く。
もしかして、今後倒した魔物の目玉も入れていくんじゃ……
⦅おぬしは、察しがよくて非常に助かるわい⦆
マジか……(絶句)
それから、俺は人目に付かないよう皆から離れた場所に壺を出し、ソウルに頼みこんで目玉を三つ壺に入れてもらった。
魔法使いは変なものを集めるんだな…とソウルが言うから、皆(特にルビー)には絶対に内緒だぞ!と伝える。
口止め料にゴブリンリーダーの魔石を渡そうとしたら、それはいらないから、またいつか一緒に狩りと採取に行ってほしいとお願いされてしまったのだった。
◇
ゴブリン集落を壊滅したことを、国へ報告しなければならない。
ゴウドさん号令のもと、報告に必要なゴブリンたちの鼻を皆で一匹ずつ削いでいく。
俺? 俺はもちろん不参加だよ。
その代わり、後片づけはきちんとやらせていただきました。
(土魔法で)穴を掘って、 火(魔法)で燃やしたあと埋葬し、最後に手を合わせておく。
「ソウル、体を洗うなら(魔法で)水を出してやるけど?」
「村の外れに、手を洗う場所があるんだ。寒い季節でも温かい水が出ていて、そこで農機具を洗ったり洗濯をしたりもしている」
「温かい水?」
興味を惹かれた俺は、ソウルのあとをついて行くことにした。
そこは、平らな大きな岩が埋まった浅瀬の水場で、岩のくぼみの割れた隙間から水が噴き出している。
手を入れてみると、意外と温度が高い。
「これは……温泉だ」
試しに鑑定してみると、こんな結果が……
【泉質】 炭酸水素塩泉
【効能】 きりきず、やけど、慢性皮膚病、冷え症
『炭酸泉』って、どこかで聞き覚えがあるな。
⦅……ふむふむ。皮膚の角質を軟化させ、肌を滑らかにさせる作用がある『美肌・美人の湯』じゃな⦆
そうだ、ばあちゃんが肌がすべすべになった!と喜んでいたやつだ。
「この水は『オンセン』と言うのか? 俺は、全身が汚れたときはこうしている」
そう言うと、ソウルはおもむろに寝ころんだ。
水位は大人の
「こうやって、頭からつま先、ついでに服まで綺麗にしているんだ」
「ははは、風呂の代わりってことだな」
「カズキは、風呂に入ったことがあるのか?」
「うん、あるぞ」
「やっぱり、魔法使いの弟子ともなると違うな……。風呂なんて、金持ちしか入れない贅沢なんだぞ。水をたくさん溜めて、火で沸かして……なんて、豊富な魔力か魔石か人手がなけりゃできないもんな」
俺たち貧乏人は、川や池に入るか、お湯で体を拭うだけだ…の言葉に、俺の中で何かがひらめいた。
「もし、週に一回だけでも風呂に安く入れるなら、入りたいか?」
「金が払えるなら、一回と言わず何回も入るよ」
「周りに、他人が入っていてもか?」
「俺は、別に気にならないけど……」
「ここ以外にも、他に温泉が湧き出ている場所はあるのか?」
「あるよ。でも、他は深すぎたり浅すぎたりで入れないぞ。あと、外壁の外にもある」
ククク……これは、良いことを聞いたぞ。
満面の笑みを浮かべた俺を、ソウルはやや引き気味に眺めていた。
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