第6話 ゴブリン討伐だ!


 三人のケガが無事に治ったので、ひとまず解散となった。

 

 俺は朝食を食べながら、この村の現状を聞いた。

 トーアル村は王都から馬車で一時間という立地にありながら、過疎化に苦しんでいた。

 これといった産業も資源もないため村に就職先がなく、若者は王都へ出稼ぎにいったまま定住してしまい帰ってこないのだという。

 村に残っているのは中高年と、わずかな若者と幼い子供たちだけだ。


「この辺りは森に囲まれていますし、冒険者として生活はできないのですか?」


「この村に冒険者ギルドがあればそれも可能だが、依頼を受けるにしても買い取ってもらうにしても、いちいち王都へいかなければならないからな」


 王都へ行く馬車は週に二便しかなく、しかも一往復のみ。

 もし帰りの便に乗り遅れたら、王都で二,三日宿を取ることになる。

 たまに冒険者たちが村へやって来ることもあるが、村内に宿もないため、食料と水を補給するとすぐに旅立ってしまうのだそう。


「中途半端に王都に近いものだから、この村は通過されてしまうのよ」


 地方から王都への中継地点であれば旅人が立ち寄ってくれて、宿泊や食事などでお金を落としてくれるのに…と、ルビーは残念そうに語る。

 

「外壁があるということは、魔物の襲撃があるのでしょうか?」


「この村は国の直轄領だから、定期的に騎士団が見回りをしてくれる……といっても、月に一,二度くらいだが。それのおかげで、これまで襲撃といったことは起きていない。ただ、魔物の数は多いから、嘆願書を出して壁を作ってもらったんだ」


 若者が少ないから守りは強化しておかないとね、とゴウドさんは苦笑する。

 近隣の森はゴブリンや中型犬くらいの大きさの魔獣(スモールウルフ)が多く、単体では討伐も簡単だが、群れで襲われると脅威度はかなり増すとのこと。


「今回のゴブリン集落の件は、国へ報告されるのですか?」


「一応、報告は上げておくが、騎士団がすぐに派遣されるかどうか……」


 直轄領はこの村だけでなく他にもあるため、おそらくすぐには手は回らないだろうとゴウドさんは言う。


⦅だったら、おぬしがサクッと討伐すればよいのじゃ。戦い方の練習にもなるし、丁度よいわい⦆


 『サクッと』って、そんな言葉をどこで覚えたんだ?


⦅おぬしの記憶からに決まっておる⦆


 ……ですよね。

 でも、マホーの言う通り、この世界で生きていくなら戦い方を身につけないとな。

 俺の能力はマホーの能力を受け継ぎ魔法攻撃が突出しているから、発動の練習は必須だ。

 マホー大先生、よろしく頼むよ?


⦅ああ、儂に任せておけ⦆


「あの、俺が今からゴブリンを討伐してきます。また、被害が出るといけませんし」


「ちょっと待って! カズキは装備を何も持っていないじゃない。それなのに、一人で行くっていうの?」


「その……俺は、魔法がいくつか使えるんだ。だから、基本的に武器は必要ない」


「そうか、だから君はアイテムボックス持ちなんだね。突然、ポーションが出てきた謎が解けたよ」


 ゴウドさん曰く、アイテムボックスは宮廷魔導師など魔法の使い手が多く持っているスキルなのだとか。

 マホーは、このことを知っていたのか?


⦅儂も、知らんかったのう……⦆


 まあ、召喚勇者とバレるよりはいいか。

 よし、これから俺は『魔法使いの弟子』を名乗ることにしよう。


「じゃあ、あのポーションもカズキが作ったの?」


「あ、あれは…俺の師匠が作ったものだよ。だから、効き目が良かっただろう? 俺は、まだ修行中の身なんだ」


「魔法使いの学校へ通いながら、修行の一環で休暇を利用して一人旅をしているってこと?」


「う、うん、そうだね……」


 そういえば、一番最初に(大)学生だと説明したんだっけ?

 でも、ルビーのおかげで設定が定まった。

 『(魔法学校へ通っている)魔法使いの弟子が、修行の一環で一人旅をしている』

 アイテムボックスやポーションを持っていることも、すんなりと納得してもらえたし、悪くないかも。


 その後、二人からポーション代や討伐報酬を支払うと言われたが、「師匠から、困っている人を助けなさいと言われている」「修行の一環だから、報酬はもらえない」と固辞しておいた。



 ◇



 俺は村長宅を出て、村の中を歩いていた。

 森へ向かうついでに、村の様子も見学させてもらおう。

 昨日上から眺めたとおり、ほとんどの家が平屋だ。

 一応、商店なんかもあるようだけど、外を歩いている村民が少ないからか全体的に活気はない。

 よく見ると、空き家も多いな……


「お~い、カズキ!」


 急に後ろから呼び止められ振り返ると、ソウルと妹がいた。


「さっきは、本当にありがとうな!」


「気にすんな。だって、ここの村の人たちは、皆で助け合うんだろう?」


「そのおかげで、俺とリラは生きていけるんだ。感謝しても、しきれないよ……」


 ソウルたちの両親は、去年王都へ出稼ぎに行った先で事故に遭い亡くなったのだという。

 そんな二人を、村の人はいろいろ助けてくれるのだとか。

 ソウルは十四歳で、妹のリラは十歳。

 日本でいえばまだ小中学生の兄妹が必死に頑張って生きている姿に、また涙ぐみそうになった。


「森へは、何を採取しに行ったんだ?」


「明日、行商人が村へ来るから、売れそうな薬草なんかを取りに行ったんだけど……」


 聞けば、王都まで持っていかなくても、行商人が買取りもしてくれるのだそう。

 ただし、買い取り価格はギルドで売るよりは安くなってしまうようだ。


「行商人のおじさんはいい人よ。高くは買い取れなくてごめんなって、たまにおかしをくれるの」


「そうか……」


 おそらく、善意でやってくれているのだろう。

 道中は魔物だけでなく盗賊もいるから、別途、護衛費用も掛かるしな。

 特に魔石を積んでいたら、狙われやすいだろうし。


「俺、今から森へ行ってゴブリンを退治してくるから、ついでに薬草も取ってきてやるよ」


「だったら、俺も一緒に行ってもいいか? 皆に世話になりっぱなしだから、できることはなるべく自分たちでやりたいんだ。いずれは、冒険者としてこの村を守っていきたいし」


 目を輝かせて将来の夢を語るソウルは、とても頼もしい。

 俺は足手まといになるか?と尋ねられたけど、マホーはどう思う?


⦅大丈夫じゃ。ゴブリンごときに遅れは取らん。儂の大魔法もあるでのう⦆


 そりゃあマホーは大丈夫だろうけど、俺がソウルを守りきれるかどうか……


⦅おぬしが、結界魔法を使えるようになればいいのじゃがな……そうじゃ! やつらの中に使い手がおれば、その血を飲んで……⦆


 オエ~

 ゴブリンの生き血を飲むとか想像しただけで、酸っぱいものが……

 

「一つ確認だが、ソウルは剣を使えるのか?」


「冒険者からもらったお古の剣ならある。森へ行くときは、必ず持っていくんだ。今日は敵の数が多くて、やられちゃったけど」


 持ってこようか?と言うソウルへ、必要ないと答える。


「今日は俺の剣を貸してやるから、それを使え。じゃあ、行くか」


「うん!」


 小説でも、そうだもんな。

 経験を積んで、みんな立派な冒険者になっていく。

 いざとなれば上級ポーションもあるし、マホーのヤバそうな必殺技もあるらしいから、何とかなるだろう。

 ソウルには、戦利品コレクションの中から彼の体格に合った小ぶりの剣を渡した。

 こんな立派な剣、見たことがないぞ!と大興奮していたけど、大丈夫かな?

 リラは、近所のおばあちゃんの家で待っているとのことだった。



 ◇



「ソウル、今度は右から来るぞ!」


「わかった!」


 俺たちの前に現れたのは、スモールウルフだった。

 ソウルは慣れた手付きで、急所を一突きして倒す。

 ……はい、お察しの通り、俺は今のところ探知以外にまったく出番はありません。

 毛皮が売れるため、なるべく体を傷付けないように頭部ばかりを狙って止めを刺すのは、さすがとしか言いようがない。

 妹を養うため、彼がこれまで必死に努力してきた証が見て取れた。


「カズキ、この剣すごく使いやすいよ。これなら、全然疲れずに長時間使用できる」


「たぶん、今までの剣はソウルの体格に合っていなかったんだよ。だって、冒険者が使っていたやつなんだろう?」


 ソウルが倒した魔物は、すべて俺のアイテムボックスへ収納してある。

 これまでは、たくさん持ち帰るためにその場で解体もしていたそうで、今日襲われたのもその作業中だったらしい。

 血の匂いは他の魔物を呼び寄せるから、かなり危険な行為だよな。

 ソウルが無茶をしなくても稼げるように、なんとかしてやりたいが……

 考え事をしていた俺のレーダーに、多数の魔物の反応があった。


「カズキ、あの辺りだよ」


「うん、かなりたくさん居るみたいだな。ここからは、気を引き締めて対処しないとな」


 ゴブリンの数は、全部で三十匹か。

 ほとんどは雑魚のようだけど、三匹だけ気になるのがいるな。


⦅おそらく、ゴブリンのボスと、その側近じゃろうな⦆


 う~ん、ボスはゴブリンリーダーとかゴブリンキングってところか?

 側近も、何らかの職業をもっているんだろうな。


「ソウル、敵は三十匹だがその中に強いやつが三匹いるから、そいつらは俺が相手をする。いいか、絶対に無茶をするなよ? もう妹を、泣かせたくはないだろう?」


「わかってる。リラにあんな顔は、もう二度とさせたくないよ」


 幼い妹に泣かれたのが、相当堪えたと見える。

 うん、これなら絶対に無理はしないな。


「よし。少しずつ、敵の数を減らしていくぞ」


「そうだね」


 俺たちは、集落へ向かって歩いていった。



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