第64話 リヴァイアサン

「なんで……こんなところにリヴァイアサンが……」


 アリサの震えた声が聞こえる。

 目の前には青い鱗を全身に覆い金色の瞳を持つ巨大なモンスターがいて、俺たちを威圧していた。


「アリサ、情報を端的に頼む!」


 エリクサーを取り出しながら、俺は目の前のリヴァイアサンの動きを注視していた。

 明らかにこれまで出会ってきた中で最も強いモンスター。

 さらに、今の俺は魔導剣を持っていないので、戦闘力を発揮することができない。


「かつてナブラ王国の海を荒らして回った伝説の海竜よ。水を操り津波を起こして船を沈めたと聞くわ」


「そんなモンスターがなぜ!?」


「わかんないわよ! でも、確か……初代ナブラ国王がこの地に封印したって伝承には書かれていたのに……」


「もしかして、俺たちがここで魔法を使ったから?」


「そ、そんなはずはないわ……、だって魔法を使ったくらいで封印が解けるのなら、もっと早くに解けているはずだし!」


 確かにここはナブラ王国の訓練場、こんな場所にリヴァイアサンが封印されているというのもおかしな話だし、もし解けるのなら他の人間が魔法を使った時ではないだろうか?


『GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』


「来るわっ! ミナト!」


 リヴァイアサンの身体が青く輝くと、海中から渦巻いた水柱が立ち昇る。

 次の瞬間、水柱の中から渦が射出され、俺たちへと向かってきた。


「くっ! 魔力の防壁よっ!」


 アリサが前に出ると、魔法の障壁を張る。

 障壁と水の渦が当たり、おそろしい音が聞こえた。


「ミナト! 私が時間を稼ぐ! 今のうちに戦闘準備を!」


「駄目だっ!」


「きゃあっ!」


 俺はその場で判断すると、アリサを抱えて横に飛ぶ。

 一瞬の差で、先程までアリサが居た場所を、水の針が貫いた。


「多重詠唱!? なんて器用な!?」


 あのままつっ立っていたら、串刺しにされていたことを知ったアリサは、顔面を蒼白にするとリヴァイアサンを見る。


 リヴァイアサンは相変わらず俺たちを睨んでおり、その挙動には一切の隙はなかった。


『GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』


 再び水の渦が放たれる。


「くっ……このっ!」


「俺が防ぐっ!」


 アリサが障壁を張ろうとしたところで、俺は前に出ると、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 水の渦を腕でガードした。


「くっ……いてええええええええええええっ!」


「嘘でしょ、上級魔法並みの威力を……受け止めたの?」


 背後からアリサの呆れた声が聞こえる。俺は痛みを消すためエリクサーを取り出すと口に含んだ。


「アリサ、あいつの動き封じられないかな?」


「無理よ、あいつ凄く頭がいい。きっと、私たちの会話の内容も聞こえてるわ。出し抜くのは不可能よ」


 そうなのだ。金色の瞳は憎悪に染まっているのだが、怒りに身を任せて攻撃してくる感じではない。先程から、俺が収納魔法を使い魔導剣を取り出そうとしているのに、隙を見せたら攻撃する気配を感じるのでそれができない。


 やつの攻撃も、一発だけなら防ぐことができる。このままなら互いに打つ手がないのだが……。


「アリサ! 逃げろっ!」


 リヴァイアサンの視線がアリサへと向いた。何か嫌な予感がする。


「あ、あんたを置いて行けるわけないでしょ!」


「いいからっ! 早くっ!」


 今一番恐ろしいのはアリサを狙い撃ちされることだ。

 もし仮に、リヴァイアサンがそれをし始めたら完全に後手に回ってしまうだろう。


『GUA……」


 気付かれた。こうなったらイチかバチか、攻撃を受けながら魔導剣を取り出すしかない。そう考えていると……。


『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』


 リヴァイアサンがこれまでで最大級の攻撃を繰り出してくる。水柱が十も二十も立ち、それらが一斉にこちらに向かって進んできた。


「これは……流石に耐えきれないぞ」


 一瞬、死の可能性が頭をよぎった。


「アリサ、せめて俺の後ろに!」


 彼女だけでも守らねばならない。俺が攻撃を待っていると……。


「わったしがきたあああああああああああああああああ!」


 空からサリナが降ってきた。


『GOA!?』


 彼女は拳を突き出すとリヴァイアサンの頭を殴りつけた。


 ――ズドンッ!!――


「なななななっ!」


 水柱が消え、リヴァイアサンの首が浜辺に倒れ砂ホコリが巻き上がり視界が悪くなる。


「ぐえっ……ぺっぺっぺ! 砂が入ったっす!」


「サリナ!? 一体どうしてここにっ!」


「アリサとコウが逃亡したからっす! 私を置いてどこかでイチャつくつもりだと読んで追いかけてきたんすよ!」


「それにしたって……距離が離れているでしょ!」


「そこはこの、城に保管されていた魔導具の存在っす。思い浮かべた相手から100メートル以内に転移するという優れモノっすよ!」


「あんた……身体に絡みついてるその縄って……封印をする時に使うやつじゃ?」


「ああこれっすか? これは魔導具を取る時に邪魔な壺があったので蹴飛ばしたら絡まってきたっす。王国の兵士に追われていたので慌てて転移したらついてきたようっすね」


「それ、リヴァイアサンが封印されてた壺じゃない!? あんたのせいかああああああああ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る