第50話 交渉成立
「私が、コウに……『オーラ』を教えるっすか?」
サリナは自分を指差し、俺を指差すと、ふたたび自分へと指を向けた。
「ああ、色々考えたけどそれしか『オーラ』を習得する方法はないからな」
これまで散々口喧嘩をしてきた相手に頭を下げる。それがどれだけ屈辱的なことなのかわかるまい。
俺としてはサリナの関係ない場所で『オーラ』を習得して、いざ、ドヤ顔をしてきたら返り討ちにするつもりだったのだ。
だけど、彼女から『オーラ』の使い方を教わってしまってはそうもいくまい。それどころか、習得後も師匠面されるので頭が上がらなくなることもありえる。
サリナに馬鹿にされる覚悟はできている。だからこそプライドを守るため、なるべく人がいない場所で教えを乞うているわけだ。
「なんで……コウが、私が『オーラ』を使えることを知ってるんすか!?」
ところが、サリナは血相を変えると俺に詰め寄ってきた。
「そんなの、あれだけ『オーラ』を使っていればわかるだろ?」
ブロック運びの時にも利用しているのがはっきり見えたし、今だって戦闘時でもないのに薄く纏っている。
「おかしいっすよ……凡人には見えないって、御母様が言っていたのに……」
サリナはアゴに手を当てるとブツブツと呟いた。そして、彼女は俺を見ると……。
「そうか、わかったっす!」
何かに気付いたようだ。
「コウは変態だから! だから『オーラ』が見えるんすね!?」
「殴るぞてめぇ!」
ゴンとという音がして、サリナは頭を抱え地面にうずくまる。
「な、殴った! レディを殴ったっすね!?」
目に涙をためて抗議してくる。やはり『オーラ』に守られているから頑丈なようで、こちらの拳の方が痛い。これでも、岩にひびが入るくらいの力で殴ったのだが……。
「とにかくっ! ごめんっすよ! 御母様からも、将来を誓うくらい仲の良い相手じゃなきゃダメといわれてるし、コウは……御飯を奢ってくれたり宿代までさり気なく払ってくれてた時は嬉しかったっすけど……敵っすからね!」
この前飯を奢った時の話をしているらしい。帰り際、食事代と一緒に、併設している宿の安部屋もとっておいただけなのだが、どうやらそこは恩義に感じているらしい。
「なあ、どうしてもだめか?」
「だ……だめっ……す……よ」
俺が迫ると、サリナは両手でガードしながら後ろに下がっていく。
「おい、足元危ないぞ」
ここは廃材置き場、足元には石やら木片やらが散らばっているのでよく見もしないで下がると……。
「ふぎゃっ!?」
サリナは奇妙な悲鳴を上げてすっころんだ。
「いたたた、なんなんすか……まったく」
転んだことで、サリナのパンツが曝される。水色の縞縞模様とは想定外。思わず視線が吸い寄せられてしまう。
「わっ! 見るなっ! エロ! エロコウ!」
サリナはばっと前を隠すと俺を睨んで来た。
「言っておくっすけど、この『オーラ』は一族に伝わる秘伝すから! 何度頼まれても――」
「前金で金貨500枚。習得できたら2500枚でどうだ?」
「やるっす! 教えてやるっす!」
シュバッ! と動くと、サリナは俺の両手を掴んでくる。あまりにも素早い動きだったので、俺の目でも追いきれなかった。
「秘伝はいいのか?」
「構わないっす! どうせ、使えるのは御母様と私だけっすから!」
目に金貨を浮かべたサリナは前言を撤回すると食い気味に俺の申し出を受け入れる。
それどころか、手に力を込めており、俺を逃がさないように、取りやめさせないようにしている節がある。
「これで、この国での活動資金を得られるっす! やっと任務に戻れるっすよ!」
涙を流しながら俺の腕を振る。それもそうか、これだけの実力がありながら、ブロック運びなんてやりたいわけもないからな。
「それじゃあ、サリナ。これからひとつ、よろしく頼むぜ」
既に握手をしているようなものなのだが、俺は彼女に向かい挨拶をする。
「こちらこそよろしくっす。ビシビシ行くから覚悟するっすよ!」
そうやって無邪気に笑う姿は、これまで見た中で一番可愛いと不覚にも思ってしまうのだった。
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