第4話 魔導装置
「これが錬金術ギルドか……」
目の前の巨大な建物に圧倒される。
話に聞くところによると、この世界の建築方法は現実世界のそれとはことなる。
なまじ魔法があるからか、魔法で建材を作り出し、それを魔法で加工することで建造しているのだ。
この錬金術ギルドは、巨大な大理石を削り出し、通路や部屋を用意しているので建物が非常に入り組んでいる。
「えっと、どこに行けばいいんだっけ?」
受付嬢からもらった地図を見てもいまいちわからない。
ところどころに階段があったり「この先地下室」など、これでもかというくらい立体的な構造をしている。まるでテロ対策をしている施設のように入り組んでおり、迷ったら一生出られないのではないかと思った。
「……通りで嫌がるわけだ」
お使いということで気楽に考えていたが、時間をとられるので冒険者が来たがらないのは理解できる。
「とりあえず、誰かに道を聞こうかな……?」
周りを見回すと、錬金術師だと思われるローブ姿の人間がそこら中にいる。
錬金術師たちはせわしなく動き回っており、とてもではないが声を掛けられる雰囲気ではなかった。
そんな中、俺を見ている錬金術師がいた。こうなったら忙しくても構わない。
「あのっ!」
彼女に近付き声を掛けると……。
「ちょっと、ドアの修理に来たんでしょ! 早く直してよ!」
なぜか怒られてしまった。俺は面を食らうと言い訳をする。
「いや、俺は……冒険者ギルドから荷物を……」
荷物を届けようとして迷ってるので案内して欲しいのだが、これでは話を聞いてもらえるか微妙だ。
「この前、乱暴に扱う馬鹿がいたせいで壊れてるの! 一般人が触れると危険な魔導具もあるから早く直してちょうだい」
説明をしようにも、錬金術師は俺の首をひっつかむとずるずると廊下を引きずって行く。女性で腕が細いにも拘わらず、どこにこのような力があるのだろうか?
「はい、ここよろしくね。終わったら声掛けて」
結局、良くわからないうちに施設の奥へと引きずり込まれてしまった。
彼女が嵐のように立ち去ってからしばらく、俺は現状を把握することにつとめる。
蝶番が外れたドアを見る。壊れているとはいっても本体は無事なようだ。部品を取り換えるだけで済むだろう。
ここまで来たのなら直した後で声を掛けて、ついでに荷物の届け先まで案内してもらう方が得策。
俺は床に置かれている工具を手に取ると、ドアの修理を始めた。
「よし、修理完了」
しばらくして、ドアの修理が終わり開閉してみても問題がないことを確認すると、奥の部屋が気になった。
「でかい石だな……魔石ってやつか?」
巨大な魔法陣があり、その中心に透明な石が浮かんでいる。人間など押しつぶしてしまいそうな重厚感。魔法で浮かんでいるのは明らかだが、手前にある台座で操作するのだろうか?
「これが魔導具? やっぱりファンタジー世界に来たんだな」
もう少し近くで見ても大丈夫だろうか?
魔導具に気をとられながら進んだせいか、足元に置いてあった工具を蹴ってバランスを崩してしまった。
「うわっ、とぉっ!」
たたらを踏み、前に出る。転ばないように伸ばした左手が台座に触れてしまった。
――ギュオオオオオオオオオオオオン――
「えっ?」
何やら魔導具が起動するような音が聞こえ、魔石が輝き出す。
「なん……だ……これ……?」
急激に、身体から何かが抜けていくのが解る。咄嗟にこのままでは危険と思った俺は、エリクサーを作り出し、中身を口に含んだ。
(これは……マジできつい……)
手が離れず、ずっとエリクサーを飲み続けているのだが、明らかに身体から何かを吸い上げられている。
虚脱と回復を繰り返すので精神的にかかる負荷は尋常ではない。いつ終わるともわからない苦行。どれだけの時間が経っただろうか、いつの間にか魔導具の鳴動が止んでいた。
「やっと身体から手が離せるようになった」
台座から手を離し、手を開閉してみる。一体何だったのかはわからないが、エリクサーで回復しているお蔭か問題ないようだ。
「あれ? これってこんな色してなかったよな?」
魔石が虹色に輝いている。まるで俺のエリクサーと同じような色だ。
「なんだか疲れたし、お使いもしなきゃいけないから出るとするか……」
身体も精神も万全なのだが、気疲れした俺は荷物を持つと部屋を出るのだった。
★
「これは由々しき事態です」
錬金術ギルドの会議室で長は険しい目付きをすると、その場の全員を睨みつけていた。
それというのも、前代未聞の事件が起こったからだ。
「施設に魔力を供給する魔導装置、それが満タンまで充魔されていました。アリサ、本当にあなたの仕業ではないのですね?」
その場にいた全員の視線がアリサへと降り注ぐ。
「えっと……あははは、そうですね。流石に無理です」
この魔導装置は錬金術ギルドの施設に五つあり、それぞれが各所に魔力を供給している。
充魔には大量の魔力が必要で、満タンまで行くにはこの錬金術ギルドの平均的な人間百人分の魔力が必要になる。
「私の魔力をフルに注いでも十人分が限界ですし……」
アリサは、この錬金術ギルドで最も多くの魔力を保有している。彼女で無理なら他の誰にもできるはずがない。
魔力が満タンなので「良かったね、これで施設を使い放題だわ」とはならない。
「だとしたら、誰がやったというの?」
誰にもできないはずの魔力補充がなされているのだ。アリサでないなら違う答えを示さなければならない。
「えっと、誰か他の人が代わりにやったのでは?」
能面を浮かべるギルド長に、アリサは冷や汗を掻きながらも答えを提示した。
「他の錬金術師は魔力が残っています。あなたも錬金術師なら、一度使い切った魔力は回復の魔法陣でも一週間は全快しないと知っているでしょう?」
百人の錬金術師がアリサの面目を潰そうとしたということも考えられなくはないが、全員十分な魔力が残っている時点であり得ない。
「だとすると、百人分の魔力を持つ人物がいてそれを秘匿している?」
ばかけている。これまでの国の歴史でこの魔導装置の魔力をたった一人で補充したのは四人しか存在しない。
膨大な魔力を持つそれらの人物は賢者とたたえられ、様々な魔法を操り伝説を残している。
もし五人目の達成者が現れたとして、それを隠す意味がわからない。
「ほ、他に怪しい奴は……いなかったんで……しょう……か?」
アリサの言葉がしりすぼみに小さくなっていく。元はと言えば彼女の失態だからだ。
「貴女が寝坊などせず、きちんと充魔の仕事をしていれば正体も掴めているはずなのですけどね?」
アリサは同僚の忠告があったにもかかわらず二度寝をし、魔力が満タンになった魔導装置を見た錬金術師が事情を聞きに部屋を訪ねるまで眠っていた。
「とにかく、これをやった犯人を突き止めること。それが貴女への罰則ですよ。見つけるまでは減給です」
「そ、そんなぁ~~~~!?」
涙目になったアリサ、悲痛な叫び声が会議室を満たした。
★
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