【1万pv感謝】パトロンは悪役令嬢。魔王という生き方に嫌気がさして、勇者にわざと討伐されてみたら片田舎の人間の子供に転生したので、平々凡々な魔法研究生活を望んだ日々の記録

アヌビス兄さん

第1話 魔王が格好をつけた自殺をしてみたら転生ルートに入った件

「魔王、覚悟!」


 勇者よ。余は貴様の光溢るるその姿と活躍に心躍らせたものだ。そして、貴様は常に孤独であったな? 余がいつも沢山の魔物達に囲まれ、そして貴様と死闘をする様を貴様が羨んでいた事を知らぬわけがなかろう?


 もし、余と勇者、貴様の立場が逆であればお互い生きている実感をもっと楽しめたのかもしれんな。

 勇者、貴様には悪いが余は先に逝かせてもらう。


「見事なり、余の破滅の剣を打ち破り、よくぞここまで鍛えてきた。この魔王、潔く滅んでやろう。平和は、手柄は全て貴様のものだ。あとこれは駄賃じゃ、貴様の戦えば戦う程に人ならざる物になる呪い、解いてやった……」


「魔王。お前、わざと……なんで? 俺にはお前しかいなかった……お前しか俺の事を分かってくれる奴はいなかった」


 そうだろうな? 余もそうであった。余は何故世界を滅ぼそうとしたのか? 嗚呼そうだ。


 飽いていたからだ。こんな世界、こんな余など消えて無くなればいいと望んでいたのだ。


「綺麗な世界を冒険、心躍るような戦い、出会いと別れ……そして恋。そんな世界に憧れた。魔王という余が、それが余が滅ぶに値する罰だろう。さらばだ勇者よ」


 うん、余としては最後の最期でなんとかそれっぽく滅び終えるに至ったと思う。きっと勇者は嘆いてくれただろう。唯一の理解者であり好敵手である余を失った悲しみに打ちひしがれ、あやつはきっと成長する。


 勇者よ、貴様は生きよ。余は先に逝く、またいつか永久の闇で出会う事もあればその時は並んで杯でも酌み交わそうではないか……

 ん? 妙に明るいな。


「はて? ここは何処だ?」


 パッ! ぴかー!

 豪華な椅子に座る金髪の子供。それが突然光に照らされてこう叫ぶ。


「うおっ! 眩しっ!」


 多分、いや間違いなく馬鹿だ! そしてここが地獄やら天国やら言う場所か? 迷信だと思っておったがよもや存在しておったか、だって余の部下にゴーストというわけのわからない種族がいたが、奴ら死してもその辺を浮遊していたし、絶対死者の世界とかないと思ってた。


「おい、貴様。えー、元魔王」


「なんだ貴様、キャラが被っておるわ!」


「私は神様だ」


「ほう、神が何用だ? まさか一戦交えようとでも言いたいのか?」


「それはない、私はこけただけでも死ねる自信があるからの」


 ここまで自分を卑下せんでもよいと思うのだが、戦うつもりはないと……


「それは不憫な神だな。で? この全てを無に帰す破滅の魔王に何用かと聞いている」


「貴様、その暗黒の性質に対して、なんとも情熱的で聖なる魂をもっておるのだなとな? 元の世界において勇者を死の呪いから解放したであろ?」


 やばっ、恥ずかしい。何こいつ。なんでこんな事知ってるの? あーそうか神様だからか……こういう時は……


「それがどうした? 自慢ではないが、精霊魔法や白魔法の勉強をしてみたが、あまりにも性質が合わなさ過ぎて使う度に二日酔いくらい嘔吐したわ」


「貴様も不憫な魔王よの、そんな貴様に一つ提案があっての? 貴様、別世界に転生してみんか?」


 話には聞いた事がある。ダークエルフ達が書き記し読んでいた書物に、無駄に長寿なだけで役に立たないダークエルフが何故か別世界に行き、勇者になったり魔王になったりするおとぎ話。


 しかも元の世界ではぱっとしないのに、次々にモテはじめるという実に愚か極まりないもので、余はそれをダークエルフから没収しては没頭して読んだものだった。


「神よ……」


「おぉ、なんじゃ怒ったか?」


「くわしく!」


「は?」


「くわしく話を」


 きっと余の瞳は生まれたての子犬くらい輝いておったんだろう。神も咳払いをすると話してくれた。別世界におけるレルバリアという国で生まれた女神の末裔、その一族が不幸な事に死の呪いをかけられておるらしい。


 その年に生まれる一番最初の娘は呪いで生まれる事なく死に至ると、なんという酷い事をする奴がいたものよの? で、神はこの死にゆく宿命を抱いたこの娘に余の魂を入れるというわけらしい。


「ちょっと待て! その娘はどうなる?」


「生まれる事叶わぬ命だからの、存在すらしてはおらん。貴様はその性質が暗黒の塊みたいなものだから、その程度の呪い擦り傷程度にしかならんし、ぶじご出産だ!」


 なんだか少し釈然としないのだが、余は一つ思い出した事があった。異世界に転生する時はこうした神とかがご都合主義的にとんでも能力をくれるものなのだ。


「神よ!」


「なんだ?」


「なんかこー、余しか使えない力とか武器とかをおくれ」


 じーっと余を見続ける神。それも少しだけ余の事を不憫そうに見ておる。この目は少々つらい。余も泣いてしまいそうだ。


「貴様、魔王としての魔力とその記憶を残してやるのだから、それ以上は遠慮せんか?」


「嫌だ嫌だ嫌だーい! なんかすっごーい力が欲しいぞ!」


 神は本当にどうしょうもないやつを見る目で余を見ると「しかたないのぉ」とブツブツ呟いてから上に指を向けるとそれを下す。


 ゴォオオオオオオ!


 そこに降り立ってきたのは、余の元の世界での相棒。巨大な黒い龍。そしてその姿が禍々しい剣に変わった。


「これは、破滅の剣!」


 余はうれしさのあまりに抱き着いてしまった。破滅の剣も余との再会を喜んでおる。勇者に殺されてしまった時は実に泣きそうだったが、こうして死しても再開できた事に感謝しかない。


「これ以上のサービスはやれんからの!」


「いや、十分だ。破滅の剣は余が寝る時に、もふもふの獣に変身してもらい抱きながら寝る事で十分な睡眠を得る事ができるのでな。破滅的睡眠を与えてくれる」


「使い方間違っておらんか? まぁどうでもいいけどの。じゃあ、そろそろ転生させるがよいか?」


「ばっちこい!」


「ェメウーョチクンリドージナエ!」


 なんとも怪しげな呪文を唱える神。余の意識がゆっくりと失われていく。こいつ今の今まで信用してなかったのだが、本当に神だったのだな。


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https://kakuyomu.jp/works/16817330656850645077

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