幼馴染は髪を切る ~清楚系美少女は猫耳つけて陰キャな俺と共に走る~

蒼田

1.

「じゃぁね~」

「また明日お会いしましょう」

「じゃぁな」


 幼馴染の清楚系美少女桃瀬ももせ優心ゆうみがちょっと手を上げひらひらと振る。

 挨拶されたクラスメイト達は大きく手を振りさよならの挨拶。

 俺も続け、玄関を出た。


 周りから嫉妬の目線を受けつつも足を進める。

 その様子を感じ取って隣を歩く優心がチラリと俺の方を見上げて少し口角を上げた。

 こいつこの状況を楽しんでやがる。


 俺と優心が不釣り合いなのはよくわかっている。

 平凡中の平凡を行く俺と、清楚系美少女を通す優心。

 恋人ではないがいつも一緒に帰っている。

 それは俺達が幼馴染でご近所だからだ。


 方向が一緒ならば送るのは当然。そう何かの本に書いてあった。

 それを真に受ける訳ではないが女子を一人で帰らせるのも気が引ける。

 こうした理由から一緒に帰っているのだ。射殺さんばかりの目線を送られる筋合いはない。


 門を出て家に向かう。

 周りからの視線が無くなってきたところで優心の声が聞こえてきた。


「今日も人気者でしたね」

「お前がな」

「あらそうですか? あの視線は快清君に送られたものかと」

「んなわけあるか」

「ありますよ。射殺さんばかりの視線が」

「……野郎の嫉妬の目線なんて俺が求めている視線じゃない」

「ならどのような視線を求めているのですか? 」


 淑女モードの優心が聞いてくるが、そう言われると言葉に詰まる。

 そもそも人の視線に慣れていない。

 目立つくらいなら空気になった方がマシというもの。

 考えても答えが出ず、顔を逸らして頬を掻く。

 すると隣から上品な笑い声が聞こえてくる。


「冗談です」

「……いつまで続けるんだ? その淑女モード」

「二人っきりになるまで」


 いたずらっ子のような顔をして見上げてくる優心。

 少し本性が見え隠れしているが大丈夫なのか?

 スリルを楽しんでいるのか優心は時々こうして本性をチラ見せする。クラスメイト達に今まで隠し通せていることが不思議でならない。

 それだけ優心が転校してきた時の印象が強かったのだろう。


「にしても化学の再テ、受かってよかったな」

「快清君のおかげですよ」

「本当にな」

「……そこは謙遜する場面では? 」

「人によりけりだろう? 」

「確かにそうですが、快清君の部屋にあったラノベの殆どでは謙遜していたと記憶しているのですが」

「ちょい待て。いつの間に俺のラノベを漁った?! 」

「乙女の秘密です♪ 」


 優心は唇に指を当てながらウィンクした。


「そ、そんなドン引きしなくても」

「似合わねぇ……」

「こ、この姿の時は似合うと自負しております! 」

「本性を知っているからなまじ……」


 酷いです、と頬を膨らませた。

 行動だけを見ると可愛らしいのかもしれないが、彼女の二面両方を知っている俺からすれば、裏があるんじゃないかとか疑ってしまう訳で。

 あざと可愛いと言われる動作も、その本性を知っていれば単にうざいだけ。

 俺の反応に不満なのかぷいっと顔を逸らしてしまう優心。

 まぁまぁ悪かった、と謝りながら彼女を宥めるがこちらに向く気配がない。

 そんなに怒るほどのことか? と思いつつ「どうやって機嫌を戻そうか」と考え優心を見ると視線が固定されていることに気が付いた。

 彼女の目線を追い、その先を見ると小さな子供達が道を元気に走っている。


「……」


 怪我で陸上を辞めたと言ったが、やっぱり優心は走ることに心残りがあるのかもしれない。

 彼女は「気にしていない」と言っていたがこの様子を見る限り走りたいのだろう。

 しかし俺にどうにかできることではない。

 ラノベにあるよう過去に戻れるのならば過去に戻って陸上で怪我をする場面を修正すればいいのだろうが、そんな都合の良い能力なんて現実にあるわけない訳で。

 結局の所、俺ができることと言えば彼女の息抜きに付き合う程度だろう。


「さ。行きましょう」

「あぁ……」


 優心は急に振り返り、見上げて足を進めた。

 その顔はどこか決意に満ちたものに見えたのはきっと気のせいと思う。

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