第二十七話 シリアス?いいえ、お姉ちゃんの悪行暴露で騒がしいです

「こっちのハイポーションは一度に五個、少ない方は前に限界だった三個分だけで錬成した物なのだな?」


「はい」


「なるほど。よく頑張ったな」


 アンディが確認して褒めた通り、シェリーの錬金術は成長している。

 シェリーがシロネの下で教わり始める前は一度に錬成出来るのは三個までだったが、今では五個まで出来るようになった。


「それに品質もだいぶ良くなった。五個の方はまだ品質の向上を頑張ってもらいたいが、三個の方はディーニア姉妹が卸すハイポーションとそう変わらない物に仕上がっている」


 そして品質の方は前よりかなり上達した。

 一度に五個錬成した物でも、前の三個が限度だった時の物より品質がだいぶ良くなっている。

 現在三個分を錬成するだけなら経験からか、なんと品質がシロネ達の卸す商品へ迫るまでになった。


「ほんとこの短期間ですごい成長だわ」


「ん、すごい」


 リタとティナは、シェリーがアトリエに来ていた時に何度もシロネのアトリエに立ち寄って見ている。

 だから、前に確認した時との違いにもすぐに気づいていた。


「それに直近でアトリエに来たのって二日前よね。なんか今日までの短い期間ですごい上達してない?」


「たくさん自習しました!」


「おー、がんばった」


 その驚異の成長速度には身を見張るものがある。


 本来初心者が錬成するには厳しいハイポーション。いくら数をこなしたからといって上達するか保証出来ない難易度のはずだが、シェリーはシロネ達から教わりコツを掴んだ。

 自分一人錬金術を繰り返して成果が出るなら、シェリーがハイポーションの錬成をちゃんと物にしたと言える。


「これならディーニア姉妹の商品と並べても問題ないな。ハルナもそれで良いか?」


「そうね。そうしましょうか」


「やったわねシェリー」


「おめでと、シェリー」


 パチパチパチパチ。

 四人分の拍手。

 ただ一人、シロネの拍手がなかった。

 シロネは俯いて震えている。


「あの、シロネ、さん。まだ私の、ダメですか?」


 シロネを見つめる瞳が不安そうに、そして寂しそうに潤む。

 けれど、そんな心配はいらない。

 察しのいい者二人と長い付き合いの妹二人、この後の展開が読めていた。


「シェリーちゃーん!良かったよーーー!」


「え?わぷっ!?」


 シェリー以外が予想した通りの行動をとったシロネ。

 二人は隣に並んで立っていたため、シェリーはシロネに一瞬で捕まった。


「やっぱりシェリーちゃんはすごいなー。かあいいなー。よしよしなでなでー」


「んっ⁉︎んーっ!」


「・・・うん。頑張ったねシェリーちゃん」


「ん、ん・・・」


 初めにわしゃわしゃと撫でられていた時は抵抗していたシェリーであったが、すぐにシロネが優しい声で褒められてしっかりと抱きしめられると大人しくなる。

 なんなら自分から抱きしめ返し、シロネの豊満な胸に顔をうずめてベッタリと甘えてるような形だ。



「・・・・・・」


「シェリー・・・」


「「?」」


(何?二人とも変)


(・・・どうして悲しげな表情をしてるのかしら?)


 静かに抱き合う二人を見つめるアンディとハルナのおかしな様子に、リタとティナが気付いた。

 気付けたのは偶々で、その間は一瞬だった。

 その後すぐに二人は平常に戻り、何事も無かったように振る舞う。


(この様子。こちらが違和感を持って窺ってたの気付かれてる)


(二人とも、まだ何も伝える気はないってことね)




「あの、シロネ、さん。ありがとうございました。私はその、錬金術の練習に戻りますね」


「あ、うん頑張ってね」


「では、また」


「またね」


 お互いに回していた腕を解くと、少しぎこちない挨拶をしてシェリーが店の奥にある錬金術をするための部屋に戻っていった。


 他の面々はその後ろ姿を見送る。

 ただ、見送った後もその場が静止したようにそのままだ。

 そんな止まった空間の中、しばらくして最初に動いたのはシロネだった。

 シェリーの背に向けて振っていた手を下ろすと、シロネはすぐアンディの方へ向き直り、質問を口にした。


「アンディさん、答えれるなら教えてください。シェリーちゃんに何があったのか。どうしてここで預かることになったのかを」


 正直部外者が触れてはいけない質問かもしれないが、シロネはどうしても気になった。

 抱き合って気付けた。シェリーの身体が微かに震えたこと。

 シェリーが抱き付いてきたのは単純に甘えるためだけでなく、寂しさや悲しさを堪えてるようにシロネは感じた。

 だから知っておきたい。正式には違うけど、初めてできた大切な弟子だと思っているから。



「それについてだが、悪いが俺らからは教えることは出来ない。シェリーに自分の口で伝えたいと言われてるからな」


「そう、ですか・・・」


「ああ、その時まで待ってやって貰えないだろうか?」


 そう言われたらシロネは待つという選択肢しか無い。


「分かりました。じゃあその時までいっぱいお姉ちゃんとして甘やかします!」


「・・・程々にな」


 何故かここで気合いを入れるシロネに皆は呆れ顔。けれど先程とは違い、笑い声も聞こえる明るい場となった。



「そういえば貴方達、姉があんなに妹増やそうとするの何とも思わないの?ほら、本当の妹として」


 ハルナは近くにいたリタとティナに尋ねる。


「あーそれは問題ないというか、もうそれについては手が付けられないというか・・・」


「サルザードではシェリーのみ。しかし、シャンスティルには両手両足の指の本数では数え切れないぐらいいたりする」


 予想よりも上を行く解答に呆気を取られるハルナに、二人はそれについて詳しく語る。

 シロネがまだ小さかった頃、まだただの可愛い物好きだった時の話。



 シロネは母親であるヘレナの手伝いでよくアイテムの配達をしていた。


 明るく元気に、それはもう子供が親しみやすい女の子であり、よく子供と配達終わりに遊んであげたりしていて人気者になる。

 そこでみんなはシロネのことをお姉ちゃんと呼び甘えるものだから、シロネもその気になってリタとティナにするように姉として振る舞うのだが、段々年下の子供の面倒を見るイコール姉としての行動となった。


「こうしてどんどん悪化して、放って置けない子や甘やかしたくなった子がいればお姉ちゃんと名乗り構い出す不審者になったとさ」


「ちょっとそこ!好き勝手言わないでよ!」


「でも間違ってない。それに妹扱いならまだいいけど、弟扱いの子は悲惨だった」


「うっ・・・」


「何か容易に想像出来るわ」


 ティナの話には続きがある。

 シロネが子供と遊ぶのに、夏場は錬金術で造られたやけに広い噴水でよく遊んでいた。

 当然そんな場所で元気にはしゃぐ子供と遊べば全身水浸し。服装も暑さから薄着であり、濡れれば張り付き透けてと大惨事。

 しかし、そういうことをあまり気にしないシロネは周りの目も気にしない。

 だから男の子のいつもと違う反応にも一々気にせず、被害が広がってしまった。


「うわ、思ってたより中々酷い事してるわね」


「シロ姉は小さい頃からスタイル良かったから更に、うん」


「幸いお母さんから上も着けるように言われてて色々助かったわね」


「ん、けれど男の子はみんなシロ姉で性に目覚めてしまい、シロ姉という標準も高く、結局思春期にはシロ姉に告白するもの多数となった」


「そして弟としてしか見られてないから、当然本気と取られず撃沈するのよね。私達が指摘するまで冗談だと思ってたらしく、笑顔で断ってたのよ」


「酷すぎるわ・・・」


「それは、もっと反省します・・・」


「と言いつつ、育ち過ぎた胸を自然に強調するのはあまり気にしないのね」


「う、うぅ・・・それも直します・・・」


 どんどん縮むシロネ。

 追い打ちされる度にへこんでいく。

 だがそんな時、シロネに助け舟が出された。

 

「はぁ、あと一、二時間でダンジョン帰りの冒険者がアイテムの補充のために立ち寄るかもしれないから、そろそろ私語を辞めてもらおうか」


 正直アンディはこの場に居ずらかったが、伝えることがあったので待っていた。

 先の事があったのでどれぐらい待ったら静かになるか期待したのもあるが収まる気配は全くのなし。さらにはおかしな方向へ会話が向かったので流石に声を掛ける事となり、結局また姦しくした四人は謝罪を口にする事となる。



「まあいい。取り敢えずイベントのため皆に準備を頑張ってもらう事となるが、ディーニア姉妹には当日まで多めの依頼をこなすのと、当日スタッフ作業と錬金術の実演よろしく頼む」


「「はい、頑張ります」」

「ん」


「ハルナはクルルと協力して、準備とポスターに日付を付け足して掲示板に載せる許可を取ってくれ。悪いが俺は数日出掛ける必要がある。すまないが頼めるか?」


「ええ、こっちでやっておくわ。開催日は二週間後で良いのよね?」


「ああ、それで良い」


 話しはまとまった。

 流石に店で長時間騒がしくし過ぎたので、シロネ達はさっさと退散する。

 そして三人は今、家までの帰り道を歩いていた。



「うう・・・、今日は散々だったよ」


「妹としてはこれを機に、もっと周りの目を気にして欲しいわ」


「ん、取り敢えず外で胸を寄せるのも乗せるのも禁止」


「はい・・・」


「よし、あとシロ姉の胸はこれ以上大きくなるのも禁止で」


「はい・・・っていやそれ私どうしようもないよ?それに最近また少し大きくなって、あっ!」


 三人並んで歩いていたのに、話している途中ピタリと足を止めた二人の様子からシロネは失言に気付く。

 そう、地雷を踏み抜いていた。

 振り返り二人の表情を見ると、獲物を狙う目を向けられていることが特に気になるシロネ。


(まずい、これはあれだね)


「逃げるが勝ちだよ!」


「待ちなさい!」


「大人しく胸返す!」


「そんなの盗ってないよー!」


 距離にして走って三分も掛からない短い帰り道とはいえ、往来の中わーぎゃーと騒ぎ目立つ三姉妹なのであった。

 結果は身体能力が大きく勝るシロネは無事家まで逃げ切り、夕飯メニューで交渉、二人の理不尽な怒りを収める。そして街中で騒いでしまった反省会もセットで行われた。


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