第二十三話 天才少女に才能感じちゃいます!

「それじゃあ行こうか、シェリーちゃん」

「・・・うん」


 あれから一時間の激闘の末、ついにシェリーちゃんを勝ち取った。

 てのは流石に冗談で、話し合いの結果、週に三日ほどシェリーちゃんをこちらに招いて錬金術を教えることになりました。

 報酬には素材を貰えるそうですが、用意できなそうならお金でも良いと伝えてあります。

 納品の際の支払い方法はこちらで決めさせてもらえるので、シェリーちゃんに錬金術を教える報酬はアンディさんの都合に合わせたいと思います。



「あ、そういえばお昼ご飯の食材買ってこなくちゃ何も無かったんだ。少し買い物に付き合ってくれるかな?」

「うん」


 すっかり警戒されてしまったのか、抱きしめたシェリーちゃんを解放してからすごくよそよそしくなった。返事しかしてくれない。

 まあこれは自業自得。暴走して失った信用は頑張って取り戻して見せましょう。もう一度お姉ちゃんと呼んでくれるぐらいには。


「そうだ。シェリーちゃん、苦手な食べ物無いかな?食べられないものとか。あとは好きな食べ物も教えてくれたら嬉しいな」

「・・・臭い食べ物は嫌い。それ以外なら、何でもいい」

「そうなの?それは偉いね。妹が二人いるんだけど、どっちも野菜嫌いなんだよ?普通に出すだけだとほとんど食べてくれないの」

「・・・・・・子供みたい」

「あはははっ!そうだね。まだまだ舌が子供なんだよね。シェリーちゃんより年上なのに子供っぽいんだよ。もし目の前で好き嫌いしてたら言ってやって」

「ふふ、うん」


 やった!質問に答えてもらった形だけどちゃんと喋ってくれた。それに初めて笑ってくれたよやったね!

 けどリタとティナには悪い事した。

 今日の昼食に二人が好きなミートパイ出すから許してね。




「えーとお肉はー・・・、えっ、ミノタウロスのお肉やっすい」


 まあサルザードならミノタウロスが出てくるダンジョン一つぐらいあるよね。シャンスティルより半額近く安いのも別におかしくないのかな?

 なんか一月ぐらい前にシャンスティルで大量に食べたの損した気分。

 それと明らかに通常の物より別のグレイトミノタウロスの肉という二十倍近く高い値段の物もあった。

 多分、バレッタさんがよく出してくれた物って・・・。うん、見なかった事にしよう。


「お、嬢ちゃん目の付け所が良いな!ウチは新鮮で安く美味いをモットーにしてんだ。ミノ肉が欲しいならまけとくぜ!」

「本当ですか!ありがとうございます〜。やったねシェリーちゃん、今日のお昼ご飯にミノ肉が食べられるよ!」

「おー連れの嬢ちゃんも可愛いな!ならもう一つ買ってくれたら二つの合計金額を四割引きにしてやるよ!」

「わあすごい!おじさん男前すぎます!」

「いっぱい食べて大きくなんな!」

「ありがとう、ございます」

「良かったね。シェリーちゃん」


 買い物はさらに続き、野菜や日用品、そして錬金術の素材を買うためにあちこち色んなお店に寄った。


「錬金術するのに鉱石の類いは大きすぎると持ち運びづらいし、錬成する時間も長くなって難しくなるから細かく小さいのを数揃えた方が良いよ。もちろん費用が同じならだけど」


「魔物の素材で皮とかは綺麗な物よりズタボロになってる方が錬成しやすいんだよ。だけど爪とか鱗などの硬い部位は原型保っている綺麗な状態の物が良いよ。錬成は難しくなるけど、多く魔素を含んでて良いものが出来やすくなるの」


「この薬草は根の部分に薬効が集まってるから錬成する際は全部突っ込んじゃって。あ、あっちのは根の部分に多少毒素含まれてるから注意が必要だよ。ここで見ただけだと分かりづらいから後で図鑑貸してあげるね」



 ふぅ、今必要ない物もちょっと色々買い込んじゃったけど、シェリーちゃんに軽く素材について教えれた。

 シェリーちゃんはお店を回っている間、また返事をしてくれるぐらいしか喋ってくれなかった。しかし、ちゃんと目は真剣だったからムダにはなってないと思う。

 もう少し外を回って色々と教えたかったが、そろそろお昼になる。

 家には腹ペコになっている二人がいるから急いで昼食の用意しないとね。


「それじゃあ家に向かうね。たくさん買い物に付き合ってくれてありがとう」

「・・・ううん、こちらこそ、色々教えてくれてありがとうございます」


 こ、これは少し距離が縮まったかな?

 買い物始める前より近くを歩いてくれるシェリーちゃんを見て、少し嬉しくなりました。




「ただいまー」

「お邪魔します」


 私はリビングに届くぐらい、シェリーちゃんはボソリと声を出した。


「ん、おかえり。あっ」

「おかえりお姉ちゃん。あーーー!」


 何故かわざわざ出迎えてくれた二人。

 けど、玄関で靴を脱いでいた私達を見て驚いてる。


「お姉ちゃん、ついにやっちゃったの?」

「シロ姉、犯罪は良くない」

「どうして犯罪疑われてるの⁉︎ああ、シェリーちゃんも引かないで!」

「でも、アンディさんのお店で・・・」

「しまった!既に信用なかったよ!」



 とりあえずリビングに場所を移し、リタとティナにはアンディさんと話しの内容と、シェリーちゃんを家に連れてきた経緯を話した。


「なるほど、シェリーも錬金術師なのね」

「シェリーもスライム錬成する?」

「どんな事出来るのかしら?」

「スライム良いよ。ペチャペチャプニプニで。弾力が面白い」

「あ、あの・・・」


 二人の興味はほぼ錬金術にしか無いので、錬金術師の仲間が出来て嬉しいのだろう。すごく積極的に構い始めた。

 あとティナのスライム推しがすごい。


「私は昼食作るから、それまで一緒にアトリエに行ってきたらどう?シェリーちゃんが独学でどこまで出来るのか教えるためにも知っておきたいし、そこまで時間が掛からないポーション錬成してみてよ」

「は、はい」

「私のアトリエで錬成して良いから、リタとティナは案内してそのまま見ててあげて」

「分かったわ」

「ん」


 リタとティナはシェリーちゃんの手を引いてリビングから出て行った。

 うーん、二人の勢いには終始押され気味だったけど、シェリーちゃん大丈夫かな?


「気になるし早く料理して私もアトリエに行かなくちゃ」


 ・・・と、まあどんなに急いでも一手間掛かる料理。

 時間は結構経っちゃってたけど、リタとティナが付いてるし問題ないよね。

 私はダイニングのテーブルに料理を運び、配膳まで済ませてから三人を呼びに行くためにアトリエに向かった。




「三人とも、ご飯出来たけど調子はどう?」


 部屋の中を覗くと、三人は作業台の上にある液体が入ったひとつの瓶を中心に何やら話し合っていた。

 とりあえずリタとティナはちゃんと見守っていてくれたようだ。良かった。


「お姉ちゃんお姉ちゃん!シェリーが錬成したこれ鑑定してみて!」

「ん、とってもすごい」

「そうなんだ。どれどれ、【鑑定】」


 うーんハイポーション?

 頼んでたポーションではなかったけど、ハイポーション錬成できるなら初心者って訳では無さそうだね。

 品質はまあ経験の少なさか、良質って評価はまだ付けられないかな。


「すごいね。ハイポーション錬成出来るんだ」

「それだけじゃないのよ。それ、ポーションひとつ分の素材しか使ってないわ」

「え・・・それかなり高度なテクニックだよ?」


 錬金術師の能力や才能で、その人が行う錬金術は大きく変わる。

 いつも私達がポーションで使用する素材は、ほんの少し薬効がある薬草やキノコといった物で、ハイポーションほどの効力がある物を錬成するのはかなり厳しかったりする。

 けれど私が一度の錬成で大量のアイテムを錬成するのが上手いように、個人で得意とする錬成に違いがある。

 シェリーちゃんの場合、聞いた話しと錬成した結果から見るに、その類稀なる魔力コントロールとセンスで素材の性質を増強させる能力がずば抜けてすごいのだと思う。

 だから少量の回復効果がある薬草でハイポーションを錬成できたんだね。完成品にするまでの形成が甘く、折角増やした回復効果が多少減ってしまってギリギリでハイポーションとなれた状態って感じだけど。


「シェリーちゃん、同じ素材使って一度に錬成出来る量と休まず続けて何回出来るか分かってたりする?」

「えと、一度にはこの瓶三個分、休まずに五回錬金術したら魔力が切れました。試した事あります」

「なるほど・・・うーん、これは知識よりは経験を重ねて能力伸ばした方が良いね。それで錬金術してて気になる事はリタに相談すると良いよ。二人の錬成は似ているからね」

「それは・・・そうね。シェリーの錬成は私と一番近いわね」


 正直、教えるとしても私がする大量の素材を用いて一気に完成品を作る錬金術と、シェリーちゃんの素材のポテンシャルを引き伸ばして良い物を作る錬金術とでは結構違うんだよね。

 錬成する感覚は魔力を広く均等にコントロールしながらまとめて作業する感じと、一点集中させてより良くする為に突き詰めていく職人技の違いと言えばいいのかな。

 これには私やティナより、リタの錬成が一番近いので相談役としては打ってつけなのだ。


 リタはゴーレムを錬成する際、特に金属や魔鉱石を素材として大量に使用している。

 素材の硬度は錬成において難易度を上げる一要因になっており、硬ければ硬いほど一つ一つの素材に必要な魔力量と時間、そして分解された状態のそれらを一つのアイテムとして形成し、完成へ至るまでの魔力コントロールによる労力は尋常じゃなく、とても大変なのだ。

 だから私達三姉妹の錬金術の中で、一番素材の扱いに重点を置いているリタに錬成での相談役を任せようと思った。


「それじゃあシェリーちゃんは、しばらく錬成を見てるから完成品の質を上げてこっか。分からない時はリタにコツを聞くって事で」

「よろしく、お願いします」

「ええ、任せなさい!」


 あのリタも年下の子から頼られて素直に嬉しそうな反応をする。

 誰の前に出ても突っぱねるような物言いしなくなれば良いんだけどなー。

 そんな二人を見ていたら後ろから服をちょっと引っ張られた。


「ティナは?」

「あ、ティナはー、そうだねー・・・、私と交代で素材やお母さんに教えてもらった事をシェリーちゃんに教えるのはどう?」

「むすー」

「うわー不満そう。なら錬成したの見せて、どんな物が作れるのかってお手本になってよ」

「ん!任せて」

「あ、危険なのは無しだからね?」

「もちろん」


 まあ流石に小さい子の前に危険な物は出さないでしょう。任せて大丈夫だよね。だよね?


「あ、そうそう私がシェリーちゃんの錬金術見てる日はリタとティナに仕事して貰うから。はい、これ今日の依頼分の注文書」

「「え」」

「それと錬金術はお昼ご飯食べてからだよ。冷めちゃう前にダイニングへ行きましょうね〜」


 私はシェリーちゃんの手を引いてアトリエから出る。

 今まで任せきりしていた引け目からか、後ろの妹二人は控えめに、だけど自分の錬成する時間がもう少し欲しいという声を上げるが、しばらくは我慢して仕事を頑張ってもらう。

 だって最近仕事と家事ばかりで、私にも癒しが欲しいんだもん。


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