第15話 堕者の力
この人マジかよ。考えは理解できないけど行動は理解できる。要は俺が使える人間かそうでないか品定めってとこだろう。半年間のあの訓練で合格もらったと思った俺が馬鹿だった。
すぐに腰に装着されたブレードに手を当てる。
「今からいくつかの説明をする。それまでコイツは解放しないから安心しろ」
「これって隊長の独断ですよね? 正直パワハラとかってレベルの話じゃないですよ」
「ああ、もちろん私の独断だ。ここで勝てないようなら才能がないだけの話、そんな奴はいらない。そして逃げるならそれも同じ、私がお前を始末するだけだ。報告書など上の者は誰も興味がない。お前の死を哀しむのはせいぜい親族くらいなもんだ」
つまりはどっちにしろ俺はここで剣を抜いてこの化け物を殺さなくちゃいけない。ただ本音を言えば少し興奮もしてる。GSWって部隊に俺も少しは馴染んできたってことなのか、今ここでコイツ一匹仕留められないようじゃ到底泪奈は救えない。
デジタルアラートを操作する、GSAMの解除、ブレードに高周波を送る。
腰に装着したブレードの鞘が鈍い機械音を放ちながら蒼く輝き始める。
「どんな手段でも、どんなに残酷でも構わない。ここにモラルなど存在しない。お前の力を証明しろ」
「ひとつだけ、ひとつだけ確認させてください」
「聞こう」
その答え次第で俺は全力で挑める。
「この人は、誰なんですか?」
「お前は面白いな。安心しろ外の世界の人間を捕まえてきたんじゃない。壁内で力のない女に性的暴行を加えていた屑だ。過剰にゲヘナを与え、今は本能的に貪る事だけに意識が向く。人間などと思うな」
間違いない。殺していい生物だ。
ブレードを引き抜いたと同時に俺はコイツを殺す事に決めた。
そして俺の覚悟を察した柴崎隊長は鎖を切り離した。
もはや意識があった頃の記憶はないであろう堕者は、涎を垂れ流しながら俺目掛け走り出す。その速度は人間のそれではない。下手したらオリンピック選手のような脚力、これがゲヘナの力なのか。
しかし凄まじいのは運動能力だけ。乱暴に動き回るだけの堕者の攻撃なんて、今の俺に当たるはずがない。鋭く尖った爪を立て俺の肉を抉り取ろうと、単調な左右の攻撃。俺はその全てを見極め同じく左右に小さく動き攻撃を避ける。
「ぐるぅぁぁ!!!」
攻撃が当たらない事に苛立ったのか、今度は全身を使い飛び掛かり攻撃。まるで子供を相手にしてるようだ。
「なんだそれ、甘過ぎる――」
俺は宙に浮いた堕者の心臓目掛けブレードを突き立てる。飛び掛かりの勢いも利用した事により、ブレードは持ち手の寸前まで突き刺さった。
「うがぁぁぁぁ!!!」
作りは人間と同じ、生命の源である心臓を大きく損傷した事によって堕者の命は終わった。
全身の力が抜け、堕者は地面に倒れ込んだ。
俺はすぐにデジタルアラートの操作に移り、GSAMを再度装着した。この瞬間だけ、流石に男の子心がそそられるのは隊長には内緒だ。
「問題ない対処だ中村。まずは二番隊入隊おめでとうと言っておこう」
「俺の入隊は半年も前に済んでるはずです……」
「紙の上で起こった事など私は何一つ信用しない。覚えておけ」
「……御意」
たまに隊長が冗談を言ってるのかそうでないのか、わからない時があるけどこの人の場合冗談はなさそうだ。
何がともあれ一安心だ。半年間の訓練が無ければ間違いなく逆の立場になってた。俺は改めて自分に力がついていることを実感できた。
「戦い終えたところ悪いが、今日の目的はこれじゃない」
「まあ何となくそんな気はしてました」
乱れた呼吸を整える。隊長も俺を認めてくれたようで、付いて来いと手招きをする。この場所からさらに動くらしい。
「一体どこに向かっているんですか?」
「お前はまだGエリアの地形を理解していないだろうからな。その地の名称は通称ネオン街」
「ネオン街、ですか?」
その単語だけで解釈するならば明るい街、なんてものを想像してしまうが、無論それはあり得ないだろう。
俺は隊長からの返答を待ち続ける。
「お前達に合わせて言えば、Gエリア特定区第四区。ゲヘナを制御する堕者グループのひとつ、
「隊長、お言葉ですが本部にそのような報告は……」
「――してない」
聞きたくはなかったがわかっていたことだ。完全に規則違反だ。事が明らかになれば罰則の対象となり得る。
俺達GSWにはいくつものルールが存在する。そのルールを課しているのはGSWよりも上の存在で、俺が知る余地もない組織だ。そしてルールを守らなかった者には多くの罰則が生じる。俺にとって一番好ましくない罰は、感染者に情報を横流しする裏切り行為を働いた者は、血族も含め堕者と認定され抹殺対象になること。
つまり、俺の妹である泪奈もその対象になるということだ。
「私はお前の覚悟を見た。そしてこの半年、私はお前がこちら側に来れるのかどうか見定めていた」
「
「ああ、ただ上の命令に従順な馬鹿正直か、己の目的の為に動く者か」
「……」
「そうだろうな、お前は間違いなく後者だ」
なるほど、俺の情報はこの人に筒抜けているってことだ。下手したら泪奈を逆手に取られ危険なことをさせられるかもしれない。
隊長は一度歩みを止め、俺の方へ振り返る。
「お前の想像は間違えているぞ」
「え?」
「私をあまり甘く見るなよ? お前が後者だと言ったのは、お前の事情を詳しく知っているからではない」
つまりは泪奈のことを知っているわけではないということ。まだ信じ切ることはできないが、それをわざわざ伝える必要性は理解できない。
「勘だ」
「勘って、そんなまさか」
「右目の視力がない私にそんなことは見抜けない、と?」
「いえ、そういうわけでは……」
俺にゆさぶりをかけることが楽しかったのか、出会ってから初めて隊長が笑みを浮かべるところを見た。そして話は続けられたまま歩みが再開される。
「GSWに入隊する者は二種類だ。食欲、睡眠欲、セックス、人間の三大欲求よりも人を殺したいという気持ちが爆発している者。そしてお前のように、自らの命など惜しくもないから、何かそれ以上に目的が存在する者。前者はさっきの堕者を殺す前に、
流石は異常者の集まりの頂点に立つ男。すべての行動に意味があるって訳か。この人レベルの人間と話す時誤魔化しは通用しないな。
なら俺からの遠慮する必要はない。
「仮に俺が前者だった場合、隊長はこの先の行動に変化を付けていたんですか? 恐らく隊長がやろうとしていることは、少なくとも安全ではないはず」
「無論だ。残念だがGSWは組織として機能していない。あまりにも個の力が強すぎるが故に、堕者達も下手に反逆できないだけだ」
「つまり、組織としての強みは皆無ということですか?」
「そうだ。そして本気でこの地を取り戻す為には、規約にも違反して己で動かなくてはならない」
だけど、それだけではこの人が何をしたいのか理解ができない。何の為に規約に反してまで動くのか、この人の原動力は何なのか。そしてこの先何をしようとしているのか。
「私の隊には正直者しかいなくてな、お前の様に裏が大きすぎる存在を待ってたんだ」
「確かに俺には、GSWにも話すつもりのない大きな目的が存在します。ですが、その為に繋がらない危険行為は正直避けたいです。隊長はそんな俺を許すんですか?」
「問題ない」
問題ない? 俺のことを何も知らないはずのこの人が、何故それだけ自信を持って発言することができる?
「また殺すとか何とか言って俺を脅すってことですよね? 結局それじゃあ、アンタの元にはバカ正直者の部下しか残らないじゃな――」
「――ゲヘナに感染した弱い人間を、元に戻してやると言ったなら、お前は私に従順な部下になるさ」
「ッ?!」
血が、全身の血が沸騰する。もう答えがすぐそこにあるのではないかと、俺の脳が叫び始める。
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