第13話 怒りの理由

(もしかしてこれは…取り調べ…?取り調べなのかしら、もし取り調べなのだとすると、噂のカツ丼とやらは出て来るのかしら)


警察のお世話になった事などないオフィーリアは、警察による取り調べの最中に本当にカツ丼が出るのか急に気になり始めた。


ここは警察署でもなければケントは警察官でもないのだが。


「取り調べ…カツ丼…うっ頭がっ…」

「オフィーリア様、大丈夫ですか!?」


微かな記憶のカケラを拾い集めようと、手で頭を抑えうずくまるオフィーリアを見て、ケントは慌てて立ち上がった。その時だった。


「オフィーリア!!」

「あっ、殿下。まだ入って来ていいとはっ…!」


レオンハルトの叫びと共に、扉が勢いよく開かれた。それにケントは焦り、黒髪の魔術師は「止まれ」と睨みつけて制止させようとするが、レオンハルトは歩みを止めようとしない。


「オフィーリアがせっかく目覚めたというのに、これ以上待つなんて僕はもう…耐えられない」


レオンハルトは自身の胸に手を当てて、大袈裟に胸の痛みを表現した。オフィーリアをイラつかせるには、これだけで充分だった。


「だから後から呼びに行くと、言っておいたでしょうっ」

「呑気に待っていられる訳がないだろう」


ケントを無視してレオンハルトはオフィーリアを視界に映すと、その宝石のような双方を潤ませ、両手を広げて駆け寄った。


「オフィーリア!」

「貴様ああああああ!」


オフィーリアは怒りが再熱したように立ち上がった。儚げな令嬢というより、その姿は闘志を燃やす漢といった雰囲気。それは三年も寝たきりだった『悲劇の眠り姫』という事実が、目覚めた僅かな時間で粉砕する破壊力だった。

むしろピンピンしすぎて、そこら辺の令嬢の何倍も健康そうだ。



「あーもうまた振り出しに戻っちゃった!」


その様子にケントは頭を抱えるしかなかった。

黙って先程からただ様子を見ていただけの黒髪の魔術師も、とうとう嘆息した。


しかし、放って置く事は出来ない。

また闘いのゴングが鳴り響いて、第二ラウンドが始まってしまい、オフィーリアによる一方的なレオンハルトへの暴行が再開する恐れがある。ケントは急いでオフィーリアを引き離すそうと必死に説得を試みる事にした。


「オフィーリア様、殿下をお離し下さいっ。殿下に対して何を怒っているのかちゃんと聞きますから、というか今からそれを聞くところだったのに何話をややこしくしているんですか殿下っ」


「オフィーリア、愛してる!僕の愛は昔も今もオフィーリアにのみ捧げている、信じて欲しい!」


「こっちは身動き取れず、言葉も発せずで、ずっとずっとアンタに文句言いたくて仕方無かったのよ!」


オフィーリアがレオンハルトの胸ぐらを掴む。

胸ぐらを掴まれた状態にも関わらず、顔が近いせいか、レオンハルトが嬉しそうにニヤけているのがかなり不気味だった。


「何でも受け止めよう、言ってごらん」


二人の温度差は傍目から見てかなり激しかったが、レオンハルト自身はあまり気になっていない様子だ。


「人が寝ようとしてるのに毎日毎日毎晩毎晩!よく分からない詩の朗読やら、ポエムやら、謎の歌、挙げ句の果ては楽器演奏!うるっっっさいんだよ!!」


オフィーリアは確かに表面上は瞼を閉じて眠っていた。

だが意識が覚醒していた時は起きていたといっても過言ではない。そして再び眠くて仕方無くなってきたのを見計らったかのように、レオンハルトは歌やら演奏やら朗読を始めるのだった。



「嗚呼、やっぱり聞いてくれていたんだねオフィーリア!」

「人が寝ようとしている時に煩いっつってんの!」

「寝入っちゃう前に聞いてほしくて!」

「迷惑なんだってばー!」


「ま、まぁまぁオフィーリア様。殿下も悪気は無かったようですから」


宥めて止めようとするケントを、オフィーリアは鋭利に睨みつけた。


「なら、貴方が仕事で疲れきった体を休めるべく、ようやくベッドに入って夢心地な時に、この王子様を派遣してやりましょうか!?歌と演奏で一晩中妨害してやるんだから!」


「……いいえ、結構です。どうもすみませんでした。私が悪かったです」


確かに想像してみると、死ぬ程のウザさだった。


「僕はオフィーリア専用だからね」


しかも当のレオンハルトは少しも悪びれた様子はなかった。

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