第3話 令嬢達のお茶会

「皆様言っていますわ、レオンハルト様のお妃様はニナ様で決まったようなものだと」


ここはセレスティア国にある王宮内の庭園。

穏やかな日差しの中、薔薇を中心とした色取り取りの花が見事に咲き誇っている。美しく手入れされた花に囲まれ、花に負けない程の華やかな令嬢達が、楽しげに会話をしながらお茶会を開いていた。


彼女達は新たにレオンハルトの、妃候補兼行儀見習いとして宮廷を出入りをしているご令嬢。


中でも一際皆の注目を一身に集めているのは、オリーブ色の瞳に栗色の真っ直ぐな美しい髪を、翠のリボンで彩ったまごう事無き美少女。彼女はニナ・ハートフォード侯爵令嬢。ニナが薔薇色に染めた頬に手を添え控え目に呟く。


「…そんな事はありませんわ」


困ったように零される。そんな仕草や謙虚な物言いも可憐だった。


「だってレオンハルト様のお心は今も昔も変わらず、たった一人の方。オフィーリア様にのみむけられているのですから…」


ニナの瞳が悲しげに揺らぎ、そして自嘲するように視線を落とした。

そんなニナを見た面々は口々に励まそうとする。


「でも、オフィーリア様は目覚める気配が一向にないのでしょう?オフィーリア様がレオンハルト様のお妃様になるなんて、無理ですわ」


「そうですわ。エルトラントへの建前のために、仕方なしに婚約を継続しているだけです。オフィーリア様を王妃にするのは、国にとっても現実的ではないと思います」


「それに三年経ってもお目覚めにならないのだから、今後も目覚める何て思えませんしね…」


「こんなにも長い間眠り続けていたら、今後もし眠りから覚めたとしても、身体が衰弱しきって普通の生活に戻れるかどうか…」


皆この国の国民でもあるのだ。同じ女として、オフィーリアには同情もするし、もちろん自国の跡継ぎであるレオンハルトを守ってくれた事への感謝も忘れてはいない。しかし国の未来を思うからこそ、相応しい人に王妃になって欲しいと考えるのは当然の事だった。


三年も寝たきりだった女性が、ゆくゆくは国母として王妃の務めを全う出来るのか。

それ以前に、妊娠出産に耐えうるのか甚だ疑問である。健康な母体であっても、運悪く儚くなってしまう事など珍しい事ではないのに。


そして今は三年の月日が経ったが、三年後、五年、十年後とレオンハルトを待たせろと言うのか。


様々な思いを胸に抱える令嬢達の話を聞きながら、ニナは曖昧に微笑むしか無かった。

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