呪われ眠り姫の受難

秋月乃衣

第1話 眠り姫

 セレスティア国、王宮のとある一室。

 陶磁器のオルゴールや、ガラス細工の置物に陳列されたテディベア。白とエメラルドグリーンのチェストには貝殻モチーフの金の取っ手。この部屋には主のために、選び抜かれた調度品や小物類が品良く飾られている。


 しかしどんな素晴らしく貴重な品を並べようと、決して喜びの声を上げる事のない主人。

 ここには目覚める事のない『眠り姫』と呼ばれるお姫様が眠っている。



 彼女の名前はオフィーリア。紫銀の艶めく長い髪。髪と同じ色をした、長い睫毛に縁取られた瞼はピタリと閉じられたまま。

 頰は薔薇色で血色もよく病魔に犯されている訳ではない。一定のリズムで呼吸が繰り返され、ほんの僅かに胸が上下するのみ。それ以外は動く事はない。


 精緻な唐草の模様が描かれた、紗の天蓋ベッドで眠り続けるオフィーリア。

 彼女の瞳が閉じられていても、その圧倒的な美しさは微塵も霞む事はなかった。


 彼女が目を覚まさなくなっておよそ三年。

 以前は確かに普通の人間らしく夜に眠り、朝に目覚める生活を送っていた。


 それが何故現在、眠り続けたままでいるかというと、それは彼女の婚約者でありこの国の王子に関係する。


 三年前、セレスティア国の王子レオンハルトが魔術師に襲撃された際、咄嗟に婚約者であるレオンハルトを庇ったのがオフィーリアだった。襲撃者は魔術師であり、怪しげな魔法を放った。

 咄嗟にレオンハルトを庇ってしまったオフィーリアは、魔法を浴びて以降眠りについたまま目を覚まさなくなってしまったのだった。



『眠り姫』の名はオフィーリアこと、オフィーリア・リュミエール。彼女は隣国、エルトラント国公爵家のご令嬢であり、祖父をエルトラント国王に持つ、王族の血を引く高貴なお姫様。


 オフィーリアの美しさはエルトラントに留まらず、このセレスティア国までも知れ渡るほどの美姫。

 守られるべき高貴な姫君が、自分の命を投げ打ってまでセレスティア国の王子を守ったのである。

 美しき姫君の愛に国の人々は、敬意と感謝と悲しみを織り交ぜた涙を流した。

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